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僕らの見ている世界

作者: 黒宮湊


 春になると100本にも及ぶ桜が咲き乱れる県立桜田高等学校。


 僕は今年、ここの普通科に入学した。


 平凡な成績で、平均的な身長。

 顔も普通で、何一つ取り柄の無い男子高校生だ。


 そして、この桜田高校に入学してから早2ヶ月。


 僕には、未だに理解出来ないものがある。




 この教室の窓際の一番後ろの席。

 その席はいつも空いている。

 そう思っていた。


 でも、皆は違った。


 そこには誰も座っていない"はずだった"。


 なのに皆は、"僕には見えない誰か"といつもとても楽しそうに会話している。


 誰かいるのかと思ったから、試しに話し掛けてみた事もあるが、



───…誰もいないのに…話し掛けてる…。



 なんて変な噂を立てられてしまった挙げ句、友達を作る機会も逃した。


 周りからは電波だと思われて、クラス内では孤立。

 窓際のアイツのせいで、僕は花の高校生活の出鼻を思いっきり挫かれたんだ。


 そんな窓際のアイツの事を、僕は"窓際さん"と呼ぶ事にした。


 男か女か分かんないから、どっちでも無いように呼ぶ事にした。


 そんな窓際さんは、今日もクラスの人気者である。





 1時限目、『現代文』


 僕はこの現代文という授業に疑問を持つ。

 何故日本語ペラペラな日本人が、改めて日本語を学ばなければならないのか。

 全くもって意味が分からない。


「主人公はこの時、何を思っていたと思いますか?」


 こんな質問をよく聞く。

 主人公が何を思っていたかなんて文章をよく読んだら分かるのだから、わざわざ聞く必要なんてないのに。


 でも、当てられた人はすぐに"分からない"と言って解答権を放棄する。


 そういう人を見ると、現代文という授業は必要なんだ、って思えてくる。


 別に、僕は優れているから必要ないと言ってるわけじゃない。


 分かる事を"分からない"と言ってその場をしのごうとする人には、特に必要なんだろうなって思っただけ。


 まぁ、現代文に限らず、全ての教科に共通するけど。


 僕は違うかって?


 いや、実はどちらかというと僕もそっちに入る。


 けれど、僕は"当てられない"から大丈夫なんだ。


「……〜だよねー…」

「…本当ね〜…」


 小声で喋る女生徒がいる。


「こらそこ! うるさいよ!」

「「はーい、すみませーん」」


 あーあ、先生に怒られた。

 真面目にしてれば怒られる事なんて無いのに、何でわざわざ授業中に喋るのだろう?


 さらに僕の斜め前の席の人は、先生の目を盗んで携帯をいじっている。

 何でわざわざ授業中に携帯をいじるんだろう?

 携帯依存症か?


「おい倉田! どこ見てんだ! 集中しろ!」

「えっ、あ…すみません…」


 しまった…。

 よそ見がバレた…。


「…クスクスッ…」

「………」

「…バカだ〜っ…」


 注意されてたのは僕だけじゃないはずなのに、何故か僕だけ笑われている。


 これが窓際さんだったら、誰も笑わないのだろう。


 ……いや、笑うと思う。


 笑うんだろうけど、馬鹿にしたような笑いじゃなくて、楽しげに、可笑しそうに笑うんだろう。


 それが、僕と窓際さんの違いだ。


 光と影のように、窓際さんと僕とでは違いがあり過ぎる。


 僕の理想の人物像、と言えば、それはそれで合っている気がする。


 でも、影がどんなに光を憧れていても、絶対に光にはなれない。


 光があるから影が生まれる。

 言わば、光は影の母だ。


 そんな母に僕はなれない。


 僕以上の影なんてこの学校には存在しないから。




 1時限目が終わり、休憩時間になった。


「"根暗田"が怒られてた〜!」

「マジ笑っちゃうよね〜!」


 お前らだって注意されたくせに。

 てゆうか、そういうことを本人がいる場で、しかも大声で言わないでくれないかな。

 変なあだ名まで付けてさ。


 誰のせいで根暗になったと思ってんだよ。


 さっきからお前達が一緒に話してる窓際さんのせいだよ!


