15話:覚悟
ようやく俺は明の部屋を見つけた。
カルマが、場所を言っていかなかった所為で、ずいぶんかかった。
体が思った以上に、疲弊している。
だけど、気が急いた。
カードをかざして中に入る。
カプセル型の機械に入った明がいた。
胸元を包帯で巻かれて、機器に繋がれた痛々しい姿だ。
あの胸には、海原光明の心臓が、息づいているのだろう。
「明…………」
声をかけるが返事はない。当然だ。カルマは目覚めないと言っていた。
俺は暫く、明を眺め続ける。
出会って間もない俺の娘。
はじめはクールな娘だと思っていた。
優れた技量を持っているようだった。
カルマをマスターと呼び、ぞんざいに扱う少女。
カルマと明の関係はなんなのだろうか?
落ちる俺を助けた時の顔。
初めて変身を見せた時の得意げな顔。
少し、愉快な娘だと思った。
俺が魔法を使ってみせた時のあの嬉しそうな顔。
俺を守るために母と対峙した時の背中。
………………
…………
考えにふけっていたいた。
ふと、俺は部屋を見渡した。
俺は明を、娘をほとんど知らない。
どんな部屋で過ごしているのか。少しでも知ろうと思った。
本棚には漫画。アニメのDVD。カルマや明の言っていた魔法少女のもののようだ。
こういったものが好きだったのだろうか。
勉強道具は一切ない。勉強はあまり好きではないのかもしれない。
テレビもある。DVDを見るための機器もついている。暇ならば眠っている明と一緒にDVDを見るのもいいかもしれない。
「ハート。帰ったら、まずは一緒にDVDを観ましょう。」とそんな、約束をした事を思い出す。
机の上には一冊のノート。
手にとってみる。日記のようだ。
プライベートを覗くようで気が引けた。
だけどアメルについてなにか分かるかもしれない。
心の中で娘に詫びながら、ページを開く。
つけたのは最近のようだ。あまり書いていない。それに、あまり豆な方ではない性格のようだ。
―――今日、マスターにお風呂を覗かれた。まずは目を潰した。後はボディを打つべし! 打つべし! 打つべし!
―――契約とはいえ、いつか殺そうと心に決めた。この怒りをどこにぶつければいいだろう。ゴミクズを…………マスターをいつかストレスで殺してしまう。まだ目的があるし……。そうだ!現実で駄目ならアレに書いて、うさばらししよう♪
ふむ。カルマはやはり殺さねばならんようだ。
娘の風呂を覗く犯罪者。
借りはあるから、墓くらいは立ててやろう。「御手洗大作の墓」。それでいい。
ぱらぱらと明の日常を垣間見る。
―――今日、新しい技を閃いた!
―――「誘導」の使い方がいまいちつかめない(´・ω・`)
―――あのうんこが、首輪に心を読む機能を付けていやがったようだ。私の秘密がばれた。でも、相手はうんちだし、吐くほど喜んでたゲロインだし、まあいいかと思った。ちょっと焦ったけど。お母さんにバレたら大変だけど。
お母さんに「 風穴、空けるわよ!」とか言われたら、私は人生詰むだろう。
うんちならいいか。そんなことより笑いがこみあげてくる!!やつがゲロイン属性を得たことで、私は更なる飛躍をを遂げるだろう。
飛べ! 私! 宇宙の彼方まで!! 今日、私は神になる。
ん? 飛ぶ? なんか「誘導」の使い方を思いついた。
まあ、いいや。それよりも今は『運命』を綴ろう。テラ楽しみヾ(*´∀`*)ノ!!風穴開けてやる!!
…………所々、意味不明だ。ゲロインってなんだ?
まあ、個人の日記なんてそんなものだ。
でも、綺麗な字で「うんち」って書いては駄目だ。
口は俺の方が悪いが、年頃の娘だ。でも、子供はうんちが好きだって言うし…………。年頃の娘の扱いがわからん。
まあ、基準として、モラルはよろしくないだろう。ちょっと気をつけてやろう。
うんちとは御手洗大作の事だろう。本人に「ゲロイン」については聞けばいい。ついでに、明が心に秘めていた秘密も、質問してみよう。
そんな事を考えながらページをめくる。
音のない部屋で、パラパラという音だけが響く。
そして、『お母さん』の文字に気付いて、めくる手を止める。
―――お母さんはどうしているだろうか。あの日、私を逃がしてお母さんは捕まった。ずっと洗脳された振りをしていたけど、バレてしまった。…………無事だろうか…………。
怖い。
お母さんが死ぬのが怖い。
一人になるのが怖い。
怖い。怖い。死にたくない。
だれか。
助けて。
「っ!…………ぐっ…………ぅ……ぁ」
最後のページ。
明の心がそこに書いてあった。
この日になにかあったのか。
綺麗な字を書く、明にしては乱れた文字に文脈。
書いてる事は、短かった。
だけど、俺は耐えられなかった。
俺は仲間の死ですら泣くことはなかった。
哀しみはもちろんあった。だが、心がどこか麻痺していた。
「うぁ…………ぐうぅ…………っ」
俺は声を殺して泣いた。
恐怖を叫ぶ少女に。
無力を嘆く少女に。
助けを求め、もがく少女に。
父の存在も知らず、父に助けを求めることもしなかった少女に。
「うぁ・・・ああああああぁあああぁぁぁああああああ」
そして、慟哭に変わる。
だが。
生きている。
明は生きている。
助ける。
助けてやる。
必ず、救ってみせる。
俺が奇跡を起こしてやる。
俺は覚悟を決めて、泣いた。
意地をはった、後悔。
守れなかった、後悔。
俺が弱かった、後悔。
後悔。後悔。後悔。後悔―――
俺はもう、悔やまない。
後悔、していた心は流そう。
涙と共に流そう。
明。
誓おう。
俺は、助けるために。
前に進む。
俺は、最強。
俺が、最強。
あの時の感動を忘れない。
戦場に、全てを置いてきた。
俺の、明。
感謝。
奇跡に感謝しよう。
後悔を撃ちだしたその跡に、感謝を込めよう。
――――――――――――トクン
脈打つものは、明の鼓動か、俺が腰に差す杖か。
微かに。
だけど、確かに。
俺の、頭に響いた。
12話からの方向性は2つありました。
12話から無双する方向。
もう一つが今みたいに、絶望を味わってからの希望。
ライトに軽いのは前者で、読みやすいというメリットがありました。
でも、最初に決めてた方向性は後者でした。
一話で海原氏が『パンドラボックス』と言ったのを覚えてるでしょうか?
パンドラらしく闇の中に光があった。そうゆう風にまとまっていればいいなー・・・。
次は間話
次回『15.5話:スペード編:しょうごでもちゅうに』
その次も間話
次々回『15.5話:カルマ編:賢者』
所詮はコメディ。その為の、ネガティブキャンペーンになってるかもです。
シリアスパートは終了~。
その次は新章予定です。
次に出すヒロインの大まかな概要は新章の一話目の後書きにでも書きます。
カルマ氏の開発した新機能を追加する予定です。
次々々回『16話:潜入捜査開始』