7話
事態が急変します
早足、駆け足。
瓦礫のなかの隙間を縫って、走る。
思わず逃げたので、ここがどこだかすら分からない。
「あぁもうクソッ」
思わず罵声が口を飛び出す。
あの兄妹はもう死んでいるだろうか。
あまりに突然だったので置き去りにしてしまった。
……いや、あの兄貴がついている。
妹だけは絶対に無事だろう。
「はは、面倒みるつもりだったのにね」
これではただの無責任な偽善者である。
ああ、肺が痛い。
エネルギー不足な身体かつ、運動不足な身体が悲鳴をあげる。
走ったらまた死にそうになるって?
残念、止まっても死ぬかも知れない。
一つ言える事があるとするならば、天使は天使の皮を被った悪魔だったということか。
***
怠い。
この満開の笑顔のような青空がウザイ。
何でかって?
聞いてくれよ。
この兄妹が付いてきて来やがるんだ。
ご丁重にスカートの裾まで掴んでさ。
私は今、教会に向かっている。
もしくは、私達は、というべきかもしれないが。
ミカ兄妹を引き連れて、私は早足で歩いていた。
だらだら歩いて、チンピラに絡まれたくはない。
すたすた歩けばスカート離すかなー、とも思っていたが、意外にも離さない。
むしろ、すたすた歩いている私の方が息が上がってきているのは、気のせいだろうか。
仕方なく歩調を緩めると、兄貴の方がニッコリとイイ笑顔しやがるのは、幻覚であって欲しい。
無言の攻防を仕掛けあっていると、あっという間に教会に着いた。
着くまでは石蹴りをしていたのだが、妹の方も参戦してきて、えらいことになった。
最後の方は投げてたもんな、石………
そう思うと、あっという間に教会に着いて良かったのかもしれない。
教会に着くと大きな白色の十字架が目にはいる。
あのときは食べ物に夢中で注視していなかったが、この十字架がこの教会のシンボルだ。
聖白光十字教。
この教会の信じている宗教の名前だ。
最初は、発光十字www、と思っていたが、貧民にパンを無償で提供してくれる、とてもお金持ちで、ありがたい教会なのだ。
教会の入り口の前で、天使がパンを配っていた。
周囲に振り撒くふにゃりとした笑顔の彼女は、まさしく天使。
「あ、貴女はこの前の!」
何で覚えているのだろうか?
私はしがない貧民で、似たようなのは一杯いるだろう。
天使だから?
本当に?
考えると、この子のふにゃりとした笑顔は、計算ずくの笑みにも見える。
怪しいなあ。
「貴女に、お話があるんです」
バスケットを隣の年嵩のシスターに渡し、彼女が近づいてくる。
その微笑みは、今の私には死神の微笑みに見える。
「急用ができたのです。帰らせてもらってもよろしいでしょうか…」
喋りながらジリジリと後ろに下がる。
「ほんの少しの御時間ですから」
「すいませ「貴女たちのような下穢の者に、急用があると?」
はい本性デタ。
これだから貴族出身のシスターはやーね、本心では私達に唾吐いている。
「はい、私達のような貧民でも急用があるのです。気高く、清廉なシスター様にとってはとるに足らぬ些末事で御座いましょうが、貧民にとっては重要な事になるので御座います」
ここまで言い切った私スゴい。
横のチャーはポカンとした顔をしているが、日本人たるものヨイショぐらいはできるのだ。
目の前のシスターさんは……
あれ、満面の笑みだ。
「やはり、貴女は異世界人で御座いますね」
……パードゥン?
「今、何て言った?」
またまた満面の笑み。
「ですから、貴女様は異世界人で御座いましょう?」
「先日、神の啓示が御座いました」
今の私には
「異世界人が我が教会に来た、と」
やっぱり彼女の微笑みが
「そして、その異世界人は我が教会に恵みをもたらす聖女である、とも」
死神の微笑みに見えた。
パードゥン?
底辺のなかの底辺編終了です。