 あ…、コホンッ…。

 と、とにかく、窓際さんに話し掛けた事が原因で僕は"電波"だと思われている。


 でも僕からしたら、お前ら全員電波だかんな?


 何で誰も居ない机に話し掛けてんだよ。


 それとも、窓際さんは透明人間なのか?

 僕に対してだけの?


 おかしいだろ。


 何で"僕だけ"なんだよ。


 絶対"そこ"には誰もいないはずなんだ。


 でも、"誰もいない"って思ってるのに、"窓際さん"って言ってる僕は、"誰かいる"って思ってるんだろうね。

 なんか矛盾してる。


 でも、もし、本当にそこに誰かいるのだとしたら…、何で僕には見えないのだろう?


 僕は皆と違う?


 いいや、違わない。


 ただのしがない男子高校生だ。


 変な言い方だけど、絵に描いたような平凡さだ。


 では何故、僕には見えないのか?


 僕が"影"だから?

 "影"だから、"光"は眩しすぎて見えないの?


 ……何ソレ。


 考えているうちに馬鹿馬鹿しくなってきた僕は、それについて追究する事をやめた。

 追究したところで、僕の置かれている状況は変わらない。

 窓際さんがもし本当に透明人間だったとしても、僕が得するという事はない。


 僕がクラスで浮いている事実は、もう覆せないんだ。


 窓際さんと僕は全く関係がない。


 ない…はずなのに、僕は窓際さんの事を考えてしまう。


 窓際さんの情報なんて一切無いのに、存在しているのかどうかすら分からないのに、僕は1日の大半を窓際さんの事を考えて過ごしてしまっている。


 馬鹿馬鹿しい。

 本当に馬鹿馬鹿しい。


 そんな事を考えている間も窓際さんの事を考えているという迷路に入っている事に僕が気付いた頃、休憩終了のチャイムが鳴った。





 2時限目、『数学』


 僕は数学が好きだ。

 方程式を使えば必ず解けるという絶対的な安心があるからだ。


 でも、調子に乗ってはいけない。


 僕が目立てばそれだけ周りからの批判も多くなるから。


 影の僕は目立ってはいけない。

 目立つのは、光である窓際さんだけでいいんだ。


 ……また窓際さんのこと考えちゃったよ…。


「前田、この問題お願いな」

「え〜、分かんないっすよ〜」

「お前ならいけるだろ〜」

「ほらほら喋ってないで解け」

「だから分からないって〜」


 出た、"分からない"。

 高校生なのにそんな問題も分からないのかよ。


「まぁいい。じゃあ加藤」

「えー」


 こういう時に当てられたいと思うんだけど、何故か当てられない。

 名簿順で当てていても何故か飛ばされる。


 でも、これは窓際さんも同じ。


 窓際さんも僕と同じで当てられたことが無い。


 窓際さんが呼ばれたことも、恐らく無い。


 僕より窓側だから、"倉田"より前の名字な事は確かだ。


 でも、それだけ。


 呼ばれている所を見たことが無いから僕は、入学した頃から"窓際さん"と呼んでいる。


 ってか、"倉田"より前だって言ってるのに"窓際さん"とか、自分バカだな。


 ………あ、また"窓際さんがいることを前提にして"話してしまった。


 まぁ、僕には友達がいないし、趣味もないから、話す事と言ったら窓際さんの事しかない。

 話す相手もいないけど。


「こら倉田!」

「あ…」


 しまった…。

 またよそ見がバレた…。





 何だかんだでもう1日が終わってしまい、放課後になった。

 皆は部活に行ったり、友達と遊びに行ったり、人それぞれに過ごす時間帯。


 僕は帰宅部だし、一緒に遊ぶ友達もいないから直帰だけど。


「あっ…」


 ちょうど駅に着こうとした頃に、教室に携帯を忘れてきたことに気付いた。


 別に連絡をとる相手もいないしそのまま帰ろうかと思ったけど、誰かに盗られると嫌なので結局取りに戻ることにした。


 自分でも不思議に思うくらい、自然に学校へと戻っていた。


 いつも早く帰りたいから、いち早く電車に乗って帰るのに、何故か今日は早く帰りたいという気持ちが無かった。

 僕にとって苦しい牢獄のような学校へと、何の躊躇いもなく足が進んでいた。


 でも、この判断が僕の今後を変える事となった。





