異世界より悪夢をこめて
異界の門となる場所が有るのは、山と谷を幾つか越えた先に有る大山である。人間では相応の身体能力が無ければ行く事は出来ず、魔物でも行き帰りは大変な部類に入るだろう。
無論、その場を歩む者達に常識は通用しない。二つの魔物は平気で空中に浮いて障害物を避け、男は重そうなモーニングスターを持ったまま谷間を飛び越え、カイムとニヴィーはただ歩行しているだけだというのに何も被害を受けていない。この中では比較的弱い部類に入るホワルですら、足早に障害を切り捨てていた。
彼らにとっては、面倒な山も単なる道だ。
その中でも最も軽々と進む二人の男女に至っては、夢中で会話を弾ませている。背後で障害物を排除や回避しながら行く者達が馬鹿み見えるくらいだ。
「『黒の魔王』を倒したなら、帰り道はどうしたんだ」
「山は全部飛び越えたからな、山道というのもまあ、悪くない」
「そうか、では、そちらの居た世界はどんな場所だった?」
一番先頭の位置を歩くカイムが少しだけ顔を歪める。それは悪意や激情から来る物ではなく、どちらかと言えば呆れなどの感情がとても強い。
「……あー、まあ、何。変な奴しか居なかった。吸血鬼かぶれの化け物とか、意識を持たない真なる無とか、連中の厄介事を必死で捌く奴とか……エィストとか」
「変人の見本市だったか」
「その通り、俺も大概酷いがな。連中に比べれば救える気がしてくるから不思議だ」
「そちらが大概酷いなら。私も大概酷いだろう」
「まあな。実際、お前もかなり酷い風に見えるね」
言葉だけなら互いを馬鹿にしている様に聞こえるかもしれないが、口調は軽やかで楽しげだ。カイムも機嫌良く笑みを浮かべていて、隣を歩くニヴィーに至っては、珍しすぎる暖かな微笑みを見せていた。
心から相手との会話を楽しむ。そんな精神性が有る事すら怪しまれているだけに、その姿は見る人を驚愕させるに違いない。
まあ、背後に居る魔物達と人間は、位置の問題でその顔を見る事が出来なかったのだが。
「そうだ。お前はどうして鍛錬を?」
カイムが何の気も無しに、あくまで他意は無い風に尋ねる。
すると、彼女は少しだけ表情を真剣な物へと移動させ、心から声を出してみせた。
「……さあ、どうしてだろう。ただ、子供の頃からずっと鍛えるのが好きだったんだ。強くなるのが幸せでね、普通なら、何処かで立ち止まるんだが」
「だが?」
相槌を打ったカイムに対して、ニヴィーは何処か意味の有りそうな視線を向けた。
他の者には分からないだろうが、彼にはその目が理解できる。そこから殆ど一瞬で彼女の意図を推測すると、即座に彼女が止めた先の言葉を口にする。
「ああ、誰が泣こうが苦しもうが、そして誰が死んだとしても、そんな事より力への渇望が勝る、と」
「分かってくれるか」
「分かるさ」
明るい顔をしたニヴィーとカイムが頷き合い、何時の間にか互いの肩を掴んで笑っている。
まるで仲の良い友人の様だ。背後の者達の内、ホワルを除いた全員が感じた事も無いニヴィーの雰囲気に驚きを表している。楽しげな表情を見れば、もっと強い驚きを覚えるだろう。
一見、旧知の親友の様な二人組である。だが、実際には強さと力を求める狂人達の会話だ。互いに抱くのは同類項を目にした喜びと、共感である。
それが『他の感情』に変わるのかは別として、今の所の彼らは良好な顔で話していた。
「自己を高める以外には、何かやっていないのか?」
「他にやりたい事が無い訳でもないが、今の所は鍛錬一筋だ」
「具体的には、どうするんだ」
「子供でも育てる。出来れば女の子が良い」
「母親になりたいのか?」
「さあ、どうだろう」
自分でも分からないとばかりに首を振って、軽く何処かを見上げる仕草を行う。
カイムには、その瞳が見ている物が分かった。何せ彼自身も普段からずっと見つめているからだ。全ての最果て、絶対的なもの、到達したい場所。そんな物を、見ているのである。
「綺麗な瞳だな。俺は好きだぞ」
「そう見られると、少し恥ずかしいな。これでは夢見る乙女と何が違う」
「俺達は夢追い人だ。愚かしくても子供でも別に良いじゃないか」
