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短編

アケビと夕顔

作者: 蘭薇

俺は人喰い鬼。

だけど、生きる事に飽き、人を喰う事をやめた。


彼女は神に愛されし聖女様。

しかし、人には恵まれず、俺への犧となっていた。





「あなたが人喰い鬼である以上、人を喰わないわけがない。集落を襲ってもらっちゃ困るから早々に私を喰ってくれ。」


手足を縛っていた縄をほどいたが、彼女はそう言い吐いた。


そう言われても、喰う気はない。ってか、人を最後に食ったのはいつだったか・・・。


「もう一度言うわ。人を喰らう鬼神よ。私はなんとしてもあなたに喰われなければならないの。今、私がここから逃げたところで、新たに若い女が犠牲になるであろうし、そもそも、私はあの集落から疎まれている。」


なぜ疎まれる。お前は若くて綺麗で、娘としては上等なほうでないのか。


「私は普通の人と違う。気を緩めれば、私の足元から草木が生えてくる。気味が悪いそうだ。」


それは何もないところから草木を生やすということか?


「そう、石の床でも苔がわんさか生えてくる。砂の上でもどこからか自然と雑草が生えてきて。」


生命を生み出すなんてすごいことじゃないか。奇跡!神の業じゃないか!!


「そんな事言ったのあなたが初めてよ。でも、私のいたところでは違ったの。何か悪い事の前触れじゃないかとか、人ではないものではないのかとか。」


なら、俺の近くにいればいい。俺はお前と逆で命を吸ってしまうんだ。

ほら、ここの周りやけに何もないだろう?

すべて枯れて消えてしまったんだ。


いずれお前の命も吸うだろう。お前に逃げる気持ちがないのであれば気がすむまでここにいればいい。

お前の衣服の破り、その切れ端にちょっと血でもつけて、捨て置けば、お前が喰われて死んだと勘違いして、集落の人間も近づかないだろう。


それにもしかしたら、また気まぐれに人を喰いたくなるかもしれないしな。









気付けば、長い事、俺は夕顔という人間の女と生活をしていた。


彼女がうっかり生やした草を、気付けば俺がそれらを枯らしている日々が当たり前となっていた。


「アケビ、夕顔の花言葉を知ってる?」


しらん、そんなもの興味がない。


「『はかない恋』。」


ふーん、そんなもの、俺に教えてなんになる。


「・・・。」


アケビの花言葉は?


「『唯一の恋』。」








そうか、俺のこの想いは通じても、儚く散りゆくものなのか・・・。


白髪頭の彼女は、少し哀しそうに微笑み、また深い眠りについた。


次はいつ目を覚ますだろうか。

彼女の周りに青々と草が生い茂る限り、そこまで不安にならなくともいいのかもしれないが、





俺は彼女を失うのがこわい。


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