 携帯を取りに学校に戻ってきた僕は門の前で立ち止まっていた。

 そこに何かあったというわけではないんだけれど、知らぬがままに足が止まった。



 何故か突然、自分の体なのに自分の意志では動かせない、といった感覚に陥っていたのだ。



「……っ…」


 何でだろっ…。

 足が動かせないっ…。


 コンクリートで固められてしまったかのように重く、膝すら曲げられない。

 金縛りのように誰かに押さえつけられているみたいで上半身も動かせない。


 得体の知れない恐怖で、6月といってもまだ少し肌寒いのに変な汗が溢れ出てくる。


 何で…?

 何で動かないの…?


「……っ…!」


 何故か声も出せない。

 あ、いや、これは恐怖でだ。


 もともと大きな声を出すような人間じゃないし、普段からよく喋るような人間でもない。


 普段からそんなに声を出さないような人間だからこそ、こういう時に声を発する事が出来ない。


 目の前には何人かの生徒がいるのに、後ろにはたくさん通行人がいたり、車が走っているのに、助けを求められない…。


 でも、思うべきはそこではない。


 何故こんな状態に陥ってしまったのか、だ。


 僕は普通に学校へ戻ってきた。


 そして普通に門を通ろうとした。


 でも、そこで勝手に足が止まったんだ。


 全然前触れは無かっ……

 ……無かっ…た…か…?




 じゃあ何故…、



 僕はここに居──…




「ぅわあっ!?」


 突然足に感覚が戻り、勢い余って倒れこんでしまった。

 白い制服が汚れちゃったよ…。


 ってか何で急に動いたんだろ…?


「………?」


 あれ…?


 さっきまで部活をしていた人たちが……いない…。


 門の外の通行人も車も…、皆…いない…?


「………気のせい…かな…」


 たまたま通行人がいなくなったのと交通量が減ったが重なったんだろう。

 部活をしていた人たちも、たまたま休憩に入ったんだろう。


 そう結論を出した僕は立ち上がって汚れを払い、校舎の中へと入っていった。



 ここで僕は何かおかしいという事に全く気付かなかった。


 いや、ここで気付いておくべきだったんだ…。





 校舎の中に入るとそこは誰もいないかのように静まり返っていて、とても不気味だった。

 まだ4時半だというのに、校舎内は暗く感じる。


 早く携帯をとって帰ろう、そう思って教室に足早に向かった。




 僕は自分の教室の手前まで来て、そこでまた足を止めていた。


 今度は自分の意志で止めた。


 自分の教室に、誰か人の気配を感じたからだ。


 校内に入ってから初めての人の気配に、また不気味さを感じた。


 本当に異常なほどに、今まで感じた事がないくらいの人の気配。


 僕の教室にいる人は、普通の人とは違うような、そんな気配を醸し出していた。


 …入っていいのかな…?


 僕的にはさっさと携帯をとって帰りたいんだけど…。


「………」


 とりあえず足を進めて教室に近づいていく。

 教室から物音はしない。


 なのに何故人がいると分かったのかも、自分では分からない。


 そしてついに、僕は教室に足を踏み入れた。




 教室に入ると案の定、誰かが1人で窓にもたれるようにして立っていた。


「……君…は…?」


 クラスメイトにこんな人はいなかった。

 他のクラスのやつか…?


「やっぱり、私の事知らなかったんだね」

「…?」


 凄く中性的な声…。


 私服だし外見も中性的で、男か女かは分からない…。


 ってか何言ってんだ?

 知らないに決まって──…



「同じクラスなのに」

「!!」



 は…!?

 何…言って…!!


「"窓際さん"、って言ったら分かるかな?」

「ぇっえっ…!?」


 えっまさかこの人…!!?


「分かったかな? 私が、君には見えないクラスメイトだよ。あ、もう"見えなかった"になるのかな」

「窓…際…さん…って…!?」

「やっぱ驚くよね〜」


 そりゃ驚くよ…!

 窓際さんって呼んでいるのは僕だけで、"窓際さん"という単語を人前ではおろか、一人きりの時ですら口にした事がないんだから…!


