22話:名を思い出せない少女
「――待て!」
三堂麗葉にランドセルを放る。
「すまん! 頼む!」
「ちょっと! 明心さん!」
俺は、逃げた少女を追いかけた。
駆けながら考える。
三堂麗葉にはこいつが視えていない? 嘘をついているような感じではなかった。
それに、駆け出す前のこの少女の表情を思い出そうとする。
――ぼんやりとして思い出せない。
ついさっき見た表情を思い出せない。
なんだ? これは?
頭の中でカルマを呼び出す。
カルマ! カルマ! どうゆう事だ、これは!
『――――マスターは傷心中の為、繋がりません。枕を濡らしながら「童貞ちゃうもん……」と呟いている為、繋がり――――』
「っ! つかえねぇーっ!!」
苛立ちのあまり、声に出して叫ぶ。
あいつ、精神が弱すぎる! 豆腐かよ!
基地に帰還したら、あいつの精神叩き直してやる!
これだから、チェリーは!
カルマが使えない今、己の頭で考える。
あの少女の事を考えようとすると、頭に靄がかかる。
歯を食いしばって、走りながら意識を集中する。
そもそも、おかしいのだ。
存在感が希薄。そうゆうやつは警戒してきた。油断してはいけないからだ。
三堂麗葉の存在感に隠れて、目立たない、一宮や二見の事でも覚えていたのに。
警戒していた、この少女の事を忘れた。
ド忘れとかありえない。
頭を使うのは得意な方ではないが、その程度は訓練している。
話した事はなかった、と思う。いつも、三堂麗葉にくっついていたイメージはあるが。
三堂麗葉に良識的なアドバイスをしている所は見た事がある。
それを聞き入れ、三堂麗葉が返事をしている所は見た事がない。
ここまでくると、おかしいのが分かる。
まだぼんやりとする部分はあるが、分かる。
思いつくことは、魔法。
だが何故、地上に魔法を使うものがいる? こうゆう時こそ決めればカルマの株も多少上がるのだが。
だが、あいつも『地上は中心から離れているから魔法を使える人は少ない。意識して使える奴なんているのかすら、わからない。』と言っていた。
まあ、いい。
魔法について考えても、俺では答えは出ない。
ならば、まずは目の前のあいつを捕縛する。
幸い、あいつの足は早くない。
だが、捕まえられない。
気を逸らすと、意識の外側にいるのだ。
目の前にいるのに、見失う。
奇妙な感覚だ。五感と勘で補足出来ている。もう少し、足が早かったら巻かれていただろう。
駆けながら、その奇妙な感覚を御する。
見失うわけにはいかない。あいつは、手がかりに繋がるかもしれない。
『癒し手』への手掛かり。
校舎裏へ逃げ込む、標的を追いかける。
後、数歩。
手を伸ばす。
――届く――
「明心さん。HRが始まりますよ?」
指先が掠る、その瞬間に声に止められる。
勘だ。
第六感。
俺は、手を止めその場を即座に飛び退く。
――何も起こらない。
転身、回し蹴りを放つ。
そこにいたのは、俺のクラスの担任の女教師。大暮ゆうき。
俺の反射で放った蹴りを、造作無く受け止めてそこに立っていた。
一章と展開合せてるわけじゃないですが、構成が似ました。
「状況1~3」
「麗葉ちゃんと愉快な仲間たち1~3」
麗葉ちゃんと愉快な仲間たち って話タイトルなのにたいして、愉快な小ネタを挟めませんでした。
改稿作業で、思い付いたらやっちゃうかもです。小ネタ。やらなきゃ駄目です。小ネタ。
次回『23話:VS 女教師』
ひさびさに変身なるか




