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六月と蒼い月  作者: 金時るるの
六月と兄弟
23/84

六月と兄弟 5

 洗面所でマフラーを洗おうと蛇口を捻る。その時ちりんという涼しげな音がしたので、慌てて端っこに付けていた鈴を外し、ポケットに入れる。

 蛇口から流れ出る水は刺すように冷たいが、そんな事は気にならなかった。ただ、マフラーにかけられたコーヒーの汚れが落ちるかどうか。それだけが心配だった。

 どうしよう。せっかくクルトに貰ったマフラーなのに。大切に使うって言ったのに。

 不安と焦燥がわたしの心を支配し、ひたすらごしごしと擦り続ける。


 すぐに洗ったのが良かったのか、暫くするとなんとかコーヒーの汚れは落ちたが、マフラーはびしゃびしゃになってしまった。

 でも、乾かせばきっと元に戻るはずだ。とりあえず安堵の溜息を漏らす。


 上着も脱いで同じように洗う。こっちは軽く洗う程度でいい。後で洗濯に出そう。

 顔をざぶざぶと洗い、髪を束ねているリボンを解くと、蛇口の下に頭を突っ込む。冷たい水が髪から染みこんで、顔や首筋を流れ落ちるが、コーヒー塗れでいるよりはずっといい。

 髪のべたつきが取れると、他の生徒達に好奇な目を向けられるのが嫌で、水が滴るのもそのままに濡れた衣服を抱えて自分の部屋に駆け込む。

 勢い良く開いたドアと水浸しのわたしを見て、クルトが驚いたようにソファから立ち上がる。


「どうしたんだ? その格好……」

「わたし……家族(ファミーユ)に弄ばれました……」






 濡れた服を着替えている間にクルトがお茶を淹れてくれた。冷えた身体にゆっくりと温かい紅茶を流し込んでいくと、ようやく人心地ついた気分だ。

 タオルで髪を拭きながら、クルトに先程の出来事を説明する。


「……それはまた、随分悪趣味な事をする上級生がいるんだな」

「やっぱりそう思いますよね!? 特にあの二年生、絶対性格悪いです。三年生も邪魔するし……いつかあの人の眼鏡ケースにカブトムシの幼虫を入れてやります」


 そんなわたしの悪態を気に留めることなくクルトは呟く。 


「……正直おかしいと思っていた」


 わたしは髪を拭く手を止めてクルトの顔をみつめる。彼は腕組みして難しい顔をしている。


「弟みたいだとか、お兄ちゃんと呼んでくれだとか、初対面の人間に対してそんな事言わないだろう?」

「え? そ、そうですか……?」

「やっぱりお前、気付いてなかったんだな。お前の置かれてた環境では普通の事だったのかもしれないが、大抵の人間は言わないし、もしそんな事を言われてもまずは不審に思うはずだ。それをしなかったのは、未だにお前に『一緒に住めば家族も同然』なんて考えが染み付いてるからだろう。だから明らかに不自然な事でも簡単に受け入れてしまったんだ」

「そんな……」


 でも、クルトの言うとおりなのかもしれない。確かに彼は以前にもわたしのそんな考え方をおかしいと言っていた。


「……それじゃあ、クルトは気付いてたんですか? わたしの家族(ファミーユ)が変だって事。それなら、今まで黙っていたのはどうして……」

「それは……あの時のお前は、なんていうか、その……機嫌が良さそうだったし、俺の思い過ごしなら、わざわざ水を差す必要も無いかと思って……」


 そうだったのか……

 違和感を見過ごしていたのは自分だけだったのだ。いや、もしかすると敢えて気付かないふりをしていたのかもしれない。

 気付いたら家族(ファミーユ)の存在を疑ってしまうことになるから。


「……わたし、弟みたいだなんて言われて浮かれてました。もしかしたら、孤児院にいた頃と同じように、ここでも他人ときょうだいのような関係が築けるんじゃないか、なんて期待して……でも、そんな事ありえなかったのかな……あの上級生たちは、冗談を真に受けるわたしを見て心の中で笑っていたのかも……わたし、なんて馬鹿なんだろう」