 てゆうか…!



 この人が"窓際さん"なの…!?



「まぁ、私を知らないのも無理ないか。だって、私は君が作り出した人じゃないんだもん」

「は!?」

「あ、因みにこの空間にいるのは私と君だけだから。君は全然暗示にかかってくれなくてね〜」


 空間…?


 暗示…?


 本当に何言ってんだ…?


 本物の電波か…?


「ハハッ。違うよ〜」

「!」


 僕が考えてる事がバレた…!?

 じゃあこの人本当に…!?


「人間ってさ、所詮自分目線でしかものを見れないんだよ。自分勝手な生き物だよね」


 自称"窓際さん"は、何か理論っぽい事を話し始めた。


「自分…目線…?」

「そう。相手の目線になって考えよう、ってよく言うけど、結局それは自分自身で判断した憶測に過ぎないんだよ。人間は皆、自分という主人公が作り出す物語の中で生きているんだ」

「………へぇ」


 何言ってんだコイツ?


 確かに憶測ではあるけど、相手の目線になって考えることに変わりはないんじゃ…。


「今、"何言ってんだコイツ"って思ったでしょ」

「えっ…あ…えっと…、はい…。すみ…ません…」


 そうだった…。

 窓際さんには僕が思ったことがバレてるんだった…。


 あれ…、僕この人のこと…普通に窓際さんって呼んでた…。


「いーよ。"窓際さん"で」

「………はい」


 口で言わなくても、窓際さんには何でも伝わっちゃうんだ…。


 何で分かっちゃうのかは、分からないままだけど…。


「ねぇ、倉田友輝(くらた ともてる)くん」

「…はい」

「私が見ている世界と、倉田くんが見ている世界は、同じものだと思う?」

「えっ…、はい…」

「あー、残念。不正解だよ」

「は…?」

「私の見ている世界と、倉田くんが見ている世界はまったくの別物だよ」

「そんな訳…」




 そんな訳ない、そう言い掛けて思い出した。




 この"空間"。



 "今いるこの空間は、僕と窓際さんしかいない"、という事を。



 つまりここは、この世界は、窓際さんの──…


「分かってくれたかな?」

「………はい」

「物分かりが良くて助かるよ〜」

「でも…」


 何で、"僕"と窓際さんだけしかいないの?


 何で僕なの?


「倉田くんだからだよ?」

「………何で?」

「別に私は特別な人間じゃないんだよ」

「じゃあ何でこんな──…」




──…えっ…?




「……あ、気付いた?」

「……どういう…事…?」


 窓際さんは、"私は"と言った。



 じゃあ……、



 …僕は……?



「ご名答!!」

「!?」


 突然窓際さんが叫び、窓にもたれていた体がぴょんっと僕の目の前に飛び出てきた。



「君が普通だと思っていた世界は君自身が作り出した世界なんだ」

「…僕…自身が…?」



 窓際さんの言葉に僕が戸惑っていると、窓際さんは何故か暗い顔をした。


「なのに君は、孤独だった」

「!」

「自分で作った世界なのに、1人だった」

「それは…」

「そんな君を可哀想だと思ったんだ」


「それは窓際さんが…」

「違うよ」


 その的を射たような否定に、僕は何も言えなくなった。


「皆自分の世界を持っている。自分にしか見えない世界を。ねぇ、友輝くん。人間は皆、こうやって生きてるんだよ」


「え…?」


「でも、君の世界は君が主人公の世界ではなかった」


「何…を…」




 …嫌…。




「君が見ていた人達は君の作り出した人達じゃなかった」




やめてっ…。



嫌だっ…!




「君が作り出した世界じゃなかった」




嫌だっ…!!



