74話:変火
前回の次回予告タイトルとちょっと変わってます。
『変化』→『変火』
目を開き、目の前の少女に声をかける。
「四葉……か」
涙を流し、くしゃくしゃの顔で俺を見つめる少女。四葉。
雰囲気で分かる。
この少女は「四葉」だ。
いや、おそらく全てが四葉であった。だけどこの今現在、目の前にいる少女が「四葉」。
大暮先生の言う、「一葉」だ。
何故か、分かる。今まで見えなかった魔力の「色」が分かる。
感じる気配が分かる。
眠っている間に見てきた色々なもの。
そこから伝わるものが、推測をたてて自然と理解する。
この子が「四葉」なのだと。
「鳩子ちゃんっ!! 助けてっ!! 先生がっ」
状況を瞬間で把握する。
疑問も色々ある。正直、混乱するべき状況。
だが、不思議と落ち着いていた。
ここは基地の中のようだ。
カルマはいない。
寝転がる女性。
衣服はボロボロ。片足がない。だがそれ以外は傷一つない綺麗な状態だ。
瞬時に悟る。
癒したのだ。
この目の前の少女が。
「傷はほとんど直した!! でも、息がないの!! どうしたら……どうしたらいいの!? 先生が……! 先生が……っ」
四葉が泣きはらした顔で必死に叫ぶ。
大暮先生は――息はしていない。心臓も動いていない。生気を感じない。
だが、微かに。とても微弱だけど。
疑問をすっ飛ばして必要なことだけ聞く。
「――心臓が止まって時間はどれ位経つ?」
「そ、それは――」
「223秒経過しました。」
返答に詰まる四葉を他所に、九米が答えた。
約4分か。
1秒経つごとに可能性が減っていく。
4分で心停止からの蘇生率は25%。5分で10%。
1秒を無駄に出来ない。
質問して返事が返ってくる前には、先生の手を取って、心臓付近に手を置いていた。
さあ。集中しろ。
俺は救うのだ。
出来る、出来ないではない。
やらなくてはいけない。
大暮先生の命の火を再び灯すのだ。
俺は「火」だ。
火に形はない。燃え盛る事象だ。
だが、火は「俺」だ。
形を持ち、意思をを持つ。
俺は、形がないがゆえに何にでもなれる。
そして、俺であるがゆけに形を持てる。
意思ある炎。
夢の中で掴んだ感覚を思い出す。
まどろみの中で見たもの。
その全てを刻んできた。
忘れないように。
大切なものがいっぱいあったから。
俺は常識のない世界で、常識に沿って、大暮先生を蘇生する。
死人を生き返らせることは出来ない。
あくまで蘇生だ。
手で触れて、大暮先生を感じる。
消えかけている感じ取るのが困難な命を掴んで触れる。
霧散しそうな程、弱い。
だが、まだそこにある事を確信する。
不思議な感覚だ。
眠る前の俺では視えなかったものが視える。
再び、心臓を動かさなければいけない。
その方法は俺の、常識では「電気」だ。
「電気」を使って、心臓にショックを与える。
人体の構造に沿って積み重ねられた術。
時には斬って、壊して、人を生かすために高められた技術。
それが医術。
その常識の中にある「心肺蘇生法」のポピュラーな術が「電気」によるショック療法。
だがそれだけでは蘇生の可能性が低い。
時間から考えて、常識では蘇生確率は20%を切るだろう。
どのような経緯でこの状態になったかはわからない。経緯によっては可能性はもっと……。
だけど、俺のいる世界は非常識。
出来る。
ここに儚くとも、確かに命がある。触れられる。
まず問題が一つ。
どうやって『電気』を与えるか。
この基地になら器具はいくらでもあるだろう。
だが今は一秒が惜しい。
無駄に出来ない。
もしも目の前にあっても使い方を確認する時間もない。
ならば、創れ。
想像し、創造しろ。
俺の手に馴染み、確かな魔法を。
俺にはその程度の力は与えられている。
再び、火を灯す為の力を、道具を創造しろ。
大暮先生の命に触れて、感じ取る。
本質を感じ取る。
俺は何にでもなれる。
理解し、模倣しろ。形を変えろ。
目を閉じて集中する。
消えかけの命。
ゆえに、剥き出しの本質を晒した命。
感じ取れ。
脳内に声が聞こえる。
『――特性『雷』を取得しました。――特性『変火』を取得しました。――特性『火』は『炎』へとクラスアップしました。――モード解放――』
脳内に響く声は無視する。
借りるぞ。大暮先生。
「――『充電』」
俺が、変わっていく。本質を感じ取って『変化』し、『変火』していく。炎が形を変える。
――集中。
炎がそのまま「雷」になる事はあり得ない。
だが、常識に嵌るな。
大切なのはイメージ。
炎が雷にならないなら、炎の力で電気を生み出すことをイメージしろ。
風力、太陽光、エネルギーを電気へと変える事が出来る。
エネルギー。
炎に宿るエネルギー。
イメージしながら変換していく。
電気を貯める。調整。
「――3、2、1――。『衝撃』!!」
バクンと大暮先生が跳ねる。
俺は生み出した『電気』で心臓に衝撃を与えて、心臓マッサージを開始する。
九米に息を、酸素を吹き込ませる。
マッサージをしながら、イメージする。
血液を巡らせていくイメージ。
消えかけている蠟燭に火を灯すイメージ。
繰り返し、繰り返し。
強引に、心臓に血液を巡らせていく。
「生きろ!」
声を出す。
「今度はカルマを守ってやりたかったんだろ!?」
耳から聞こえなくても、魂に。
この弱い剥き出しの命に。
「ならば、あいつを一人にするなっ!!」
命に。声を届ける。
「残されるものが味わうのは苦しみだ! 守りたかったなら、生きろ! 生きて見せろ!!」
戦場において一人。
残される者の気持ちは誰よりも、分かる。
声に魔力が宿る。
声に力が宿る。
心が言葉に乗る。
俺の魔法じゃない。これは――四葉か。
「先生!」
そして『充電』と『衝撃』を繰り返し心臓マッサージ。
もう一度。
もう一度。
焦れていく気持ちを必死に落ち着けながら。
俺は、起こされたのだ。
これは、必要なことなのだ。
絶対に、成功する。
心の中で反芻する。
何故なら。
『誘導』
明を、舐めるな。
必ず、届く。
「カルマには貴方が必要だ!!」
――炎よ、灯れ!
神には祈らない。
想いを信じる。
俺の信じた悪魔を信じる。
ずっとカルマを愛したこの人の心を信じる。
まだ命はここにある。
俺が霧散させない。
消させない。
絶対に掴んで、離さない。
もう一度、呼びかける。
「生きろ!!」
――そして。
次回『75話:遭遇』
書きたい二章の大筋は見えてきたはず。ここで一旦また更新区切って、また裏で執筆してます。
更新止めるので今後の為の次々回予告。
『76話:VS カルマ』
なんでもかんでも都合いい感じでは終わらないように頑張ります。
目指した場所はここ。
魔王少女を凌駕する覚醒カルマ。
底の見えない謎の多い狂気に染まった科学者。
最強が最凶に立ち向かう。
そして・・・。
二章はそんな感じです。




