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革命(レボリューション)は突然に。  作者: 江洲 隆渡
第一章 革命の始まり編
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第一章5  『すれ違い』

「っつ?!」


 信じられない光景を前にして、僕は後ずさって廊下の壁に張り付いた。心を許しかけていた汐里さんが、とてつもなく怖くなった。


「……あっ、ごめんなさい! また私いきなり能力を」


 汐里さんが慌てて壁から手を離した。


「……えっと、汐里さんはその、超能力者、なんですか?」


 そうだ。何でこんな重要なことを聞き忘れていたのだろう。


「そうよ。私は氷属性の適性があるわ」


 汐里さんは一瞬怪訝そうな顔をしたがはっきりとそう言った。


 ……そ、そうか。軽く目眩がした。


 やっぱり汐里さんは超能力者だったのか。でも、汐里さんの能力って明らかに超能力の枠を超えてると思うけど。ていうか、氷属性って……なんか魔法みたいだな。もしかしたら、仁が言ってたようなやつもこの世に存在するのかもしれないな。


「それで、玲生くんは何属性の適性があるの?」

 

「えっ……」


 不意打ちすぎて意味がわからなかった。

 汐里さんは当然のように僕の答えを待っている。少しの間、沈黙が訪れた。


「もしかして言えない理由でもあった?」


 まさか、僕は汐里さんに超能力者だと思われているのだろうか。なんで? 普通の高校に通っている僕が超能力者のわけないじゃないか。そもそも僕は、超能力者が存在するってことを今日初めて知ったというのに。


「あの……僕は普通の人間なんですけど」


「えっ、ど、どういう事?」


 汐里さんは明らかに動揺した。


「えと、だから僕はその、超能力なんて使えな――」

 

「そんなわけない! リーラから聞いたもん。革命はもう始まっているんでしょ!」


 汐里さんは声を荒げて僕に詰め寄った。


「えっと、革命って何ですか?」


 僕が後ずさりながらそう聞くと、汐里さんは哀しげにうつむいてしまった。


「そんな…… それじゃあ、私は外の世界でも……」


「その、ごめんなさい」


 何がなんだかさっぱりわからないけど、汐里さんが悲しむ姿を見て、少し罪悪感を覚えた。


「えっ、いや、別に玲生くんのせいじゃ無いから気にしなくていいの。あっ、玲生くん。この教室は何するところなの?」


 汐里さんは顔をあげて、高校棟の端にある小さな教室を笑顔で指さした。明らかに無理しているような作り笑いは、見ていて痛々しかった。

 僕は何か力になってあげたいと思った。でも何をしたらいいかわからない。だって、僕は汐里さんを知らなすぎるのだ。常識も境遇も何もかも……


 いや、それは詭弁だ。単純に僕は汐里さんが、超能力者が怖いんだ。だってしょうがないじゃないか。もし、あのとき汐里さんの氷の槍があと数センチずれていたら、僕はこの場にいないかもしれないのだから。


「あっ、これは生徒専用の会議室です。生徒会に申請すれば誰でも使う事が出来るんですよ」


 だからもう、汐里さんの事情に関わろうとするのはよそう。これからは、汐里さんを普通の転校生だと思って、普通に学校を案内してあげる事にしよう。うん、やっぱりそれがいい。

 

 二人は再び高校棟を歩き出した。


「……友達になれると思ったのに」


 少女の口からぽつりと漏れた呟きが、玲生の耳に届く事はなかった。

 


        *

 


「4階はこれで終わりです。次は3階に行きましょう」


 高校棟の2階3階4階はほとんどが普通教室だから、特に汐里さんに説明するような事はなかった。僕は教室の前を通るときに、そこが何組の教室であるかだけを告げた。


「ねえ、玲生くん。どうして4階には1年生の教室しかないの?」


 汐里さんから、予想もしていなかった質問がとんできた。


「えっと、2年のは3階に、3年のは2階にありますよ」


「なんで学年ごとに階が違うの?」


 汐里さんは更に質問を重ねてきた。


「え、えっと…… その方が教師にとって都合がいいからじゃないですか?」


 そんな事、考えたことも無かったから、少し煮え切らない答えになってしまった。

「ふーん、そうなんだ」


 幸いにも、汐里さんはそれで納得してくれたようだ。僕は小さく安堵のため息をこぼした。

 でも、何でまたそんな当たり前の事を聞くんだろう。もしかして、ずっと研究所とやらにいて学校というものを知らないとか……


 やめよう。もう詮索しないって決めたんだった。僕は汐里さんの横顔をちらりと盗み見た。白い髪がたなびく、恐ろしいほどの美少女である。超能力者なんていう得体の知れないものじゃ無ければなぁ……


 ――ガタッ


 また校舎が揺れた。


「あの、玲生くん。どうしてこの学校はこんなに揺れるの?」


 汐里さんが心配そうに僕を見ている。


「いつもこんなに揺れるわけじゃ無いですよ。この学校のどこかで工事をしているらしいので、そのせいだと思います」


「そっかぁ、良かったー」


 汐里さんは安心したように笑みをうかべた。


「……」


 汐里さんにそう言っておきながら、僕は内心では納得していなかった。

 工事しているにしても、さすがにちょっと揺れる回数が多すぎないか。どこを工事しているのかもわからないし。本当にただ工事をしているだけなのか?


「どうしたの?」


 汐里さんが前方から振り替えって声を駆けてきた。考えているうちに、足が止まってしまっていたようだ。


「あっ、いえ、何でもないです」


 僕は小走りで汐里さんに追い付いて、一緒に階段を降りた。

 まあ、考えても無駄だろうな。僕が何か出来るわけじゃないんだ。例えば、汐里さんが僕に殺意を向けてきたら、僕は何か出来るだろうか。恐らく、何も出来ずに氷の槍で串刺しにされるだろう。それと同じだ。学校のどこでだれが何をしてようが僕の知る限りではない。それに、この世界は平和に出来ている。今まで16年間生きてきて、命の危険があるような事件に巻き込まれた事なんて一度もないんだから。

 いや、さっき汐里さんに串刺しにされそうになったか…… とにかく、変な事に関わらないでいれば安全だってことだ。


「ここは自習室です。生徒が自由に勉強する事が出来るんですよ」


 また3階の端から、説明していく。まあ、4階とほとんど同じなんだけど。


「勉強? そっかぁ、これから私も勉強出来るのね。楽しみだなぁ」


「……」


 聞きたいことが山ほどあって質問が口まで出かかったが、辛うじて飲み込んだ。


「そ、そうですね」


 適当に相づちをついて歩き出した次の瞬間。


 ――ドガーン

 

「っつ?!」


 高校棟が突き上げるように震撼した。今までとは明らかに違う大きさだ。


「れ、玲生くん? 今のは?」


「わ、わかりません。何かが爆発したんでしょうか。」


「爆発…… ま、まさか……」


 汐里さんが明らかに動揺している。でも、僕にも汐里さんに構っている余裕なんて無かった。


 ――ミシッ


 嫌な音がして、前の廊下に亀裂が走った。冷たい汗が顔を流れた。そして次の瞬間、派手な音をたてて目の前の廊下が陥没した。


「うぉぁぁぁ」


「きゃぁぁぁ」


 成す術もなく、僕は叫び声をあげながら裂け目から落ちていった。


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