63話:ゆうき VS ムル
「っぐ!!」
ムルの奇襲。完全に避けたつもりでいた。
風圧。
私の肩は浅くだが切り裂かれた。
「へえ。やるじゃん。今の避けれるんだ?」
意地の悪そうな笑みを顔に張り付けながら言ってくる。
本当に考えなしの行動。話をする前に狩りにきた。
ただの猪ならいい。だが、今の一撃。受ければ即死に直結するイメージが浮かぶ。
ぞっとする。
彼女は猪ではない。魔王少女。
地下帝国の強者。
魔王サタンの眷属。
駄目だ。
震えそうになる体を必死に止める。
カルマ君。明心さんを思い浮かべて震えを止める。
「魔王少女が地上になんの用ですか?」
声を震わせないように気をつけながら、聞く。
会話中にいきなり襲われるとも限らない。油断は出来ない。
けど、話しかけられた。まあおそらく話しかけたというより独り言のぼやきの様な感じか。だけどそれを隙とみて会話を無理やり繋いでみる。
「ん? お前、私に聞いてるのか? 頭がたかーい」
瞬間、汗が噴き出る。
ムルの手に集まる魔力。一瞬で手の中に、嵐を生み出す。
そして、私に向かって解放。
気付いた時には回避行動に移っていた。一瞬でも判断を誤れば死だ。
「はあ……はあ……」
完全に避け切れた。私の居た位置は暴風で削り取られている。あんな魔力に晒されればミンチになっていた。
正直、舐めていた。ここまで会話の出来ない相手だとは思わなかった。
この女は、魔王少女。直感で分かる。会った事はないが、こんな冗談みたいな魔力を保有する存在が他に心当たりがない。
魔王少女とは地下帝国の強者に与えられる称号。
このムルという女がどれほどの地位にいるのかはわからないが、上位に位置する存在である事は間違いない。
その上位の存在がこれほど理性がないとは。
腐るわけだ。地下帝国。
力が全ての世界。
会話で引き延ばしは無理だ。話が通じる相手じゃない。
ならばと、気持を切り換える。
震えて動けなくなることこそ愚策。
昨日の明心さんを思い出せ。
彼女はあの動かなくなった魔獣を罠にかけ、屠った。
ここは私の場所だ。備えならある!
私は針を数本生み出して投げつける。
「『雷針』!」
私は今までとはケタ違いに強い、『雷針』に感慨にふける暇もなく次の行動を開始する。
ムルはゆったりとした動作で扇を取り出し、薙ぐ。
それだけの所作で私の『雷針』は霧散する。
予想はしていたが少なからずショックだった。籠った力は、今までに比べてケタ違いだったのだ。
カルマ君から貰った機能『電姫』。
魔力の増幅。他にも色々。
初めて使う機能だが、凄さが実感できる。
魔力、身体能力全てがケタ違い。
その力をフルに生かして、駆ける。
後方にある朝礼台へと。
「ええー? 逃げんの?」
そう言って、扇をゆったりと構えて、薙ぐ。
振り向かなくても魔力が集まっている感覚がわかる。
そして薙いだ瞬間に解放される魔力。
来る!
直感した瞬間に魔法を使う。
「『電光石火』!!」
魔力によって一気に加速する。
相手の方が力は上。
ムルは扇を振り抜いた状態。その程度の隙。だけど、強者に対するにはその僅かな一手分の隙が必要だった。ムルは私を舐めている。
瞬間で駆け抜け、目的の場所に手を翳す。
罠の起動スイッチは朝礼台に設置した。
地中に、電線を通して陣を形成してある。
魔法陣。
魔法陣自体は私もあまり詳しくはない。だが、結界程度の魔法陣は描ける。
結界魔法陣。それと、私の雷。それを組み合わせて作った罠。
電線を巡らせた範囲は校庭全土。
ここまでの動作は一瞬。ムルが振り抜いた扇を戻す所作すらも凌駕する一瞬で。
魔法陣に雷を通して一気に起動させた。




