12話:嗤う後悔
2014/10/27に前話の11話を一部加筆。
12話に繋がりやすくする為です。
『ちょ! 駄目だよ!! 見逃すって言ってるんだから戦っちゃ!!?』
「…………スペードの母なんだろう?」
『…………そうみたいだね。けど、そいつは…………』
「スペードには地上に叩きつけられる俺を救ってもらった借りと、さっきの弱腰の俺を叱咤してくれた借りがある。」
『……けど、駄目だ。今は逃げなきゃ。』
一度、息を吸って天凶院が答える。
『君とスペードの前にも何人か、魔法少女がいたんだ。』
「…………」
『その魔法少女は今の君達よりもずっと、強かった。クイーンまで開放していたしね。』
俺は意識を切り替えていく。戦闘モードへ。
『けど、そいつに殺された。赤子のように!! だから今は駄目だ!逃げて!!』
俺は嗤う。戦場でこそ、ふてぶてしく。
天凶院の言葉を無視して駆け出した。
「俺のマグナムが火を吹くぜ!」
銃口を地面に向ける。
「爆破流星!!」
ドンっと弾丸が地面を穿つ。辺り一面が煙で視界が遮られる。
あの二丁拳銃に対抗する術は接近戦のみ! 視界を遮られれば狙いもつけられない!!
「ぐあっ!!」
肩を撃たれた。後ろへ吹き飛ぶ。
「視界を遮るですか・・・・。戦法としてはいいのでしょう。が、魔法使い同士の戦いで、それはあまりにも悪手です。」
何故、位置がわかるのかがわからない。
煙に乗じて気配を消した。
晴れていく視界。
威嚇する為に撃つ。
現実感に欠ける、その光景。
撃った弾丸を、全て撃ち落とされる。
なんだよ! あの技量は!?
クソ! どうする?どうすれば勝てる!?
『殺す』ではなく『捕縛』。
任務遂行の難易度が跳ね上がる。
実力もあっちが圧倒的。だが。嗤え。ふてぶてしく。
それを見て、アメルが呟く。
「…………貴方、どこかで…………」
勝機は接近戦のみ。
俺は駆け出そうと――――
「もうやめて!」
スペードが俺の前に、背を向けて立ちはだかる。
「…………いいでしょう。娘の友だと言った者です。命までは取りません。今日は元々、警告だけのつもりでした。」
「お母さん……」
「…………次に会う時までには私たちの所へ来る決意をして―――――」
そして。
それは突然起こった。
「やはは」
嗤う声が聞こえた。
続いて。
――パス。
そんな気の抜けた音が耳に届いた。
「あ」
ゆっくりと時間が進む。
スペードが震え、膝を折る。
そのまま倒れ込んだ。
スペードの胸から溢れる鮮血。
アメル頬に返り血が舞う。
赤。
紅。
あかい。
「ぁ」
「「あきらあぁぁぁあああああぁぁああああ!!!!」」
俺とアメルの咆哮が重なる。
「あぁあぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
何故だ!何が起こった!!?あまりにも突然すぎる!!
そんな中で声が響く。
「やはは。敵は殺さなくっちゃ駄目じゃん?」
そこに箒で浮かぶ女がいた。
「…………」
こいつが。
「………………」
こいつがやったのか。明を。
怒りで視界が歪む。思考が灼熱する。思うことは一つ。
殺す。
殺す。
殺す。
『mode Jack 強制解放。mode Queen 強制解放。精神不安定。心拍数増大―――』
頭で声が響く。だが、聴こえない。今は、どうでもいい。俺はこの女を。
殺す。
バクバクとなる鼓動。
怒りに染まる中で感じる、確かな力。手を伸ばし、それを掴もうと――――。
「貴様ぁああああ!!」
アメルが箒女に向かっていく。
込めるは弾丸。
起こす撃鉄。
描くは引き金。
あの女の心臓めがけて。
撃ち抜く。
俺も駆け出した――――
紅い軌跡を描いて、光の速度で。
奴の胸に手刀を放つ。
「や?」
咄嗟のガードで防がれる。
「っぐ!な!?」
奴が、後ろに吹き飛ぶ。
駆けた道に炎が上がる。
届かない。
もう一度。駆ける。
「あぁぁぁあああアアアアアアアアアああああ!!!」
吠える。
もう一度。駆ける。
届かない。
殺す。―――ドクン。
奴を殺せない。
手に持つ銃が灼熱する。
何かが生まれようとする感覚。
力の胎動。
足りない。
殺す。―――ドクン。
まだ足りない。
ありったけを。
届かないなら、何度でも駆けよう。
その為にありったけを。
明を傷つけた。
こいつを殺せる、ありったけを。
『mode Joker 反転解―――――』
―――ドクン。―――ドクン。
よこせ。
新たな力の胎動を、無理矢理引きずり出―――
『駄目だ!!』
天凶院が叫ぶ。だが、知った事か―――
『早く、スペードを連れ帰るんだ!! まだ手はあるかもしれない!!!!』
あぁ?
「―――……………………手があるかもしれない?」
『そうだ! 一刻も早く、僕の所にスペードを!!』
灼熱していた思考が醒めていく。
俺の中にあった力が霧散していく。
だが、でも。あのイカれた狂科学者ならできるかもしれない。けど、そこに妻もいる。逃げるなんて―――
「行ってください!!手があるならどうか!!私では救えません!!!」
「ぐっ! クソ!!」
俺は明を抱えて駆け出した。明を救う。優先順位を間違えたら終わりだ!
「やはは。駄目だって。なんか君、ちょっとおもしろいし。」
箒女がなにかしようとする。
それをアメルが止める。
「行かせません」
「ん? 何? 裏切るの? やはは。なんかおかしいなー」
俺は聞こえる銃撃と声を無視して駆け出す。
「天凶院!!どうすればいい!!」
『そのまま真っ直ぐ進んで! カプセルを配置した! それに乗るんだ!!』
俺は駆けた。真っ直ぐに。
視界に入るカプセルに乗り込む。
すぐにカプセルが動き出した。
『はやく! 早く! 速く!!』
天凶院の声が頭に響く。
その中で明を見る。
穿たれたのは心臓付近。
戦場で見たなら、まず捨て置く深い傷。
ギリギリで浅く、痙攣を起こしながらも息をしている。
俺の手を血が染め上げていく。
血が止まらない。
止まらない。
傷を押さえる。
止まらない。
溢れていく命を救えない。
ああ。
こんな。
考えるのは後悔。俺があそこで意地をはらなければ。
戦場にて最強。
それは、俺を置いて他が死ぬ。
それだけのこと。
俺はまた失う。
どうか。
どうか。
助けてください。
正直にいうとこの方向性で行くか迷っていました。
でも初志貫徹。頑張ってみます。
次回『13話:悪魔に祈る魔法少女』