2話
始まりは草原だった。
家に帰って、ホッとして、いつものように伸びをした瞬間だった。
気が付いたらそこにいて、呆けてしまった。
十分ほどポカンと口を開けていた私は、とても間抜けな顔だったと思う。
草原には驚くほどなにもなくて、行く宛も見えなかった。
あてもなく、歩いて、歩いて、歩いて歩いた先にあったのは一台の荷馬車だった。
本当に運が良かったと思う。
歩いた先に何もなければ死があるだけなのだから。
荷馬車に乗っていたのは、都に向かう途中の老夫婦で、私は夫妻を拝み倒し、なんとか馬車に乗せてもらった。
馬車揺られて進むこと3日。
老夫婦とは大分仲良くなっていった。
夫妻は、都に住む孫夫妻の家に行く途中らしい。
孫夫妻は小料理屋をやっているらしく、今から味が楽しみだと、老夫婦は穏やかに笑っていた。
私は老夫婦ができない力仕事をさせてもらいながら、都への旅路を
穏やかに過ごしていた。
やっと着いた都からは煙が上がっていた。
泣き叫びながら地面をのたうちまわる子供。
瓦礫と化した建物。
老夫婦の話していた、孫の住む、美しく、きらびやかな都はもうなくなっていた。
呆然とする私をよそに、老人とは思えないスピードで老夫婦が走っている。
ダニエルだかダウニーだとかの名前を叫びながら。
そういや、お孫さんの名前がそんな感じだったと、場違いなことを考えながら、私は一人になった。
見知らぬ町で、ボッチになり、今に至る。
とまあ、これが今に至るまでの回想なのだが。
なんの捻りもない、運が悪かった、それだけ。
召喚されるようなチート主人公ならなんとかなったかも知れないが、生憎私は凡人である。
この都に来て三週間ほどになるが、私のことを人間と呼べるかは怪しい。
別に羽が生えたとか、角が生えたとかではない。
泥にまみれ、歩く気力も湧かず、死んだ方がマシかもと考えている状態が人間らしいと考えたら、否だろうと思っただけだ。
いや~、ホントどうしよう。
最近ろくに物を食べていない。
虫は流石にカンベンだが、3日前空腹に負け、ゴミあさりをしてしまった。
なんにもなかったけど。
この都はまだ荒れていて、私のような路上生活者も少なくない。
孤児が都に溢れ、教会の救済は届かない。
路上の雑草たちはほとんどが彼らの腹におさまり、残るのは毒性のある草のみである。
お陰で草食う虫は減ったが、腐肉を食らう虫は逆に増えている。
いやー、ホントどうしよ。