24話:魔力値と魅惑値
ぷるぷる……
俺は震えていた。小鹿のように。
羞恥で。
クソ。つらい。
生きるのがつらい。
魔法の講義を受けるときに、変身した俺を見て、カルマが言っていた。
「可愛すぎて生きるのがツライ」と。
俺は答えた。
「じゃあ、死ね」と。
俺の気持ちと、カルマの気持ちは違うだろう。けど、思う事は同じだ。
「(俺が)可愛すぎて生きるのがツライ」
何が、悲しくてこんなヒラヒラを人前で!
「ふーっ……」
大きく息を吐いて、己を落ち着ける。
慣れるんだ。
いずれ慣れてしまう自分の未来に恐怖を感じるが、慣れるんだ。
明の笑顔を思い出せ。
アメルへの想いを思い出せ。
頑張れ、俺。
「僕と契約して、魔法少女に――「だから、いわせねえぇよ!」」
さっき、空から降ってきた白い球体とカルマ風人形だ。
こいつらは基本はこればっかり喋る、残念な物体だ。
『九米』という名前らしい。
誤っても、米を「べい」と呼んではいけないとカルマに念を押された。大事なことだからと、二度言われた。
きゅうべ「いわせねえぇよ!」と呼んでなにが悪いのか。
カルマ風人形に思考を邪魔された。やはり、思考を読む装置が付いてるんじゃないのか?
何故、九米はこんな掛け合いみたいな会話しかしないのかを、カルマに尋ねてみた。
『九米がもし、最後までセリフを言ったら、世界が終る。』と真面目な顔をして言っていた。
なんでも、円環の理とやらに駆逐されるらしい。その為の、封印装置としてカルマ風人形がくっついているのだとか。
あいつに言っていることを理解するのは時間がかかる。
この残念な物体は、今は俺のサポートだ。さっきのように杖の転送をしたり様々なサポートを行う。
チェリーで豆腐精神のカルマより役に立つ。
だが。
姿は違うが、こいつは海原光明に致命の傷を与えた、生物兵器だ。
「な!? 魔王少女クラス!?」
大暮担任教諭が驚きの声をあげる。
――魔王少女?
ここで、適当な事を言うとカルマがうるさい。
魔法少女が絡むとあいつは本当に鬱陶しい。
後で知られると面倒なので、羞恥を殺して一応言っておく。
「違う。魔法少女だ。愛と勇気を胸に秘めた、ラブリーでチャーミングな存在、らしいぞ?」
自分で言っててぞわぞわする。
血と硝煙に塗れた、屈強で強靭な存在、から随分と変わってしまったものだ。
ちりっとノイズのような感覚が頭によぎる。
意識を逸らす魔法か。
意識を少女に向けて、無駄だと教えてやる。
かなりの羞恥を伴うが、変身した俺は戦闘力が跳ね上がる。
集中を切らしても、意識を持っていかれる心配はないだろう。
「地下帝国! どうやってここに感づいたのかはわかりませんが、秘密が漏れる前に死んでもらいます!」
言って、体に宿した魔力を爆発的に高める。
落ち着いて、情報分析をする。
「『情報解析』」
命令を口にする。
カルマが俺の突っ走らない為の指針としてつけた機能を起動させる。
視覚とイメージが同期する。
大暮担任教諭の横に、情報が浮かぶ。
※※
大暮ゆうき ♀
魔力値:6000
特性『雷』
B70 W65 H72 AGE29 158/45
※※
名のわからない少女の横にも、情報が浮かぶ。
※※
??? ♀
魔力値:2000
特性『幻惑』『音』
B83 W54 H82 AGE10 146/45
※※
女相手に初めて使うが、カルマ馬鹿だろ?
スリーサイズ、年齢、身長/体重の情報がなんでいるんだ。
それにしても。
頭の中の男としての部分が、少女の情報に意識を持っていかれそうになる。
集中だ。とんだ罠だ。意識を逸らす魔法は効かないとアピールした瞬間にこれだ。
あの少女の魔法は凄まじいな。大暮担任教諭と同じ体重で数値が圧倒的だ。着痩せするタイプなのか、そんな暴力的な数値を叩き出す体に見えない。
集中だ。
頑張れ、俺。
これはカルマの付けた機能で、『魔力推定計測装置』というらしい。変身した後にしか使えないのがネックだ。急遽、開発したためらしいが。
理由がどうあれ、無謀に幹部クラスに突撃した俺を見て、反省したらしい。
あの時の俺の魔力総量は3800程だったらしい。
対して、アメルは36万。力を抑えて、その数字らしい。
蟻が象に挑むものだと、しつこく忠告された。
大暮担任教諭の魔力値は6000か。まだもう少し上がるだろう。
一般人が10~100。変身前の俺が1200。大暮担任教諭の魔力は、随分多い。
多少訓練したとはいえ、俺の魔力総量は現在7000程度。
戦士としての経験値は俺が上だろう。
だが、魔法使いとしての経験値は向こうが上。
数値が全てではない。所詮は指針にすぎない。
魔力の数値は同程度。多少、俺の方が上か。
すぐに逆転される程度の差だ。
油断できない。
油断できないことがありがたい。
獰猛に。
嗤う。
嗤った、後悔はもうない。
戦場で嗤うのは。
俺の流儀。
向こうも止まらない。
ならば、始めよう。
これは、教育だ。
生徒から先生への。
九米のルビはこれ以降、振りません。気が変わらなければ。
心の中では好きに呼んでください。
きゅうこめでも、きゅうべ「だから、いわせねえぇよ!」でもお好きな方で。
心の中だけで!呟いちゃ駄目だぞ!
そして。
15話の後書きで予告して、やっと出てきました。カルマ氏が開発した新機能。
強さの基準がわからんようになりそうだったので入れました。
あとは、単純に数値化が好きなだけです。ステータスとか、スキルとか。
特性とか、武器の形態変化とか、JQKモードとかあるんで、整理しないとですね。
ここから以降、何日かしたらタグに「ステータス」とか入れるかもです。
次回『25話:VS 女教師 決着』




