4話:状況1
俺は眉根を寄せた。
目標の名前くらいには目を通したつもりだったが……。
「は? 御手洗 大作じゃないのか?」
「ちっがーう! 僕は天凶院カルマだ!! 断じてそんなダサい名前じゃない!!」
スペードが天凶院を殴る。
「あだっ」
「話がややこしいのでやめてください。そうです。この人が、そのそこはかとなくうんこを連想させる名前の生ゴミです。」
可愛い顔してうんこと言った。
御手洗……大……。なるほど。確かに連想させる。
「全国の御手洗さんと大作さんに謝れ!! なによりガラスのハートを持つ僕に謝れ!!」
「……っち。」
「舌打ちぃ! ねえ!? マスターに舌打ちした?ねぇ!!?」
「おい。やめろ。」
話が進まん。
「お前が目標だとはわかった。では次に……この状況はなんだ?」
聞くべきことが多すぎて漠然とした問いになってしまった。
「じゃあ逆に聞くけどさ。どこまで覚えてる?」
「――――それは」
俺は確か最期の煙草を吸って――――
「死んだ……はずだ……」
「うーん。不正解。薬を打って仮死状態にしたけどさ。」
やはりなにか打たれていたらしい。
「あのままじゃどのみち死んでたから、その身体に意識を移植した。」
意識を移植?
「……そんな事が……可能だと?」
「実際に今、君が動かしている体は自分のものじゃないでしょ?なんなら鏡を見てみる?」
スペードが俺に手鏡を渡してくる。
そこにいたのは屈強で精悍な顔つきをした初老の男……ではなく桃色の髪をした愛らしい少女のものだった。
「なん……だと……」
「どう? 納得した? 僕の開発した人工F人型魔法生命体。題して『魔法少女キュンキュア ハート』ちゃんだ!!」
どやぁ! そんな擬音が聞こえそうな顔をしている。
……これは笑う所か? 笑えないが。
「……ダサい……」
スペードは名前に意義があるようだ。そっちの一言の方がまだ笑える。
この少女は出会って間もないが、纏う空気が戦士の其れである為か、何処か親近感が沸く。
天凶院は聞こえなかったのか続ける。
「どうよ! 萌えるだろう!? 僕の最高傑作のボディさ!!」
「……俺はどうなっている?」
「ん? 君の本来の体のこと?」
こくりと頷く。
「あれはまだ培養液の中だよ。あ。でも戻ったりとか無理だからね? 死ぬよ?」
確かにあの傷では助からないだろう。
「まあそんな事は置いておいて状況を説明しよう」
……俺の身体のことだが……確かに今は些事だ。
「僕は死にかけの君を意識……精神体ををその身体の中に入れた。ここまではOK?」
「ああ」
納得しよう。実際にこの目で見る現実だ。
「なんでそんな事したかだけど。僕の目的は人工の『魔法少女隊』を創る事!」
一気に分からなくなった。
「は? 『魔法少女隊』?」
「そうさ! 僕が生まれたのは魔法少女の為だといっても過言じゃないよ!」
「現代において『魔法』少女だと? ふざけているのか?」
こんな訳のわからないやつに殺されたのだ。俺達のチームは。静かな怒りが胸に湧く。
「はっはー。だから君達は駄目なんだ。狂気と相成れない。常識? 現代の科学? 『魔法』はね。あるんだよ。」
天凶院は備え付けの冷蔵庫に向かって『DR胡椒』という清涼飲料水を取り出す。
目線で飲むか問われるが断る。喉は渇いているがあんな凶器のドリンクを飲み物とは認めない。
変わりにスペードが水を入れてくれた。出来た娘だ。
喉を湿らせる。頭を冷やす。情報を引き出し、分析するのだ。
「君達にはまだ魔法を観測する術がない。だから君達は全滅したんだ」
……ムカつくが説得力はあるのだ。
俺達が敗北したという事実。その一点だけで否定が出来ない。
現代兵器に精通する俺達が成す術なく朽ちた。この男の持つ技術は間違いなく俺達の……人類の遥か高みにあるのだ。
俺達を滅ぼした罠の数々は未知の産物だった。
それこそ『魔法』ように。
「『魔法』ようにじゃないよ。『魔法』なんだよ」
こっちの考えを見透かすように指摘してきた。
ちなみに魔法少女部隊の名前は魔法少女キュンキュアにはなりません。ならない予定です。きっと紫の人が謀反を起こします。
次回『5話:状況2』