 わたしはシャツの胸のあたりをぎゅっと掴む。なんだかそこが痛いような気がする。

 心のどこかで埋まりかけた穴が、また空いてしまったみたいな喪失感だ。


 がっくりと肩を落としてうなだれていると、視界の端に入るクルトの様子がなんだかおかしい事に気付いた。

 やたら腕を組み替えたり、何度もソファに座り直したり、落ち着きが無い。


「……どうかしました?」


 不思議に思って声を掛けるが、クルトはびくっとしてわたしの顔を見たかと思うと、すぐに視線を逸らす。


「いや、なんでもない……」

「ほんとに? クルト、さっきから変ですよ。なんだかそわそわしてるみたいだし……まだわたしの顔にコーヒー付いてますか?」


 念のためタオルで顔を擦るが、クルトは首を横に振り、言いづらそうに口を開く。


「そうじゃなくて、その……また、お前が泣くんじゃないかと思って……」

「な、泣きませんよ! どうしてわざわざそういう事言うんですか!?」

「だって、そういう顔してた……それに、言わなかったらやっぱり泣くかもしれないし……」

「だから泣きませんってば!」


 そうは言ったが、正直、少し泣きそうだった。

 でも、わたしが泣いたら、クルトはまた、いつもの困ったような声で「泣くな」って言ってうろたえるんだろう。今だってこんなに気にしている。

 そう思うと泣きたくなかった。

 でも、今まで涙を流すことによって昂ぶった気持ちを沈静化させていた部分もある。だから泣けないとなるとそれはそれで治まらない。


 わたしはソファから立ち上がると、テーブルを回り込んでクルトの隣に腰掛ける。

 右手を差し出すと、クルトが怪訝そうな顔をした。


「なんだ?」

「指相撲です」

「うん?」

「わたし、今、無性に指相撲がしたい気分なんです。だから相手してください」


 クルトはわたしの顔と手とを交互に見ていたが、やがておずおずと右手をこちらに差し出してくる。

 それが引っ込められないうちに素早く掴むと、強引に指相撲の形に持ち込む。

 だが、あっという間にクルトに10カウント取られてしまった。


「クルト、強い……」

「当たり前だろう。指の長さが全然違う」

「うう……もう一回! もう一回お願いします!」


 頼み込んだものの、わたしはまたあっさりと負けてしまった。


「く、くやしい……もう一回!」

「何度やっても同じだと思うけどな」


 言ってるうちに親指を押さえ込まれそうになり、わたしの親指は必死に逃げまわる。


「クルトって、結構負けず嫌いですよね」

「お前だって人の事言えないだろ」

「でも、前に『勝負を受けなければ負ける事は無い』なんて言ってたのに……こうして勝負を受けるって事は、もしかして、わたしには負けないと思ってるんですか?」

「お前こそ俺に勝てると思ってるのか? それこそありえない。言っておくが、俺は手加減するつもりはないぞ。ただ勝つのもつまらないし、お前が『参りました』と言うまでやめないからな」 

