11話:魔女襲来
アメル。それが妻の名前だった。
黒に近い色の髪。整った顔立ち。12年の歳月を経ても美しかった。
何故だ?
俺の妻はこんな気配を漂わせるような女じゃなかった。
…………
頭でかちりと、ピースが嵌る。
実験動物。
地底人と言ったか……。やつらは、俺が全て、駆逐する。
しかし、今は目の前のアメルだ。
なんとか連れ帰らねばならない。
だが、どうやって?これは胸を張って、自信をもてば倒せるレベルではない。
あの2丁拳銃をみて死を直結させた。
―――――とてもじゃないが、勝てるものじゃない。
感じる重圧が巨体の鬼よりも異質。
長年の経験で培ってきた、俺の、最強の、危機探知能力が駄目だと言っている。
スペードもいる。一旦、戦略的撤退を視野に入れるべきだ。
アメルが生きている。それが分かっただけでも!
そう考えていた。次のスペードの言葉を聞くまでは。
………………
「………………お母さん……」
………………
…………
………………
……………………
…………………………ぇ?
え?
『「は? え? お母さん?」』
俺と天凶院の声が重なる。こいつも知らなかったようだ。
唇を噛み締めながらスペードが言う。
「間違いありません。あの人は、私のお母さんです」
頭が真っ白になる。は?え?失踪してから、出来たのか?それとも―――
「っ―――――…………スペードは何歳だ?」
歳を聞く。うまい聞き方が思いつかなかった。
「え?11歳ですが……。」
「………………」
『ちょ!? ハートちゃん!! 大丈夫!! すごい心拍数だよ!? 顔も真っ青だし!』
きっと今の俺は、唇も真っ青で、脚も生まれたての子鹿のようにブルってるだろう。
失踪は12年前。
確かに失踪の前日とかお祝いでかなり飲んだ。記憶もあやふやだ。
ただ覚えていることはとても「熱い夜」だった。普段、クールな俺がヒートした日だ。「俺のマグナムが火を吹くぜ!」とか言ったかもしれない。いや流石にそんな下衆な発言はしていないか。
ただまあ実際、ブラストメテオはした。
お腹の中に10ヶ月。時期は合う。時期は合うのだ。
え?
なに?
じゃあ、この娘って。
俺の子か?
いやいやいや。
そんな偶然、あるのか?
ふと、気になる単語が蘇る。
「誘導」。
魔法。
俺は初めて、この娘に会ったときになんて思ったのだ?
……それよりも。この少女どこかで……?
記憶を漁るが見たことはない。だが確かにどこかで会ったような、、、。
そうだ。会ったことがある気がしていた。親近感を感じていた。
でも。だけど。いままで潜り抜けてきた、死線や修羅場。そんなものが赤子に思えるほど、俺は混乱していた。
「明。最期の警告に来ました。」
スペードが顔を上げる。スペードはアキラと言う名前のようだ。
漢字は明だと確信がある。光明。俺の名前から付けたのだ。
名前を聞いて確信した。
間違いない。
明は俺の娘だ。
決めたら、気持ちを捨て置く。
生き残るための手段だ。
正解がわからなくても進むしかないのだ。
立ち止まってると撃たれるだけだ。
気持ちが昂る。
心を満たすのは喜び。
半ば、諦めかけていた妻と会えた。二度と得ることないと思っていた、家族を得た。
感謝しよう。
全てを戦場に置いてきた、俺に起こった、確かな奇跡。
「私と共に行きましょう。地上の民を根絶やしにするのです。」
「……何を言っているの? 私を逃がしてくれたのはお母さんだよ?」
「あの時の私は、気付けなかったのです。地底人のすばらしさを」
「……いやだ。お母さんこそ、私と行こう?」
「私は、明と争いたい訳ではありません。また、来ます。それまでに気持ちを決めておくのですよ?」
「お母さん!!」
「でなければ、私は貴方を滅ぼさねばなりません。」
そんな噛み合うことのない会話。アメルの様子がどこかおかしい。会話が一方通行すぎる。
アメルは言い捨てて去ろうとする。
去ろうとするアメルを必死に明が呼び止める。
「お母さん…………お母さん!!」
と、涙を流しながら。
「止まれ」
俺が制止する。
「…………今日は危害を加えるつもりはありません。大人しく下がりなさい。」
「そうもいかない事情があるんだ。」
「……何故ですか?」
「明が……スペードが……むす、友達が泣いてるんだ。十分な理由だろう?」
「…………そうですか。ですが、貴方では絶対に勝てませんよ?」
そう言って、故意に抑えていた重圧を開放してくる。
……とんでもないな。俺の妻は。12年で随分と成長したようだ。
一度は死んだ。
死を乗り越えへ、俺は守るべきものを見つけた。
戦場だけしかなかった俺に心をくれた、大切なアメル。
そして、初めて出会う俺の娘。
必ず。取り戻す!!
※※
「やはは」
遠くに見えるはイケスカナイあの女。
サタン様のお気に入り。
雑魚のくせに。
目障りなあいつ。
しかし、思ったよりいい状況。
あの女だけは警戒していた。
あの時の痛みを思い出す。
「楽しく、愉しく。嗤って、引っ掻き回すにはどうしようか?」
目が、口が、三日月に歪むのを自覚する。
さあ。
どうやって虐めよう?
ようやくハードボイルドな感じが出てきたでしょうか?
もう既に展開読んでいた人がいるかもしれません。
展開を読んでいた人が、ひぐらしのなく頃にの正解率1%位の割合だったらいいのですが・・・。
次回『12話:嗤う後悔』
ここまで純度100%の悪ふざけでしたがシリアスにがんばる( ・ὢ・ )