65話:焦り2
次回『66話:魔王少女ムル』
ドクン。ドクン。と鼓動が耳に届く。
自分の鼓動だ。
怖い。
ゆうきちゃんの死。それがただただ恐ろしい。
僕はこれまでにも死は見てきた。
過去の魔法少女の死。
それを実行した女。
アメル。
アメルは魔王少女にはない確かな戦闘技術。
圧倒的だった。
僕は魔法少女達の死を誰よりも嘆き、悲しんだ。
誰よりも。誰よりも。
だけど、同時に納得してもいた。
魔法少女達には譲れないものがあった。
僕の命令よりもそれを優先した。
「逃げる」とい選択肢は彼女たちは選ばなかった。
今、考えると魔法少女達は逃げる機会はいくらでもあったのだ。
アメルから逃げる事は可能だったはずなのだ。
だって、あの時の彼女は隙があった。
僕は海原光明を知っている。彼の相方。「地上最強の戦士」の女房。その言葉の持つ意味。重み。
そんな隙を見せる相手じゃなかったはずなのだ。
……おそらく、彼女は……。
だけど魔法少女達は使ってしまった。モードQ。
そしてモードKへと至ろうとした。してしまった。
それが引き金になってしまった。
アメルは殺した。
魔法少女達を。
もう、そこに余裕はなかったのだろう。彼女たちも確かに強かったのだ。
それでも。それでも綺麗なままで。
華麗に。
格の違いが分かるように。
彼女達を屠った。
僕は彼女を許せない。
けど、彼女は。彼女はきっと。
僕は彼女達の死を理解した。理解してしまった。
良くも、悪くも、アメルには誇りがあった。
そして魔法少女達にも意地があった。
故に、死を真摯に受け止める事ができたのだ。
許せることではないけども。
だけど、彼女の死は受け止める事が出来そうもない。
相手は魔王少女。
もしもゆうきちゃんが死ぬのなら無残な姿に変わるだろう。
彼女の様に誇りある死に方を与えてくれはしないだろう。
魔法少女達は中途半端に強さを誇示してしまったから死んだのだ。
彼女に与えた『電姫』。きっと彼女は強くなる。
それが不安なのだ。
そんな事よりも。
僕は彼女が死ぬのが怖い。
怖い。
彼女の記憶あるのはたった数日。だけど、彼女の存在は僕にとって大きくなりすぎた。
失うことが恐ろしい。
だから、早く。
早く。
彼女の聞いた話から導き出して推論。
僕の昔の仲間。かつての『機関』のメンバーの死。それをきっと僕は受け止められなかった。
直感で分かる。
この狂おしい程の鼓動でわかる。
僕は、彼女が死ぬ事を受け止める事が出来ない。
ハートちゃんの眠るこの状況で、絶望的なまでの状況で。
最悪の瞬間に最悪の敵。
どうか。
どうか。




