28話:迷走するもの
カルマと連絡が取れたことは今はとりあえず伏せる。
こんなクソと会話しても、大暮先生との関係がこじれるだけだ。
まあ、いい。カルマとの関係は大体把握した。10年以上前に何があったのか詳細が多少気になるが、今は優先順位でいうなら下だ。
それよりも、癒し手。後はこの少女が気になる。
大した魔力と威力ではなかったが、実に上手く魔法を扱っていた。
魔法少女の状態だったから効きはしなかった。
が、先ほどの大倉先生を救うために、会話で誘導しながら、魔法で意識を逸らそうとした。四葉の魔法特性的にも実に強力な戦術だ。シンプルなのもいい。
俺や大暮先生よりは少ないとはいえ、魔力が多いのも気になる。大暮先生が魔力が多いのは理解した。地下帝国に居たからと理由はわからないでもない。それだけではない気もするが。
癒し手を探しているという情報はこっちにとってのカードだ。大暮先生が敵だとは考えにくいが、判断するには情報の穴が埋まっていない。
癒し手の情報は俺にとって弱点になりえる。慎重になるべきだ。焦ってはいけない。情報を集める。
四葉について聞いていくか。
「なあ、四葉は……」
「………………嘘だ………………」
振り返ると勇者がいた。
また、鼻血に塗れて呆然とした表情で呟いている。
あ? なぜ、いる?
「……気を失っている間に、結界が切れたようです……」
もしくは俺の使った、モードⅢの煙幕か。あれで結界自体が弱体化したのかもしれん。
「そんな……おっさんの彼氏がいるだけじゃなくて、女の先生とも!?」
「は?」
「だって!そんなコスプレで、緊縛プレイなんて!!」
しまった。いまは魔法少女の姿だ。確かに、大暮先生を捕縛する為に、縛っている。
しかし、プレイって。
「な!! ちがっ!?」
大暮先生が驚きの声を上げる。
「姉さん! どうして! どうして僕じゃだめなんだ!? そんなに年上がいいの!? なんで、行き遅れ先生をっ!」
「行きっ……!遅れっ……!?」
「くっ! 女の子が分からない! 分からないよ!! いくら年上でも行き遅れ先生はあんまりだよ!!」
勇者が止める間もなく走り去っていく。
「ま、待ちなさい! 菜々草君!! 待って! 違うの! 待ってー!!」
大暮先生の叫びが悲痛だ。
ただ、縛られているために無力だ。
「勘違いよぉ……。行き遅れ先生ってなによぉ……」
大暮先生の傷が深い。
勇者の傷も深いのかもしれないが……。まあ、どうでもいい。
まとわりつかれなくなるなら、それはそれでいい。
クラスの居心地は悪くなるかもしれんが、大暮先生と四葉という情報を得た。
まあ、なんとかなるだろう。
それに、勇者も男だ。冷たいとは思うが、傷を負って、なお進んでこそ強くなる。
あいつには仲間も多い。下手な事がない限り、あいつは問題ないと思っている。
そんな事を考えていると、チャイムが鳴る。
そういえば早めに来てたとはいえ、HR前だったな。
どうするか。
「ねえ。明心さん。襲いかかって、虫がいいとは思うけど……。HRも始まるし、解いてもらえないかしら?」
大暮先生は昔は地下帝国の民。だが現在は、教師だ。
情報は早く欲しいが敵対しても仕方がないか。もし、癒し手がこいつらの仲間であるなら、協力を願う必要もある。
脅しとかの手もある。明の為に手段を選ぶつもりはないが、下策だろう。
「平常通り、HRにでて授業をする気か?」
「……ええ。都合がいいとは思うけど……」
「まあ、いい。だけど、一つだけ約束してくれ。放課後に話を聞きたい。俺は、放課後に違和感を感じていた。大暮先生達が理由だろう?」
「……わかったわ。けど、私も確証が欲しい。カルマ君の所の人だって信じてないわけじゃないけど……。なにか証拠を見せてくれる?」
「ああ。問題ない。…………九米。」
九米に声をかけて、拘束を解かせる。
「…………自分で言うのもなんだけど……。そんなに簡単に解放していいの?」
大暮先生が問うてくる。
「問題ないな。ああ、逃げるとかの可能性を考えてない訳じゃないぞ? ただもう逃げられても、問題ない。」
どうとでもできる。情報は割れた。サポートは九米だけというわけではないしな。
情報が入った以上、カルマがヘマするとも思えない。もう、大暮先生達は俺達から逃げることは出来ない。
「……そっか。じゃあ、放課後に音楽室に来てください。話はそこで。」
「ああ。了解だ。」
「では、私は菜々草君を追います!」
そう言って、脱兎の如く走り去っていった。
四葉はまだそこにいる。こいつを置いていくのは信頼の証か、それともよっぽど焦っているのか。
「まあ、いい。俺達も行くぞ」
俺は変身を解いて、四葉に声をかける。
次回『29話:現状相談』




