21話:麗葉ちゃんと愉快な仲間たち3 そしてチェイス
「は?」
「そ、そのですから付き合っていらっしゃる方がいらっしゃるのですか?」
ん?
そうか。つい、自然に動くから忘れがちになるが、俺は現在、明心鳩子だ。
確かに、勘違いさせる会話だったかもしれない。
さて、どうするか。
何か聞きたいことがあるようだ。もう少し、会話してこの年頃の娘を観察したい。心の闇が深すぎる明を理解するきっかけがあるかもしれない。適当にはぐらかすのは妥当ではない。
こうゆう時に完全な嘘をつくのもあまりよろしくない。経験上、ボロが出やすい。会話が進めば、嘘の設定に矛盾が生まれてくる。
事実に基づいて多少脚色を加えるのが妥当か。
俺が話せる事は幾つかあるが、やはり考える事はアメル。
失踪して、12年も経つのだ。思う所がないわけではない。
だが、アメルを大切に思う。
12年経った今でも変わらずに。色褪せずに。
明を明と名付けた。
たとえ、過ごしてきた12年がどのようなものでも俺は妻を大切に思う。
だから、胸を張って言おう。
「ああ。俺には大切な奴がいる」
「そ、そうですか、その方は大人の?」
「あ? ああ。そうだな……」
失踪当時のアメルの歳は確か、24歳だったか?
あれから12年。
「今は36歳だったかな」
地下帝国で出会ったあいつは変わらずに美しかったが。数字にしてみると印象が違うものだな。
「「「「36!!」」」」
しまった。俺は今は11歳という設定だった。初期の設定が嘘なのだ。事実に沿っても矛盾する。
仕方ない。戦場で生きてきたのだ。多少の交渉は必要だったが、話術は専門分野外だ。
このままいくと、アメルが娘と同じ歳の奴に情動を感じる、天狂院カルマみたいな奴に聞こえる。
まあ、いい。焦って否定したりすれば、更にボロが出る。男ならば正面突破だ。このまま押し通す。
「ず、ずいぶん、歳の離れた方とお付き合いしているのね」
まあ、実際に海原光明とアメルはそこそこ歳が離れていた。
「年齢は関係ない。お互い、惹かれるか。それだけだ」
「「「「……ほぉ……」」」」
この4人はいつも、一緒に行動しているだけあるな。リアクションがよく揃う。
「ど、どうゆう所に惹かれたの?」
取り巻きの一人が訪ねてきた。名前は確か、一宮だったか。
「そうだな……。好き嫌いは多いやつだが、料理が上手い。料理が上手いというのは、ポイントが高いぞ。疲れた体に沁みるからな。胃から持っていかれた感じか」
「それだけで、そんなに歳の離れた方とお付き合いしていらっしゃるの?」
「……いや。あいつは苛烈で、過激。なんというか、情熱的なやつだ。そこに惹かれた。」
「「「「……情熱的……」」」」
全員、顔を赤くして呟く。
何を想像しているのかは大体、予想がつく。
しかし、実際にあいつとの日々は予想の遥か斜め上をいくだろう。
さすがに誤魔化しきれないから余計な事は言わないが。
「ど、どういった経緯で付き合いだしたの?」
今度はもう一人の取り巻きが聞いてくる。名前は、二見だったか。
思い出せないのは存在感の薄い一人だけだ。こいつらは、グループで、一宮、二見、三堂で『一二三』と呼ばれている。この四人目がグループ名に含まれていない。いつも一緒にいるのに。
どれだけ存在感が薄いんだ。ある種の才能かもしれん。
「経緯か。出会いは、あいつが降ってきて言ったんだ。「あんた、あたしの奴隷になりなさい!」って」
「「「「ど、奴隷?」」」」
クソ。めんどうだな。事実に沿って言っているのに。
11歳の小娘に奴隷になれって言う、36歳。犯罪じゃないか。
見かけたら、即狩る。大分、危ないやつだ。
「…………そうだ。それから、色々あってな。あいつに惹かれて、あいつも俺に惹かれた。気づいた時には、男女の関係だった」
だが、押し通す。
俺に後退はない。前進あるのみ。
「「「「……ど、奴隷で、男女の、関係……っ! そして、色々……!!」」」」
はぅっと言って麗葉がふらつく。
「「「麗葉ちゃん!!」」」
取りまき達が声を揃えて、麗葉に駆け寄る。一宮が三堂麗葉の鼻にティッシュを詰める。鼻血でもふいたようだ。想像するだけでも子供にはつらいらしい。
「………………嘘だ………………」
呟きが聞こえた。
振り返ると勇者がいた。
もう復活したのか。茫然とした顔で鼻血を垂れ流している。
しっかり聞いて、三堂麗葉と同じで鼻血をふいたようだ。
「僕は、僕は! 認めない! そんな犯罪者より僕の方が……っ!」
だっと勇者は駆けて行った。通った後に涙が煌く。
「あ! おい!」
声をかけるがすっ飛んで行く。
まあ、いい。勇者には最初から芽がないとあきらめてもらおう。
「菜々草君……」
三堂麗葉がその後を視線で追う。菜々草とは勇者の事だ。菜々草当麻。
カルマは『なにそのキラキラした名前! ちょっとDQNなのに! カッコイイ! 憧れちゃう!』
容姿に性格に名前。カルマは惨敗だな。
負け犬と勝者。
想ってくれている、三堂麗葉のような女がいるのだ。勇者は勝者だ。
「追わなくてもいいのか?」
三堂麗葉に声をかける。
「…………」
「「麗葉ちゃん……」」
一宮と二見が寄り添う。
「こうゆう時、なにか言ってやってたのはお前だろ? なにか、言ってやったらどうだ?」
俺は、名前を思い出せない、存在感の薄い女の子に声をかける。
「え?」
「「「?」」」
「いつも、三堂麗葉を止めたり、良心的な意見を言っていたのはお前だろう? 今回もアドバイスをしてやればどうだ?」
存在感が薄くても、こいつはこのグループの一員だ。比較的に良心的で、ちゃんと考えれるやつだと思う。
勇者が泣いている原因である俺。
和解したとはいえさっきまで敵対していた俺の言葉では届かないかもしれない。
ゆえに、こいつに話を振ってみた。
「?」
「?」
「…………」
「……あの……明心さん? 誰に言っているんですの?」
「あ?」
何を、言っているんだ? これが仲間はずれというやつか?
「いや。こいつもお前らの仲間だろ? 冗談にしては悪質だぞ?」
「…………そこには、誰もおりませんが? 明心さん! こうゆう時に冗談を言う方が悪質で――」
――ばっと名前を思い出せない、そいつは駆け出した。
次回『22話:名を思い出せない少女』




