38話:ステップアップ
爆散した鰐の肉片を見ながら語りかける。
「はは。よく焼けたかよ?」
俺の勝ちだ。
しかし。
「っぐ……」
俺はふらつく頭で膝をつく。
モードⅤを3発撃った反動だ。
だが、即意識が落なかっただけ成長したか。とても暫く立てそうにないが。
ギリギリではあったが、なんとかなった。
勝利出来た理由は単純。
鰐の経験値不足。
でなければ、楽観できるような相手ではなかった。
もしもの話だが、あの鰐が遠距離攻撃にシフトせずに、顎による攻撃にこだわった場合。
あんな雑な水魔法を使わずに、あの水を使って、例えば己を掻き出すような推進力に変えればもっと、状況は厳しいものになっただろう。
モードⅤには硬い鱗を正面から突破する火力は、腹に当てて死ななかった時点でなかった。
だから正面から、確実な力押しが一番厄介だと感じていた。
まあ、それならそれで別の方法を考えていたが、一か八かの要素が高かった。
例えば、顎による攻撃を避け続けて、あの鱗を『弾丸』で剥ぎ取っていく。そこから抉り込んで撃ち殺す。
鱗がもし即修復出来るならアウト。魔力は向こうが圧倒的。機動力に注ぎ込まれれば避け続ける自信はない。範囲とはそれだけで武器なのだ。巨体にプラスして俺より早かった。
だが。
勝ったのは俺だ。
実戦の中で、何か掴めた気がする。
特に『弾丸』。
実に汎用的に使える。まだ荒いが少し精錬された気がする。
「明心さん!」
「鳩子ちゃん!」
大暮先生と四葉が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「……ああ。問題ない。暫く休めば元に戻る。……まあ暫くは動けそうにないが。」
「そうですか……。よかった……」
大暮先生が安堵の表情を浮かべる。
「しかし、助かったよ。大暮先生。四葉。2人がいなかったら、もう少し無茶が必要だった。特に四葉は予想以上だ。巨体を吹き飛ばせるとは思っていなかった。」
「ふひひ。任せてよ!」
そう言って笑った顔は顔は可愛らしかった。
「……まだ意識が残ってるの?」
カルマが問うてきた。
「ああ……。変態の前で気を失う訳にはいかんからな……。何をされたものか。」
「はは。ひどいなー。『NO タッチ』だって言ったじゃん」
「タッチしなきゃ大丈夫とか言い訳に使うつもりだろう。殺すぞ」
「…………」
目線を、あからさまに合わせない。こいつは、本当に……。
まあそれも、大暮先生との夜のオペレーション『個人授業』の成否にかかっている。成功すれば、もう少し成長するだろう。
それに、こいつがいなければ鰐に仕掛けた罠が成功しなかったのも確かだ。
戦闘中に頭の中でざっくりとした罠の概要をカルマに伝えた。
それを、あの少しの間で作戦の形にまでしたのはこいつだ。
あの時に四葉の運用方法を最もうまく使えたのはこいつだ。
やはり、問題が多いやつだが有能だ。
「まあ、いい。次からの俺自身の訓練と、お前の訓練はステップアップするからな?」
「……はい……」
「……声が小さいな?」
「サー! イエッサー!」
「で、先生。悪いが近くに休める所はあるか? 少し、休みたい」
「え! そうね。私の家に行きますか?」
「近いのか?」
「ええ」
「そうか。今は四葉もそこに住んでるのか?」
「うん。先生に住まわせてもらってる」
四葉の事情を知っていれば、それが妥当だろう。
「じゃあ、四葉が連れてってくれ」
「え?」
「先生はもう少しカルマと話をしてくれ。おい。カルマ。」
「ん? 何?」
「基地に連れてけ。俺は先生の家で休む。何かあれば呼べ。九米。」
大暮先生をいまさら疑ってはいないが一応、九米をつけていれば保険になるだろう。
「うえ! 待ってよ!? ハートちゃん!?」
「…………………………」
ただ、無言で圧力をかける。
「……う……」
「…………わかるな?」
「は、はい……。」
次回『39話:ホットミルク』




