再会
「夕焼け小焼けの赤とんぼー」
そう、二人で歌を歌ったのは、いつのことだったか。
君も、僕も、あれからずいぶんと時がたち、大人になった。
もう、愛だの恋だの言っていられる年じゃない。そう、思っていた。
四月。僕のいる会社も御多分にもれず、新入社員を迎える時期になった。
僕は昨年の功績なのか、部長に昇進した。
僕の目の前では、新入社員の挨拶が行われている。僕はそれをぼーっと見ながら、他のことを考えていた。
「小田恵です」
その名前にはっと我に返り、声の主を見たとき、僕は自分の目を疑った。
彼女は僕の幼馴染だった。昔、二人で歌った赤とんぼ、覚えているかな、そんなことを考えたのに、向うはこちらの様子に気づく様子もなく、ぺこりとお辞儀をした。
まあ、そんな昔のことを覚えているはずもないか。
「時に、小田君」
社長がもったいぶって口を開いた。まずい。僕は本能的にそう感じた。
「君にはおつきあいしている男性はいるのかね」
しかし彼女は僕の心配などお構いなしににっこり笑って答えた。
「お気遣いありがとうございます。ですが私にはこの方と決めた方がいますので」
それを聞いた僕は、安心とも落胆ともつかない感情に襲われた。
そして僕は確信した。僕は彼女のことが好きなのだと。
「それでは」
そう会釈をして次の紹介にさっさと移らせようとする、その手並みは場馴れしていた。
変わらない、そう思った僕の肩を恵ちゃん、いや小田さんがたたいた。
「相変わらずだね、きょうちゃん」
その瞬間、周りのほかの社員がざわついた。社長までもがこちらをじっと見ている。
次の人が自己紹介をしていたけれど、誰も聞いていない。
恵ちゃんはかわいくなった、それは僕も認める、けど。
「ひさしぶり……小田さん」
僕がそういうと恵ちゃんは少しだけ傷ついたような表情をした。
そんな表情されたら罪悪感があるじゃないか。
「これからよろしくお願いします、沢部長」
しかし、彼女はそれだけ言うと、自分に与えられた机に向かった。