雨と蕾
初めて書いた小説です。とても短くて、まるで、日記のようですが、どうか多目に見てくださると嬉しいです。
今日は高校の入学式..。皆が期待を膨らませる中、私は不安で押し潰されそうになっていた。
教室に入ると、皆は早速、話始める。いったい、いつのまに友達になったのか..。
そんなんで賑わう教室で、私はただ一人、静かに座る。-いや、もう一人、静かにしている人がいた。私の斜め後ろの席の男子だ。静かにしているのは確かだが、キョロキョロと辺りを見渡したり、急に上を見つめたり、なんだかそわそわしている。
不覚にも、私はその男子のことを可愛いと感じて好意をもってしまった。
私が、ぶるぶると頭を振るのと同時に、教室のドアが開いた。
「よーし、静かに!」元気が良く、力強いその声で、教室は瞬く間に静かになった。
「俺は木川 剛、お前らの担任だ!よろしくな!」
「じゃあ、お前らも、自己紹介やろうか?」木川先生の言葉で、右端の生徒から、自己紹介が始まった。
「私は、高田 雪菜です。よろしく、お願い、します」
私の番が来たとき、皆の目が私に集中したとき、私はとても苦しく、なにかで縛られたように感じた。
そして、数人が自己紹介して、例の男の子の番が来た。
「僕は..僕は桑原 勇気です!!」例の男の子、桑原くんは、とても大きな声で叫んだ。
「見ないで!!やめて!」クラスの皆が驚き、横の人と話し出すと桑原くんは、そう言って顔を隠してしゃがんだ。
「あっはっはっはっ!!」クラスの数人が笑うと、それが広がり、ほとんどの人が笑い出した。
「元気がいいなー!桑原!いいことだ!」先生も、笑うだけでなにもしない。気づいているはずなのに。
そしてそのまま、自己紹介は終わり、いろいろな説明なんかの後に解散となった。
放課後は酷かった。
桑原くんは、数人のクラスメートに囲まれてひやかされていた。
私は何かをしようとしたらしいが、足が反対方向へと進んでしまい家へと帰った。
翌日、桑原くんは、昨日のことがすべてなかったことであるかのように、クラスの人、一人一人に話しかけた。無視をされても、何度も。謝ったり、笑いかけたり。
そんな日常が何ヵ月が続き、ついにはクラスの半分以上が、彼をいじめ始めた。
「うぜぇんだよ!!離れろ!!」「そうよ!!もうしゃべんないで!!」
それでも彼は止めない。まるで、それが使命であるかのように、ずっと続けている。
まぁ、私も他人事ではない。まるで、運命であるかのように、幼稚園から今までずっと、私の幼なじみの男子がいる。彼の名前は狩野 信二。私が暗くなってしまった原因だ。小学校の頃の、私のとある失敗を、彼はずっと、噂に回し続ける。
今回も例外ではなかった。
昼休みに、教室で寝ていたら、それは聞こえてきた。
「ねぇ、高田さんってさ...」
あぁ、また、私の生活が狂うのかって..もう、苦しくてたまらなかった。
数日後、私の予想通り、私に対してのいじめが始まった。
盗まれたり、邪魔されたり、ついには殴られたりした。
優しい生徒は哀れみながら私を眺めて、先生は見て見ぬふり。
地獄の完成だ。そんな地獄が数ヶ月続いた。
私は、耐えきれずについに屋上へと来た。少し蒸し暑い風に包まれながら、手すりへと向かう。シューズを脱いで、手すりの向こう側へと片足を伸ばし、もう片方の足も伸ばす。
-と、その時。
「高田さん!!」誰かが大きな声で叫んだ。暖かく、体に響く綺麗な声。桑原くんだ。
同時に今の自分の格好が連想される。とても恥ずかしい。私は、あせって、足を踏み外す。
スローになった世界で、彼、桑原くんは、私のもとへと走り、私を抱きしめた。
「桑原...くん。どうして、どうして私を助けたの?」
誰かに相談すれば済む。そんな軽い話ではなかった。
いや、ほんとはそうなのかもしれない。
ただ、自分の中でできたプライドが私を離さなかったのだ。
家族、先生、誰でもいいから、気づいてほしかった。
そうでないと、さらにひどくなる気がしてやまない。
誰かに優しく声をかけられたい。誰かに誉めてほしい。
誰かに認められたい。誰かに抱きしめられたい。
誰かに...。誰に?..。桑原くんに、抱きしめられたい。そんなことばっかり、頭に浮かんでいたのだ。
「ふふっ。あははは」私は笑った。清々しいほどに大きな声で。
私も気づいていた。この世界で一番不幸なのは私。などというどっかのヒロインのようなことを考えて、自分はなにもしないくせに、一人だけ王子様に助けられるなんて。ほんとにバカだ。ほんとに。ほんとに。
気づけば、私の目から涙が溢れていた。自分があわれに思えた、自分が救われる夢を見ていた。でも、桑原くんのことを哀れむことはできなかった。
自分の人生は不幸だけど、他人は自分よりも幸せだ。
そんなことばっかり考えて、私は自分だけを救おうとしていた。
いや、実際。自分だけ救われてしまった。
でも、これは終わりではない。あくまでも始まりだ。
皆に鬱陶しがられて、嫌われることの多い雨は、蔑まれながら生きてきた、枯れかけた蕾を育てて、いつか綺麗な花にする。
花と雨は、いつでも一緒だ。その光景は美しく、芸術である。
そして、黙っていた桑原くんは、口を開いた。
「僕は、高田さんが好きだから。好きだから、助けた。」
今なら言える。もう、なにも怖くない。恥ずかしいことなんてなかったのだ。
「ありがとう。私も、桑原くんのことが」
だから私は、誇りを持って、決意を持って、すべてをこめてこう叫ぼう。
「大好きだよ!!」
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翌日、暗かった頃の私の姿は、もうどこにもなかった。
鬱陶しいと思われていた桑原くんも、今ではおもしろくて、楽しい男子になっている。
過去ばかりを見ると恥ずかしくなる。そうすると、『今』に対応できなくなって、それがまた、自分の嫌いな過去になる。前ばかり見ても、転ぶことはある。
それだから、堂々と、優しく、丁寧に、『今』と向き合うことが、一番楽で、重要なことなんじゃないかって。そう、思った。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
他にも、いろんな作品を書こうと思っているので、どうかよろしくお願いいたします!