40話:SOS
頭に響く声。
カルマだ。
用件も大体想像がつく。無視するか。正直相手にするのが億劫だ。
『ハート様!? ハート様!! 聞こえてらっしゃらない!? 眠っていらしゃる!?』
やかましいが無視だ。どんな状態でも必要ならば休息をとれるように訓練はしている。
『ハート様! 我が神よ! この試練をどのように越えればよろしいのですか!? 教えてください! エロい人!』
誰が、エロい人だ。男はみんなケダモノだ。ただそれだけ。
男と女の戦場。戦場であれば俺は負けない。ただそれだけ。
『寝てるの!? いや、確かに疲れてるか!? でも、非常事態なんだ!! くそぉ! 仕方ない!!』
っ!!
『くらえ! 夢ジャック!! 届け! 僕の熱い気持ち!!』
突如、浮かぶ映像。
とてもお見せできないカルマの痴態。こいつ!? ここまで気持ち悪いとは。
頭の中で呼びかける。
……おい。
『ハート様!! お気づきに!!』
……殺すぞ?
『ひい!』
割と本気で殺気がこもった。
まあ、いい。面倒だ。なんだ?
『す、すんません……。教えてください。もういっぱい、いっぱいで。僕もうほんとに……』
悲壮感、漂う声。
仕方ないのか? 確かにこいつは経験値がない。
まあ、俺を基準に考えても仕方ないか。後は本能だと思うのだが。成功しようが、例え失敗しようが傷を負って成長する。そうゆうものだ。
確かに、言われた事があったか。
誰も、俺のように強くはないと。傷を負うのが怖いのだと。
そんな事を思い出した。四葉はまだかかりそうだ。このままぼーっとしてたら、眠ってしまうかもしれない。
話を聞くか。確かに、本番に失敗するのはダメージがでかいのかもしれん。
……なんだ。状況を報告しろ。
『……今はもう、基地にいるっす。』
……なんだ? その下っ端口調は。まあ、いい。それで?
『……それで? ……何を話せばいいっすか?』
あ?
『いや、その、会話が出来なくて無言なんっす』
は? 会話? お前何を言ってるんだ?
『へ? え? だから、何を喋ったらいいのか……。緊張しちゃってもう……。』
……その、なんだ。お前は、本番の指導を聞きたいわけじゃなくて会話の糸口さえ掴めてないと?
『……はいっす……』
……意識をつなぎとめるのに必死な俺に、あのおぞましい映像を流してそれを乞いたいと。
『……はいっす……』
カルマ。
『……はいっす……』
……殺すぞ?
『ひい!』
さっきよりも苛立ちが大きいからか、殺気がよりこもった。
馬鹿か。こいつは。これが噂のゆとりか? そこそこいい歳のはずだが。
意味がわからん。俺や明と会話しているだろう? 普通に。
『いや。まあ、そうなんっすけど……。こう、なんていうか、実に視線が好意的で、むずがゆくて……』
惚気を聞かせる為に、俺を呼んだのか?
『いや! 違うっす! ほんと、切羽詰まってるっす!!』
視線が好意的でなにが問題なんだ?
『……いままで、こんな風に受け入れられる事なくて……。どうしたらいいのか……。』
あ? だから、抱けよ。ヤレ。本能の赴くままに。
『いやいやいや! 無理だよ!! 会話も碌にしてないんだよ!?』
面倒だな。本当に。心の底から。もう一度聞くが、ゆうきちゃんは嫌いか?
『いや。好きだけど……』
ならば何を迷う? 好いて、好かれて、愛し合う。自然じゃないか?
『いや。なんかもうちょっと雰囲気を大事にしたいというか、なんというか……』
乙女か。
『だって、昔の知り合いだって言ってもさ。僕にそんな記憶はない訳だし。なんか段階をすっ飛ばしてみたいなのはちょっと……』
……。まあ、大暮先生を大事にしたい気持ちがわからないでもないか。
ふむ。会話の糸口があればいいのか?
『……う、うん……』
なら、間欠泉で集めた魔力についてやどうするのか等の業務的な事から聞いていけ。
『え? でも、そんな華のない会話で……』
まあ、慣れたら他の会話もすればいい。まずは慣れろ。お前はそれからだ。
『う、うん。』
情報も欲しい。結局、肝心の『癒し手』の情報がまだひっかからない。
それにだ。
業務的な会話でも、まともに考え事をしているお前は悪くない。
知性を感じる男も女からは受けがいいと思うぞ?
『っ! そ、そうか! 僕の武器を忘れていたよ!!』
武器? まあ、なにか知らんがそんな感じでいけ。
困ったら報告しろ。
『うん!! ありがとう!! ハートちゃん!!』
そう言って、会話が切れた。やっぱりあいつは少し成長するべきだ。
ちょうど、四葉がキッチンから戻ってくる。
「お待たせ!」
間話でカルマサイド書きつつ進行しないと駄目そうな気がしますな。
一話が短いけど、ついに40話。感慨深いっすな。
次回『41話:ホットケーキ』




