45話:壁ドン
しつこいがもう一度言う。
僕の武器は知性だ。そして白衣。か~ら~の~眼鏡。
そう。僕の元々の作戦は単純。
武器を最大限に使って行う。
『壁ドン』
これに胸キュンしない女子はいないだろう。……いないよね?
僕の武器も合わさって、僕の魅力は数段階ブーストされている事だろう。
まあ、残念な事に眼鏡という戦友は僕の足でひしゃげてしまったが。……超合金製にするんだった……。
まあ、今はその悲しみは捨て置こう。
僕の眼鏡ならこういうだろう。
「俺の屍を越えていけ」と。
流石にそんな機能はつけてないけど。それだけ愛着のあった一品だ。
思考がどうでもいい方にいってるな。混乱している理由はある。
一度は完全な冷静さを取り戻した僕が、再び混乱する理由が。
僕はよろめく拍子に、意図せずやってしまった。
僕の元々の作戦。
『壁ドン』
ぷるぷるしながら羞恥で赤く染まる顔。
僕の手の中ですっぽり収まるゆうきちゃん。
上目遣いで、うっすら涙を浮かべながら見つめてくる。
僕の目は眼鏡がないため、霞んでいる。霞んでいる部分は妄想で自然と補完される。
その霞んでいる世界でもよく見える瞳。僕の好きな瞳。
多分、世界がもう少し僕に優しければ抱きしめていただろう。
それほどの威力。
世界は醜く。美しい。だが、残酷だ。
何故だ。何故!! 前に進む覚悟を決めたのに世界は僕にこんな仕打ちをする!!?
頭の中で必死に呼びかける。
神よ!! どうか呼びかけに答えてくれ!!
神よ!! たすてけ!!
呼びかけに答える声はない。当然だ。機能は死んだ。僕のやった愚かな行い結果だ。
クソ!! あの中身おっさんがこんなに使えないと思ったのは初めてだ!
あ?
いっそ抱きしめちゃえよ? お前、鳥のままか? 虎になれよ?
虎になるんだろうって!? 虎? はっ! 笑わせるな!!
お前。まだ分かんないのか?
僕は罪を犯した。
『壁ドン』
言い方を変えよう。『ラッキースケベ』。『パイタッチ』。『乳鷲掴み』。
僕にとってはご褒美だけど、ステータスだけど。ゆうきちゃんは胸が壁だった。貧乳はステータスだけど。今は、そんな事を議論してる場合じゃない。
ぷるぷるしながら羞恥で赤く染まる顔。
僕の手の中ですっぽり収まるゆうきちゃん(のおっぱい)。
上目遣いで、うっすら涙を浮かべながら見つめてくる。
状況は把握したかい? うん? なんとなく読めてた? 展開を?
なら、たすてけよ!!
ただ見てるんじゃないよ!! 本当にひどい世界だ。
こんな時こそ僕の頭脳をフル活用する時だ。
僕の知性を見せる時だ。
なんとしてもこの『人類史上最大最悪の絶望的事件』を回避しなくてはならない。
こんな失敗で受けた傷は僕は耐えられる自信がない。
こんな時にハート様がいらっしゃれば、ここから強引に押し切る術を伝授いただけたかもしれない。
だが、彼女は今は音信不通だ。
自分一人で乗り切らなくてはならない。
九米を呼べば連絡をとれるかもしれない。けど、そんな時間かけていられるわけがないだろう?
俺、乳を掴んでるんだぜ? 一分一秒が貴重だ。
さあ。どうする? もう、なにをやってもダメな気がする。心が絶望に染まっていく。今なら、迷わず私様の勧誘を受ける自信がある。この絶望を世界に伝播してやるんだ。
クソ。いまは目の前のゆうきちゃんだ。この永遠とも思える時間が引き伸ばされた感覚。その中で目まぐるしく飛び交う思考。
人はこれを走馬灯と呼ぶ。
やばいな。やばいな。やばいな。
焦る。
どうする!? 胸だと気付かなかった振りをして、滑るように、後ろの壁に手をついて強引な、だが本物の『壁ドン』に行くか!!
だが、手が滑るように動く胸だと認識されたらどうする!!?
貧乳ステータスだけど、女の子にとってはコンプレックスだって聞く! もし、ゆうきちゃんの瞳が悲しみに染まるなら耐えられない。
どうする? 語るか? 貧乳の素晴らしさを。世界の美しさを。
乳を掴んだまま? ゆうきちゃんに貧乳教に入信をススメる? 馬鹿か? そんな事ができるやつがいるものか。
ハートちゃんならできる気がするのが不思議だけど。
てか、なんで僕は手を離さない! いや、違う。離したくないのか!? この桃源郷を味わいたいと欲しているのか!?
っく! 鎮まれ! 我が右手よ!!
ああ。駄目だ。
今日という日が来なければ。今日の僕ではなく、昨日の僕なら10年後の自分の姿を尋ねられたらこう答えただろう。
「……まぶしくて見えない。」と。
ガックン様は偉大だ。名言の宝庫箱や~。
だが、今日の僕はどうだ。10年後どころか、一瞬先も真っ暗。
ああ。もういいや。
ここまでを一瞬で考え抜いた僕の頭脳の高さ。存分に見れただろう? 知性見せられただろう?
ぼく、頑張ったよね? もう、ゴールしていいよね?
走馬灯が見えてる。僕は今日、ここで死ぬのだろう。死ぬならせめて死兆星を見てみたかった。僕は所詮、モブということか。
「あ、あのカルマ君。そ、その手をどけて貰えますか……?」
赤い顔で、必死に怒るどころか倒れそうになった僕を支えながら、ゆうきちゃんは声をかけてくれる。
「っ!! ご、ごめん!!」
慌てて手を引っ込めた。
ようやくカルマサイドの終わりが見えてきました。
次回には決着つくかなー。
なかなか、上質なバトルが描けたんじゃないでしょうか。カルマ氏の一人相撲だったかもですが。
ん? バトル? コメディじゃないのかって?
見方を変えてください。
これはカルマ氏の挫折と成長を描いたバトルですぜ(`・ω・´)
次回『46話:王子様』