「わたしだって、クルトを負かすまでやめませんから!」


 そう言い合っていると、いつの間にか笑みが零れた。クルトも釣られたように少し笑っている。わたしが泣き出さなかったので安心したのかもしれない。

 そうして二人の勝負は、夕食を知らせる鐘の音に中断されるまで続いた。






 翌日、わたしは図書館にいた。この間ふと読んだ小説が思いのほか面白く、続きを探していたのだ。

 だが、前回読んだ本の隣に続巻は無く、あたりを見回すと、隣の棚の一段高い場所に目当ての本は納まっていた。

 台を使えば簡単に届くだろうけれど……でも、頑張れば届くような気がする。

 つま先立って手を伸ばすと、指が背表紙に触れる。

 もう少し、というところで背後から誰かの手が伸びてきて本を抜き取る。


「はい、この本で良いのかな?」

「あ、ありがとうございま……」


 お礼を言いかけてはっとする。

 本を取ってくれたのは、アルベルトだった。

 差し出された本を受け取るかどうか迷っていると、アルベルトは気まずそうに眼鏡を指で押し上げる。


「そんなに警戒しないでくれよ……って言っても無理な話か。昨日はすまなかったね。酷い事したと思ってる。君は二度と話しかけるなって言ったけど、どうしても謝りたくてさ。ちょうどこの建物に入っていくのが見えたから……」

「……昨日のことなら、別にもう怒ってませんよ」

「えっ? あれを怒ってないって、君、聖人かなにか!?」


 目を丸くするアルベルトに、わたしは説明する。


「ああ、いえ、わたしの家はきょうだいが大勢いたんですよ。だから喧嘩だとか揉め事は毎日のように起きていて……でも、家の中ではみんな仲良くしましょうって言われていたし、実際そうしないと暮らしていけませんでした。たとえ殴り合いの喧嘩をしても、翌日になれば自然と仲直りしてたんです。その感覚が残っていて、どんなに腹の立つ事があっても、一日経つと平気になるように出来ているんですよ」


 それは事実だった。孤児院での長年に渡る習慣が、わたしの中の怒りという感情を持続させないようにしていた。

 それに、クルトにも気晴らしに付き合って貰ったので、ほとんどいつも通りに戻っていた。


「だから、怒ってはいませんけど……本に変な細工してませんよね?」

「してない、してないよ。大丈夫だって。ああ、もう、どうしたら信用してもらえるかな……」


 アルベルトは自身の潔白を示すかのように、手にしたハードカバーの本をひっくり返してわたしに見せる。

 おそるおそる受け取ると、彼の顔にようやく安堵の色が浮かんだ。


「その本、オレも読んだことがあるよ」

「ほんとですか? 」


 驚きの声を上げるわたしにアルベルトは頷く。


「うん。結構面白かったような気がする。でも、結末は知らないんだ。読んだ当時、この図書館には途中までしか置いてなくてさ。ずいぶん前の事だったから、今日手に取るまで忘れてたよ。こうして見る限り、いまだに続きは配架されてないみたいだね」


 そう言って本棚を見回す。


「えっ、それじゃあ、わたしもこの本の結末がわからないままって事ですか? そんなあ……」


 せっかくここまで読んだというのに、それでは生殺し状態ではないか。

 そう考えたところでわたしはふと思いつく。


「でも、ほら、ただ単にこの棚に置かれていないだけで、続きはこの図書館に存在するのかも」

「間違って別のジャンルの棚に置かれているって事かな?」

「うーん……それだと書架の整理をする職員が気付いて、正しい場所に並べ直すと思うんですよね」

「それじゃあ、どういう事?」

「ええと、出版元が変わったとか……」

「だとしても、同じ棚に並んでないのは変だと思うなあ」

「でも、本の大きさ自体が変わったとしたら?」


 わたしは持っている本を胸の辺りに掲げる。


「たとえば、この小説はハードカバーですけど、出版元が変わった際に文庫本として刊行されたのかも……もしかして、この小説は既に完結していて、かつては全巻揃っていたのかもしれません。でも、途中の巻から紛失してしまった。これだけたくさんの本がある場所なら、よくある事でしょう。紛失に気付いた図書館側は当然補完しようとしますが、それが出来なかった。その場合、考えられる理由は、絶版になったか、出版社がなくなったかで、本が入手できなくなったから。でも、もしもその後で別の出版元が改めて刊行したとしたら、図書館側もそれを取り寄せて配架するんじゃないかと思うんです。けれど、この本棚にはこの小説の続きは置いていない。なぜなら大きさが違うから」


