49話:はんたーはんたー3
「はあ……はあ……可愛いよ……鳩子ちゃん……可愛いよ……はあ、はあ……」
「お……い……四葉……」
「ん? ふぇ? まだいけるの? すごいなー……鳩子ちゃん」
っく。まずい……。なにか分らないがまずい……。なにか分らないのがまずい……。
「ふひひ。鳩子ちゃん。私ねー可愛いものが好きなんだー」
「……あ?」
いきなり……なんの……話だ……
くそ……思考が鈍い……
「麗葉ちゃんもすっごい可愛いよねー。漫画のヒロインのライバル! って感じで。好きな人に一途で。素直じゃなくて、すっごい可愛い。」
三堂麗葉か……。
「麗葉ちゃんは、勇者君を追っかけているのを眺めてるのが可愛くて好きだったんだけど……。鳩子ちゃんも可愛い。全然タイプ違うのに……。今までにいないタイプ……。見た目は可愛くて、可憐なのに喋ると男らしいっていうか……ギャップ萌え? っていうのかなー?」
ぞわぞわと背筋が震える。シャワーで頭を流され、湯船に誘導される。
「……恋人がいるっていうのがネックだけど……。大丈夫! 女の子同士ならノーカンだから♪」
俺は誘導されるままに湯船へと入った。
入ってしまった……。
「んー麗葉ちゃんは勇者君見てる乙女な顔が可愛かったから我慢できたけど……鳩子ちゃんは常に可愛いから我慢できなくなっちゃった。でも、本当にかわいいなー! 鳩子ちゃんはー。勇者君が惚れるのもわかるなー。」
俺はのろのろと顔をあげて、四葉の顔を見る。
さっきまでの花のような笑顔ではなく、含みのある邪な笑みを浮かべていた。
「ふひひー。入ったねー♪ これで逃げられないよー♪」
シャワーを四葉が止める。
静かになった浴室内に響くのは水滴の滴る音。それとカチカチとなる音が聞こえる。
四葉が手に持っていたのは……カスタネット……?
「っく……!?」
体が動かない。
ぼーっとした意識の中でもう一度、四葉の顔を見る。
瞬間、意識が切り替わる。
目だ。
あの目は覚えがある。
過去で一番、恐ろた目をしている。
あれは、基地を感染拡大に落としたアレックスと同じ目だ。
捕食者。
狩人。
ハンターの目だ。
まずい。まずい理由がわかった。
「四葉ぁあ!」
気付いた俺は怒声を上げた。
「ふぇ!? 意識戻ったの!!」
っく!! 目を見て戦場を思い出した。ゆえの覚醒。
意識を逸らされていた!
背後に立つのを基本、簡単に許したりしない。
演技と魔法。
クソ。想像以上に四葉は優秀だ。気付けなかった。こんなことされる理由がいまいち掴めないが、危うい。それだけがわかる。
分かってからは簡単だった。意識の覚醒。四葉の特性『幻惑』を弾き飛ばす。
しかし。
「っく!」
体が動かせない。コンクリートの中にいるようだ。
お湯が激しく重い。
あのカスタネットか! 特性『音』か!?
カチカチとなるカスタネットの音の中で、もがく。
「ふひひー。ちょっと計算外だけどー。嫌がるあの子をちょっとづつ屈伏? もいいよねー」
何となくだが、わかった。あの艶のある眼差し。捕食者の目。明心鳩子を狙ってやがる。
こんな事をするような娘ではなかったように思う。だから気が緩んだのだ。なにかに憑かれたような変わりよう。
「大丈夫だよー。一緒にふわふわしよう? 気持ちいいよーきっと♪」
くそ! どうする!?
次回『50話:捕食者 VS 捕食者1』
え? ドラマはないよ。次回も裸の少女をお楽しみください。