「つまり君は」

「やめてよ!!」



 思わず僕は叫んでしまった。


 知ってはならない事を、知ってしまいそうな気がしたから。


 高校に入ってから叫ぶことなんて無かったからか、心臓がうるさく脈を打つ。



「分かったかな?」

「何…が…」

「いや、分かってて分からないフリをしてるのかな」

「分からない…! 僕は何も分かってない…!」

「じゃあ教えてあげる」

「嫌だ…!」

「君は、私が───…」


「嫌だっ…!!」


 それ以上聞くことに何か悪い予感がした僕は、思わずその場から逃げ出した。


「逃げても無駄だよ?」

「!!」


 でも、どの廊下を走っていても、どの教室に入っても、どこへ逃げても、窓際さんはそこにいる。


 その理由に、僕は気付きたくなかった。




だけど…、




「いい加減諦めたら?」

「わぁっ!?」



 曲がり角に逃げ込んですぐに窓際さんが居たため、驚いた僕はしりもちをついてしまった。


 久しぶりに走り回ったからか、息が切れてしまっているし、久しぶり過ぎて足の筋肉が悲鳴をあげてる…。


「君は私から逃げ切ることは出来ないんだよ」

「何っ…でっ…!」

「理由は分かってるくせに〜」

「分かってっ…ないよっ…!」

「じゃあ何で、私が見えなかったんだろうね?」

「…っ!」


「分からないフリなんてやめて、認めちゃえばいいんだよ?」


「嫌っ…! 嫌だっ…!」


 後退りする僕を、不気味と思ってしまうような余裕の笑みを浮かべながら近寄ってくる窓際さん。


 そしてついに背中が壁についてしまい、追い詰められた。


「まったく、強情だね。そんな人間だったっけ?」


「嫌だ…嫌だ…嫌だ…」


「ほら、ちゃんと聞いててね?」


「嫌だ…嫌だ…嫌だ…!」


「なかなか分かってくれない悪い子に直接教えてあ

げる」


「嫌だ…嫌だ…嫌だっ…!!」


「君は」



「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああぁぁあぁああぁぁ!!」





「"倉田友輝"という人間は、私が"作り出した人間"だったんだよ」






 たまたま自我を持ってしまった人間は、作り出してもらった人間の存在を認識出来なかった。


 それが、窓際さんが僕にだけ見えなかった理由。

 窓際さんが作り出した"僕"という人間は、"倉田友輝"としての自我を持ち、自分の世界を作った。


 でも、


 結局それも窓際さんの世界の中の出来事であり、僕が見ていた世界は、"僕が世界を作った"という窓際さんの世界のシナリオの1つだった。


 所詮僕は、窓際さんに作り出された人間。


 もし、"世界を作り出した人の意志には逆らえない"というのが、作り出された人間のルールだとしたら、僕が過ごしてきた日々は全て、窓際さんによって操作されていたのかもしれない。


 でも、今となっては確かめようがないんだ。




 僕は


 生きていく中で


 一番知ってはならない事を


 知ってしまったが故に、


 僕を作り出した本人によって


 "僕"では


 なくなってしまったから。







「…──さんって話しやすいキャラしてるよねー」

「そうかな?」

「男女分け隔てなく接するしな」

「そうなのかな?」

「あ、友達が呼んでるから行ってくるね!」

「あ、次の授業の準備しねぇと! しかも次小テストじゃん!」

「じゃあ、また後で」


 授業が始まる間際になり、私は一旦1人になった。


「あ、あの…」


 すると、誰かが私に話し掛けてきた。


「えっと…」


 しどろもどろに話す彼は、同じクラスの──…倉田友輝…くんだ。


 話し掛けてきた事なんて無いのにどうしたんだろう?


「……きょ、今日は、良い天気だねっ…?」

「………」


 用事は無いのか。



 …あれ?


 倉田くん、どこ見ているんだろう?



 ……あ、成る程。


 倉田くんは、自分の世界を持っちゃったんだね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラクターや日常の描写が上手いです。そこにある一つの違和感。読みやすさもあり最後まで一気に読めました。 [気になる点] オチがややありきたり、しかし好きなパターンでした。
[一言] 初めまして。はじめて作品を読ませてもらいました。 上手く言えないのですが、とても面白かったです!自分の見ている世界が本当なのかと考えられるお話でした。 話にどんどん引き込まれて、すぐに読めて…
2015/05/02 16:29 退会済み
管理
[一言] こちらの短編を読ませていただきました。masa-kyです。 足跡を残す意味で感想などを。 「窓際さん」……それは人なのか、それとも正体のない影なのか? 主人公の少年が次第に知っていく事実、…
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