31話:邪眼
「ついに、我が邪眼の力を解放する時がきたか……」
カルマが呟くのが聞こえた。
「あ?」
視線をやると眼鏡の淵にあるスイッチを押している。
「これは、大人の前世の姿を写す魔眼さ! おおおおお! すっごい地味だけど、メガネかけたロリっ子が僕の目の前に!! なんと業の深き眼!」
開かれた扉の先に大暮先生がいた。
「あ? どうゆう事だ?」
「だから、大人の前世を写すのさ。今の僕には、大暮先生が地味なロリメガネっ子に見える! この姿で、僕に惚れているという情報! 萌える!」
まあ、いい。やってる事はあほくさいが、大暮先生も自分に興味なさそうにされるよりはいいだろう。
「明心さん? その人は……」
「ん? ああ。想像通り、カルマだ。」
「……っ!! やっぱり! カルマ君!!」
そう言って大暮先生は、カルマに駆け寄る。一応、不審な所はないか警戒する。カルマが今、死ぬのは困るのだ。
「……おい」
大暮先生は制止の言葉が聞こえなかったのか、そのままの勢いでカルマに抱きつく。
「っ!!!」
カルマが声にならない声を出す。
頭にカルマの声が届く。
『地味メガネロリっ子に! 今、僕は! 抱きつかれてる!!』
上を向いて、顔を赤くしながらも顔を上にあげ、必死に涙を堪えている。
さっきまでの興味のまったくなかった反応とえらい違いだ。
これなら、いいだろう。俺は、カルマに呼びかける。
カルマ。
『……生きてて良かった。』
おい。カルマ。カルマ!
『……本当に、良かっ……え? 何?』
指令だ。心して聞け。
『うん。え? 指令?』
そうだ。お前は、成長するべきだ。
今後の為に。明の為に。
『う、うん。そうかもね。』
だから、口説け。そして、ヤレ。大暮先生で童貞捨てろ。
『え? いやいやいや! 駄目だよ!! 「イエス・ロリータ・ノータッチ」だよ!!』
意外に力強く答えが返ってくる。
いいか? カルマ。よく聞け。大暮先生は、そう見えて成人だ。
『!!』
好機。カルマは現在、舞い上がっている。穴だらけの論法でも勢いで押し切れる。所詮は童貞。ちょろいもんだ。だからこそ、男になって成長してもらう必要がある。
誰だかが言っていた。
攻められた事のない城と、攻めた事のない兵士、どっちが貴重だ? と。
無論、後者など価値がない。城攻めを果たしてこそ、兵士としての自信が芽生えるのだ。進化と言っていいほどの精神的成長を遂げるだろう。
『けど……でも……』
考えるな。
ロリータだが……合法だ!
『合法ロリ……だと……』
そうだ。何を迷う必要がある?
お前、男になりたくないのか?
『…………そうだ。……僕は、いつの間にかあきらめていた……。イエス・ロリータ・ノータッチだからだと……。僕は、あと少しで伝説にある魔法使いになる所だった。僕がなりたかったのは魔法使いじゃないっ! 男だ!』
そうだ。大暮先生……いや、ゆうきちゃんは嫌いか?
『大好きです!』
ならば、ヤレ。
『イエス! サー! オペレーション「童貞捨てる」開始します!』
「カルマ君……。本当に良かった……。」
「だ、だ、だふぁ……。だい、じょうぶ、だぁ!」
天パリすぎだろ。
「え? だ、大丈夫? カルマ君」
カクカク首を上下に動かしている。
こいつ……。想像以上に駄目だ。勢いがいいのは頭の中だけだ。
なにがオペレーションだ。
「ああ。大暮先生。すまないな。カルマは童貞でな。女性への免疫が極度にないんだ」
「どっ!!」
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
話が進まん。手を貸してやるから、適当に合わせろ。
『すんません……。』
「大暮先生。貴方があまりに可愛らしいから緊張しているんだそうだ。な?」
カクカクと首を上下に動かすカルマ。
「え!?」
「その前に、本人だと信じてもらえただろうか?」
「え? ええ。10年以上も経ってるから変わってる部分もあるけど……。間違いなくカルマ君だわ。魔力の感じがあの時と同じ。強くはないけど……すごく優しい。」
「魔力の感じ?」
「うん。私が得意な魔法は雷を使ったものだからかな? 電気信号というか……。敏感なのよ。そううゆう雰囲気を感じ取るのが。」
なるほどな。
カルマ。お前は覚えていないらしいが、大暮先生はお前を思ったより見ているようだぞ? そして、お前の内面を気に入っているらしいぞ?
『…………』
あ。そうだ。
「大暮先生。一つだけ、言っておく事がある。貴方と出会った当初の事があやふやらしいんだ。」
「え……?」
「その当時、大怪我を負ったらしくてな。記憶があやふやらしい。だから、大暮先生の事も……。」
「そ、そう……。仕方ないわ。それだけ大変だったんだもの。もう会えないかもって思ってたくらい。」
「積る話もあるだろう。夜にでもカルマと話をしてやってくれないか? 大暮先生に慣れてもらわないと困るしな。」
「ええ。そうね。後で、ゆっくりお話しましょう!カルマ君!」
「あ、う、ぅん……。」
カルマ。
『はい。』
決めろよ?
『……う……。が、頑張ります……』
次回『32話:魔力と間欠泉と特異点1』
間話はまた今度あげます。どうでもいいサイドストーリーなので、時間あるときにでも。