 アルベルトは黙って話を聞いている。


「ふつう、内容が同じだとしても大きいハードカバーの隣に小さな文庫本は並べませんよね。その分同じ大きさの本を並べたほうが棚の空間の無駄が少ないですから。だから、そういう理由でこの本の続きが置いてあるとしたら、ここではなく文庫本の棚のはずです」


 そこまで言って、わたしは慌てて付け加える。


「ああ、あくまでもこの本の続きがあると仮定した場合の可能性のひとつとしての話です。この小説も元々ハードカバーしか存在しない上に未完、もしくは紛失したままなのかもしれません。むしろ、そっちの確率のほうが高いですね。でも、せっかく面白いのに続きがないなんて残念だし、あったらいいなという、わたしの都合のいい願望も含めて考えてしまいました」


 話を聞き終えたアルベルトは、興味深そうな目をわたしに向ける。


「へえ、君って結構想像力が逞しいんだね。でも、案外当たってるかもしれないよ。コーヒーに混ぜ物をしたことにも気が付いたし、勘がいいのかな」


 その言葉にはっとする。


「……聞いていいですか? どうして、昨日はあんな事を? わたし、あなた達に何かしました?」


 怒ってはいないが、やっぱり気にはなる。

 おそるおそる問うと、アルベルトは慌てて首を振る。


「いいや、君は悪くないよ。ちょっと新入生を驚かせてやろうってイザークの発案で……本来なら三年のオレが彼を抑えるべきだったんだけど……」

「でも、わたしがイザークに手を上げようとしたら止めましたよね? あなたも彼側の人間なんじゃないんですか?」

「それは……あくまで彼は、君にコーヒーを掛けたことを『手が滑った』って言ってたし、あの後もそう主張しただろうね。そうなると君があのまま彼を殴って騒ぎになったとしたら、君のほうが不利になるんじゃないかと思ってさ。誤ってコーヒーを掛けられただけで上級生を殴ったって。オレにはそれを回避するくらいしか出来なかったんだ……君、イザークの事、どう思った?」

「え? ええと、王子様みたいな人だなーと……」


 唐突に問われて、変な事を口走ってしまったが、それを聞いたアルベルトは笑うこともなく、顎に手を当てて何かを考えるような仕草をする。


「そう。彼、王子様みたいなんだよ。なんていうか、周りが自分の思い通りにならないと気が済まないようなところがあってね。それに、すごく気分屋でさ。機嫌よさそうにしていたかと思えば、ほんの些細なことにイライラして癇癪を起こしたり。昨日もたぶん、君をからかうつもりで飲み物に細工したけど、予想に反して君がやり返してきたから、イザークもかっとなってあんな事をしたんじゃないかな。プライドが高いから顔には出さなかったけど」


 外見だけではなく、振る舞いも王子様みたいなんだろうか。

 でも、あんな人の治める国の国民にはなりたくない。


「けれど、不思議とそれが許されているようなところがあるんだよね。普通はそんな事ばかりしていたら、周りから浮いてしまうだろうけど、彼はそれでも気にしないって態度なんだ。だから、みんな諦めているのかも」


 だからって、あんな傍若無人な振る舞いを誰も咎めないだなんで。そんな周囲の人々のほうがわたしよりもよっぽど聖人のようだと思う。


「あなたも、そのせいで彼をどうにもできなかったんですか?」

「あ、いや、ええと……確かにそれもあるけど、オレの場合は……」


 アルベルトは落ち着かない様子で眼鏡を外すと、ハンカチを取り出してレンズを拭き始める。


「変な話だけど……彼ってオレの姉に少し似ててさ。ああ、勿論、外見の話じゃないよ。オレの姉もたまに癇癪を起こして、周りに八つ当たりするんだ。そんな時、オレは彼女の機嫌が直るまで、ただ黙って嵐が過ぎ去るのを待ってた。だから同じように癇癪を起こすイザークに対しても似たような対応をしてしまうんだ。情けない話だけど、事なかれ主義が染み付いているのかもしれないね」


