6話:状況3 そして初陣
「え? 馬鹿なの? 君って元々、男だよね?」
「あ? そうだが……」
「漢なら魔法少女はべらしたいって・・・思うよね?」
「いや。全然。女はグラマラスなのが好みだ。」
そもそもなんだ?魔法少女とは。
「あ”あ!? 年増! え?なに?そんな非常識な精神が僕のハートちゃんに入ってるの!? 嘘でしょ!! 実験失敗だよ!僕は失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した! ───────どぅっはっ、、、、ぶべらっ」
狂ったように異常をきたした天凶院を止めたのはスペードの鮮やかな暴力だった。
吹っ飛び、地面に叩きつけられている。見事な手際だ。
「───っぺ。黙れ。このロリコン。人類の敵が。───いえ、マスター」
ここまでの事をしながらマスターと言えるこの少女の胆力は相当なものだ。
「ご……はっ……。え? なに? もう朝?」
記憶が跳んでいる。
「ええ。爽やかな朝です。おはようございます。マスター」
スペードが何事もなかったように優雅に一礼する。
こんな場所で会わなければ俺はこの少女をスカウトしただろう。
「え? あれ? え? なんでハートちゃんが動いているの? 夢?」
「違います。マスターが非道的な人体実験の末にハートは動けるようになりました。」
「僕が?」
「・・・・・・めんどうですね。もう一度叩けば戻るでしょうか・・・?」
自身が作り出した状況なのに、説明が面倒になったようだ。
スペードが拳を握りながら、天凶院ににじり寄る。
「スペード? 何するの? ────はっ。思い出したんだ!スペードさん……僕は……チュンサンで──ごきゅぅ……」
再びえげつない行為が行われる。可愛い顔してこの少女は素晴らしい。
「……はっ。つまりだ。魔法少女をはべらしたいって思うのは男の性だ」
目覚めた時に、唐突に話が戻ってきた。
「………………」
「それにちょっとまだ勘違いしているけど僕が作るのは『人工』魔法少女隊ね。つまり僕が創った魔法少女で隊を作りたいのさ。」
「……違いがわからん」
「これだから元おっさんは…………。脳みそ筋肉で出来てんじゃないの?君みたいなのを脳筋って言うんだよ?」
「………………」
堪えよう。またこいつがおかしくなったら面倒だ。
「現代科学者っていうか一般人は魔法を使えないよね?」
「・・・使えないな。存在自体眉唾だ。」
「それを───────」
ビーっ! ビーっ! ビーっ! ビーっ! ビーっ!……
けたたましいサイレンが鳴り響く。
「なんだ!?」
「まだ説明の途中なのに……。もう来たのか。ちょうど説明が終わる頃にあいつらが来る計算だったんだけど。どっかで狂ったかなー……?」
スペードのえげつない行為によって出来た空白の時間の所為だろう。
そんなことよりも────。
「これはなんだ!」
サイレンにかき消されないように大声で聞く。
「ちょっと待って」
言って、なにか操作した後にサイレンが止んだ。
「後でまた続きは説明しよう。まずはついてきて」
スペードは既にいない。サイレンの中で出ていくのを見かけた。天凶院に続いて外へでる。
「時間ないから歩きながら端的に説明するね。質問は事が済んでから。」
白衣の懐から何か取り出した。
俺に渡してくる。
「これは武器だよ。持っておいて」
えらくゴテゴテした杖だ。目がちかちかする。
「これが?」
「質問はあとね。さっきのサイレンは敵がきた。敵の敵は味方じゃないからね。奴らは『地下帝国』の住人。地上の侵略者。」
は? 『地下帝国』?
「僕らは正義じゃない。君達を躊躇なく殺して、実験に使ったんだ。僕はあくまで狂気の科学者なのさ。けどね、地上を守っているのは間違いなく僕たちだ。僕の目的のついでだけどね」
廊下を進みながら続ける。
「さっき言っていた魔法を使う良い機会だ。存分に使ってくるといい。いきなりの実戦は厳しいかもしれないけど、君の屈強な魂とその僕の創ったハートちゃんの身体なら大丈夫。」
実戦? 展開が急で思考が追いつかない。
「無論サポートもする。今日は君が初陣だから君が主役。スペードはあくまで保険ね。────着いた。これに乗って」
小型のカプセルのようなものに乗せられる。乗るつもりはなかったが、覗き込んだ瞬間に触手のようなものがガッチリと俺を掴んだ。
「なんだ! これふぁ!? な……! この!?」
もぞもぞと固定するために蠢く感覚がこそばゆく変な声をあげてしまった。
必死にもがくが外れそうにない。
「無理無理。暴れたって外れないって。んじゃ。頑張ってねー」
横の赤いボタンをに拳を叩きつけるように────
「ぽちっとな」
ボタンを押した。
「うぉ……おおおおおおおぉぉぉぉぉ……」
そして俺は堕ちていった。地下帝国へ。
次回『7話:ハート大地に立つ!!』