5話
少年とその妹を粗末な毛布に横たえる。
拾ってきたはいいが、何をすれば元気になるのかわからない。
少年と少年の妹の瞳は閉じられていて、生きてるのか死んでいるのか。一体、どちらなのだろうか?
とりあえず生きてるとして、瓦礫の隙間を覗いては、何か役に立つものはないか探す。
二人の分の毛布も用意せねばなるまい。
パンを食べるため、都の井戸から水を汲み取る。
帰ってくると、隣に住む痰壺を抱えたジジイが、二人の顔をのぞき込んでいた。
「なにしてんの?」
するとジジイはニタぁと唇を歪め、
「ヒョっヒョヒョ」
と意味不明な言葉を発し、ペッと痰を痰壺に吐いた。
.....スゴクキモチワルイ。
ジジイのショックが抜けていないが、作業を始める。
なんとか見つけた清潔な布を水に浸して、絞る。
少年とその妹の泥だらけの傷口を丁寧に布で拭く。
顔、腕、腹、足。
全身に傷を負ったこの兄妹に、一体何が起こったのだろうか。
黄ばんではいるが、包帯の体は保っている包帯を巻く。
素人が巻いているのでちょっとばかりガタガタしているが、傷口が汚れることぐらいは防げるだろう。
そして、パンを水に浸す。
ここのパンは硬い。
カチカチで、そのままでは食えたもんじゃない。
しかも、中身は白色ではなく黒っぽい。
教会で初めてパンを恵んでもらったとき、これははたしてパンなのだろうか、つーか食べ物なのか、むしろ一体誰が食えるの?と思ったものだ。
水に浸したパンに味も糞もないが、食べ物であるというだけでありがたい存在だ。
兄妹の頬をペチペチ叩く。
……起きない
「……ご飯だよ」
少年の目がカッと見開かれる。
瞳孔は開ききり、光が吸い込まれそうなほど暗く、飢えた瞳をこちらに向ける。
「ご飯?……」
少年はここしばらく、ほとんど飲み食いしていなかったのであろう。
声はパサつき、掠れている。
「ご飯だよ。ちゃっちゃと寝ている妹ちゃんを起こしなさいな」
少年はハッとして、妹を揺さぶる。
「…うにゃぁ……おにーちゃんどうしたの?」
「飯だよ飯! やっとご飯にありつけるんだ!早く起きないと!」
「ふぇッ、ご、ごはんッ!?」
「そうさッ、ご飯だ!」
ワアワア
キャッキャ
ウフフフフ
ご飯に浮かれる兄妹二人。
完全に二人だけの世界が繰り広げられる。
………私の事、忘れてやいませんか?