9話:はじめての変身
ようやくやつが変身します。
俺は昔、結婚してた。
言葉に語弊がある。事実婚のようなものだ。
あまり公に出来る素性ではなかった。その為、婚姻届けなんてものは出していない。出せない、が正しいか。
もう15年前から3年程。
別れた…………というのだろうか?
妻は12年前に失踪した。
忽然と。失踪する前も特に違和感はなかったように思う。
前日は二人でちょっとしたお祝いをしていたくらいだ。
特殊な素性の俺たちだ。
妻は2丁拳銃を扱う戦士だった。『百発百中』という言葉は彼女の為にあるような言葉だった。
2丁拳銃で外さないのだ。当てる場所も的確。この能力に関しては妻は特別だった。
超能力を疑うほどに、精密で、正確。そして速かった。
失踪したからといって失踪届けも出せない。
出したところで公的機関が見つけられるとも思えない。
俺はあの日からことあるごとに、妻の行方を探した。
自身で進んでなければ、ありえない程に手掛かりがなかった。
だが、いきなり失踪する理由がない。身辺を調べても見たが、特に何かを抱えているとい訳でもなさそうだった。
だから、連れ去られた可能性に重点を置いて調べた。失踪の原因を。
手掛かりはなし。色んなスペシャリストにも頼んだが分からなかった。
それを天凶院は――――――
「貴様!! 何を知っている!!」
長年、探し求めた糸口がようやく見えたのだ。
こいつはなにか知っているのか。もしくはこいつが犯人―――
『僕は犯人じゃないからね。年増は趣味じゃない。知ってるかもしれないって程度の情報だけど。』
「・・・・クソっ」
わかった。やってやる。泥水を啜ってでも欲しい情報だ。
俺は杖を構えた。
「待って」
スペードに止められる。
「貴方の呪文は『我、闇を撃ち抜く光とならん!』だから。間違えないで」
なにか違うのだろうか?
『こだわりは大事だよね』
なんの事かはわからんが、さっさとやる。
俺は杖を構えた。
杖を頭上に掲げ、円を描く。
そこに魔方陣が浮かび上がった。
「我、闇を撃ち抜く光とならん!」
魔方陣が俺のの頭上より落ちていく。
俺を包み込んでいく。
光に包まれながら俺が変身を遂げていく。
杖が銃へと変わる。
くるりと回って、銃を構えた。
「魔法少女キルマ☆カルマ! ハート推参!」
スペードを見たままをイメージして、やってみた。
……本当に出来た。これが天凶院の言う魔法か……。
羞恥もあったが驚きが凌駕した。
姿は見れないが、服が変わっていた。サクラ色と白を基調としたフリフリした服だ。
まあ顔や髪もスペードと似たようなことになっているのだろう。
それよりも。なんだ? このパワーは?
内から溢れ出すようなパワーを感じる。凄まじい。転がる石を拾って握ってみる。爆砕した。
「っな!?」
『魔力で強化されてるからそれくらいはね。まだ初っ端だし、スタミナも追いつかないから、ちょっとセーブしてね。』
「とりあえずやったぞ。早く情報を…………」
『敵を倒してからだよ?って言いたいところだけど、その地下帝国に住む地底人が、おそらく攫ったんだと思うよ』
―――――!!?
複数の気配を感じて、そちらを見やる。
4足歩行の奇怪な化け物が…………10匹程迫ってきていた。
「なんだ! あれは!!」
「あれは地底人の作った、実験動物の成れの果てです。」
スペードが答える。
「ああなってしまうと、殺してあげるのがせめてもの慈悲です」
スペードが悲しげに言う。
「気を付けてください。失敗作とはいえ、身体能力は馬鹿になりませんので」
スペードが剣を構える。
「見ていてください。魔法とは即ち、イメージです。」
剣に光が灯る。
「っは!」
光が刃となり化け物を襲う。一匹の化け物がまっぷたつに切り裂かれた。
「さあ。ハートもお願いします」
「……」
俺はリボルバーを構えた。ここまで来て、天凶院の技術や、スペードの言っていることは疑っていない。
とりえずやってみる。使えるものはなんでも使う。戦場で生き残る為のコツの一つだ。
イメージする。武器は手に馴染んだ銃だ。リボルバー。癖が強いが俺も好きな銃だ。
撃鉄がない。が、イメージする。心の中で撃鉄を起こす。
狙いを絞り、引き金を引く。
ドンと大気を震わせる音と共に光が化け物を打ち抜く。
「やりましたね!」
スペードが微笑んでくれる。戦場の中であるが、少し和んだ。
『はっはー。そりゃあ僕の作った魔道具だからね!魔法を使うためのプロセスを機械が自動でやるわけさ。イメージを読み取って、必要な魔力量の計算を――――』
「話は後です。マスター。まずは殲滅します。」
『おっと。そだね。けど、今日はハートちゃんが頼むよ。』
「…………わかった」
言うとおりに動くのは癪ではある。
ただ、反論する意味もあまりない。戦うことくらいしか出来ない人間だ。
それにスペードのような少女に、化け物とはいえ生物を殺させるのは多少、抵抗もあった。
イメージして撃つ。それを繰り返して、残りの8匹を屠っていく。
色々試して分かったことがあった。
引き金同様に弾がない。ないが弾切れを起こす気配もない。
魔力というものなのだろう。
強めにイメージを持って撃ってみると、化け物が爆砕した。
威力が跳ね上がるようだ。実に軽い。
武器自体の重さではなく、武器としての使用感が現代兵器のリボルバーと比べると、恐ろしく軽いのだ。
実にあっけなく、殲滅が終わった。
「…………こんなもんか?」
『違う。こんなのはただの雑魚。今のは失敗作。』
「―――――来ます!!」
スペードが吠える。
一面、岩の空を見上げる。そこから降ってくる巨大な――――鬼?
もうちょいしたら伏線回収予定です。
次回『10話:鬼』




