3話
ホントどうしよう、と言っていても腹は膨れない。
ヨロヨロと立ち上がり、手についた泥を払う。
私は、なんだか汚かった。
老夫婦と一緒だった時はこまめに洗い、わりと小奇麗だったセーラー服は泥だらけだった。
髪もパサパサで、手も傷だらけ。
しわしわでグチャグチャのセーラー服を見ると、ボロりと涙が溢れた。
別に帰りたいと切望しているわけではない。
会いたくてたまらない恋人がいるわけじゃない。
それでも無性に悲しくなって、涙がでた。
「おねーちゃん、どうしたの?」
舌足らずで甘い声。
下を見れば、小学生ぐらいの子供がこちらを見上げていた。
泥で汚れてはいるものの、柔らかい薄茶色の髪をクルクルと渦巻かせ、心配そうな顔での上目遣いは、文句なしに可愛らしい。
「だいじょーぶ?」
コテンと首をかしげ、僕がだっこしてあげようか、と言いながら
手を広げる。
僕も泣いちゃったとき、ママがだっこしてくれたんだ、と。
可愛らしくて
甘くって
反吐が出そう
即座に涙を拭い、笑顔を装備する。
「スリが何しにきた?この糞ガキが」
ニッコリと微笑むと、子供はギョッとしたような顔で脱兎のごとく逃げ出した。
「糞ババアッ」
という捨て台詞を残して。
いやー、この都ってホント、荒れている。
子供にほだされてはいけないと気が付いたのは、この都に着いた初日だった。
おねえちゃんが危ないのっ、と泣き叫ぶショタに付いていったら
裏路地に着き、ニヤニヤ笑うおっさんどもが数人。
ショタはショタとは思えない悪どい笑顔を浮かべていて、当時の私は恐怖した。
ショタに。
繋がれていた小さな手を振りほどき、咄嗟にショタをおっさんどもに投げつけることで難を逃れた。
今思うと、あれは本当に危なかった。
こうして私は学んだのだ。
見知らぬショタを信じてはいけない、と。