ドラゴンとお姫様
ある所にドラゴンが居ました。
大きく、強く、硬く、尖っている、力の象徴とされて恐れられるとても強いドラゴンが。
だからほとんどの人は気づかなかったのです。
“彼女”が本当はそんな自分が大嫌いな事に。
だから皆気づかなかったのです。
“彼女”がお姫様を欲しがった理由に。
「なんで泣くの?」
「だって、だって」
「あなたが取ったんでしょう」
「でもでもこんなの間違ってる」
ぐずぐずと、小さな小さなお人形のようなお姫様の前で大きく、強く、硬く、尖っているドラゴンが泣いています。
そんなドラゴンに怖じる事もなくお姫様が一喝します。
「あなたがわたしに寄ってきたからみーんな逃げ出して二人きりになったんでしょう!」
「ぴぃ!」
大きく、強く、硬く、尖っているドラゴンのつま先の先の先。
ドラゴンの身体からすれば一欠けらという部分をお姫様に叩かれてドラゴンはますます情けない悲鳴を上げました。
それを見て、お姫様は呆れたよ、といった半眼でドラゴンのつま先の先の先を撫でながら言いました。
「そう。あなたとっても臆病なのね」
「……うん」
永い齢経た存在とも思えない弱弱しいありさまで頭を垂れるドラゴンの鼻先をお姫様が抱きました。
「あなたそれじゃあとっても辛いでしょう。あなた魔法は使えて?」
「使えるけれど……」
「じゃあ、魔法でわたしとあなたの心を入れ替えましょう」
「ぴぃ!」
お姫様からの突然の申し入れにドラゴンはまた啼きました。
「なにをおびえているの?」
「だって、こんな怖いものになるのは怖いでしょう」
そういってお姫様のだっこから鼻先を外して後ろを向くドラゴン。
「なにをいってるの?あなたみたいに大きくて、強くて、硬く、尖っているものになればそれこそ怖い物なんかないわ」
「でも私は怖い物が一杯あるよ」
「わたしにこわいものはひとっつもないわ。わたしが強い体であなたを守るから。あなたは弱いわたしの身体に入りなさい」
「……いいの?」
「いいのよ」
お姫様は、ちらちらと自分を盗み見るドラゴンに向日葵のような笑顔を向けました。
それをみて、とうとうドラゴンは申し訳ないという気持ちが、ずっと憧れていた守られる立場への誘惑に負けてしまいました。
「じゃあ、私はお姫様と心を取り替えます」
「うん。いつでもいいわ」
「……今から取り替えます」
「いいわよ」
「ほんとのほんとに取り替えます」
「いいっていってるじゃない!」
「ぴぃ!」
パチーンとつま先の先の先を叩かれて、ドラゴンは大層慌てながら魔法を使いました。
「……わあ、スゴイ力を感じるわよ」
「ふぇ……大きい……怖い……」
「だいじょうぶ、だいじょうぶよ。わたしがあなたを守るから」
「ふ、ふえぇぇ……」
その後、一度は逃げた父王様や騎士たちが恐る恐る戻って来るまで。
ドラゴンだったお姫様はドラゴンになったお姫様にしがみついて震えていたのでした。
そして、この取り換え子の秘密は誰も知る者のいないまま。
ドラゴンだったお姫様はドラゴンになったお姫様に守られて一生を終えたのでした。