 俯いている彼の顔は、なんだか恥ずかしそうにしているように見えた。


「でも、それが一番平和的な方法なのかもしれません。わたし、家ではきょうだい達とよく喧嘩していたので、昨日もその時の感覚で、つい手が出てしまって……それに、あんまり腹が立ったので、イザークの部屋にいる時、ソファの背もたれの隙間にチョコレートを一粒詰めてきてしまったんです」

「ええ? そんな事してたんだ。いつのまに……」

「そのうち虫が湧いてイザークが少しでも困ればいい気味だなんて思ったんですけど……よく考えたらあの人のルームメイトにも迷惑をかけてしまいますよね」

「うーん……その点なら問題ないと思うけど。あの部屋は彼しか使ってないはずだから」

「ルームメイトがいないんですか?」


 わたしの問いに、アルベルトは眼鏡を掛けなおす。


「そう、一年の時からずっとあの部屋をひとりで使ってるんだ」

「えっ? ひとりで……?」

「部屋割りの都合でひとりだけあぶれてしまって仕方なく……って言われてるけど、でも、一方ではイザークはどこぞの権力者の子息なんじゃないかって噂もあるんだ。だから特別扱いされてるとか。それも、周囲が彼に強く出られない理由のひとつかもしれないね。まあ、本当のところはどうかわからないんだけど」


 一年生の時からずっとひとり……寂しくないんだろうか? 自分だったら耐えられそうにない。

 でも、そんなふうに自分と彼とを比べることが間違っているのかも。あの人とはもう人種からして違うような気がする。人の言葉を借りるなら、わたしは野良猫で、イザークは王子様なのだ。


「……どうしよう」


 思わずわたしは呟く。


「その噂が本当だとして、イザークの部屋のソファにチョコレートを詰めたのがバレたら大変なことになるんじゃ……? もしかして、わたし、退学になったりとかしませんよね……? 権力者の息子に変なことしたって責められたりして……」

「まさか」


 アルベルトが苦笑する。


「そんなに心配なら、オレが彼の部屋に行った時に、隙を見て回収しておくよ。それで良いかな?」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」


 その言葉は天からの助けのように思えた。あんな事があったばかりだし、わたしがイザークの部屋を訪ねるのは躊躇われた。


「……でも、どうしてそこまでしてくれるんですか? イザークに知られたら、面倒くさい事になるかもしれませんよ」


 つい疑いの目を向けてしまう。

 こうして話をしていると、アルベルトは信用できるような気がするが、世の中にはイザークのように、笑顔で酷い事をする人だっているのだ。


「それは、君があまりにも簡単にイザークの言葉を信じてしまったのを見て、少し心配になってさ。君のほうはどうか知らないけど、オレは一応君の事、家族(ファミーユ)だと思ってるから。昨日あんな事をした後で説得力ないし、我ながら調子のいい事言ってるのはわかってるけど、少しでも君の信頼が回復できればと思ってね。罪滅ぼしってところかな」


 アルベルトはそう言って肩を竦めた。


「とりあえず、オレの話せることは話したつもり。それを信用できるかどうかの判断は君に任せるけど。ともかく、今後は何かあったらできる限り協力するからさ。学校の事でも、課題の事でも良いよ。なんでも相談してもらえたらと思って」


 なるほど。だから色々話してくれたんだろうか。イザークの事も、彼自身の事も。


「それじゃあ、もしもの時はお願いしますね。おにいちゃん」


 皮肉と少しの期待を込めてそう呼びかけると、アルベルトは困ったように眼鏡を指で押し上げる。


「参ったな。やっぱりまだ昨日の事を根に持ってるの? 頼むから普通に名前で呼んでくれないかな?」


 その答えを聞いて、わたしは小さく溜息を漏らした。

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