67話:折れた心
引き続きゆうきちゃん視点
あまりにもあっけなく割れた結界を茫然と見上げた。
呆然とする時間。それが致命傷になる可能性も分かっていた。
だけど、それほどあっけなく、そしてムルは圧倒的だった。
「ふふーん。おばさん。痛い格好のくせにやるじゃんか!」
「……」
「私に変身させるとかさ。なかなかそこまでのやつは地下にもいないし」
ショックを受けるのは後だ。当初の目的は時間稼ぎ。
幸い、ムルから話しかけてきた。
対話の出来る相手ではないから油断はできないけど……。
会話をするならば今が好機だろう。
動かなければ。
「……っ」
だけど、口は強張って動かない。
何を喋ればいい。あの化け物と。
「あははー。ビビってんじゃん?」
……否定できない。
私は……怖い。
「ま、しゃあないよね。これが凡人と天才の差ってやつ?」
小馬鹿にしたように笑いながら、言う。
一言、ムルが声を発する度に大気が魔力で震える錯覚を抱く。
どうやっても越えられない壁。高い。そして頑強な壁。
明心さんならばどうするのだろうか?
目標をもう一度思い出す。
時間稼ぎ。
……ただ私は……逃げられるだろうか?
そこで、はたと気付く。
カルマ君が向かっている。
ここに。
こんな、場所に。
この天災がいるこの場所に。
それは……。駄目だ。
助けてほしい。けど……私の為だけに彼を危険に晒すなんて出来ない。
……だけど……でも……。
っと、無意味に思考がめぐる。
このままでは……駄目だ……。
それは分かっているのに……何も思い浮かばない……。
震える足が動かない。
……私に今、出来る事……。
震える声で、呟く。
「……『情報解析』」
せめて、情報だけでも。絶望的な状況。今、たった一つ出来る事。
※※
【魔王少女】ムル ♀
魔力値:3000000
特性『暴風』
B80 W68 H82 AGE18 161/50
※※
……ああ……。
魔王少女とはこれ程の……。
自身との差に嘆くよりも、納得してしまった。
感じる重圧はもはや結界のレベルだ。
もう、ムルの領域だ。
「ま、おばさんは結構壊しがいがあるからさー」
ムルが扇を揺らめかせる。
「頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、頑張って、――」
強まる重圧。
ムルの眼光が私を射抜く。
「足掻いて、死んでよ?」
「ッ!!」
震える足で、本能に従って私は駆けた。
扇の一閃。
たった一振り。
それによって切り飛ばされた左手を置き去りにして、私は駆けた。
次回『68話:夜が視る夢』