夢を見る者達の顔は楽しげで、とても幸せそうだ。例え理解者など必要としていなくとも、共感出来る相手が居るというのは嬉しい物なのである。
珍しく口に出る程の笑い声を発して、ニヴィーは口元に手を置いていた。
「ふふ、話が分かる」
「お互いにな」
相手の背中を同時に叩き、愉快な様子を見せる。
そこでカイムは一度咳払いを行って、僅かに表情を変化させた。
「で、気づいてるよな?」
「勿論だ」
その言葉で場の空気が和やかさから鋭さへと変わる。二人は同時に表情を引き締め、相手の身体から手を離していた。
同じ様に二人は後ろを振り返り、苦笑とも愉快とも取れる表情となる。ニヴィーのそれは分かりにくいが、カイムと比較すれば同様の意志を見せているのは明らかだ。
そこには、誰も居なかった。
「……俺達、連中を置いて行ったみたいだな」
「そうらしい。実際には違うだろうが」
「その通り」
冗談を交えつつも、彼らは理解していた。単に二人が素早く動いていた為ではなく、背後に居た筈の者達が突如として消滅したのだ。
「迷宮系の方向性だ。私達は無意識の内に突破していたらしい」
「迷宮……転移とは違うな。空間を切り取って別な場所に繋げる……そういう感じだ」
その原因についても、二人は殆ど同時に口にしていた。カイムの方が詳しく理解している辺り、やはり長らく生き、長らく戦ってきただけの事は有ると言える。
彼が言う所までは察知仕切れていなかったのか、ニヴィーは暫くの間納得した姿を見せていた。
だが、それも少しだけだ。そこから抜けると、彼女はすぐに表情や態度を普段通りに戻す。
「この先に行こうとする者の意志とは思えない。第三者による介入が見える」
「ああ。随分と『見知った』感じがするよなぁ、おい」
肩を竦め、カイムが面倒そうな様子になった。
彼らの背後に居た者達を移動させた術は、それなりに強い物だ。飛ばされなかった二人であれば軽く避けられるが、普通は無理だろう。
そして、魔力を用いているとはいえ、その気配を間違える程カイムは緩んでいないのである。
「ああ、奴は何がしたいんだか」
「虹の魔王か」
「ああ、あいつだ。何を考えているのかはさっぱりだがな」
尋ねる言葉に回答と補足を加えて返却し、彼は溜息混じりに肩を落とす。
本人に言えば、必死で否定するだろう。その中には嫌悪が無く、どちらかと言えば「奇行の多い友人」に呆れる態度と呼べる物であった。
そんな何とも言えない顔をした彼の背中を何度か驚く程に優しく叩き、ニヴィーが顔色を変えぬまま元気づけようとしていた。
「私達を異界に送るつもりが有るのは、確かだ」
「分かってる……勿論、そうだろうな。だが、その意図が分からない事には……おっと、お前、意外に優しいんだな」
「何の事だ?」
「背中を撫でたり、叩いたり、まるで親子か兄弟みたいだったぞ」
これ以上は不毛だと判断したカイムが話題を変えにかかる。そうであっても、この言葉は確かに彼の本心から出た物である。話題転換の為の嘘などではなかった。
偽らざる本気の声に何を感じたのか、ニヴィーはその手をもう一度カイムに近づける。
今度はその頭を撫で回していた。若干背丈は彼女の方が低くなるのだが、大して変わらないので、腕を頑張って伸ばす必要も無い。
姉が弟にする様なそれであり、母が子にする様なそれでありながら、その手つきは乱雑である。
「何故撫でる」
「興味本位だ、触り心地が気になった」
「成る程。で、どうだ」
「普通の人間と変わらないが汗などは感じられない。そして時折、物体を触っている気がしなくなる」
「そうか、ああ、そうだろうな」
冷静に頭の感触を評価する言葉を聞き、カイムは気にした風でもなく頷いている。
普通の生物には分からない程度だが、彼の身体は厳密には人間ではなくなっている。それが分かるニヴィーも普通ではないという事だ。それは、今更の話でしか無いが。
ともあれ、何時までも撫で続けられる趣味など彼は持ち合わせていない。
反撃とばかりに彼がニヴィーの頭を撫でる。嫌がるのでもなく、彼女はそれを受け入れた。
「触り心地は?」
「柔らかいな。絹……いや、布の様な感触だ。普通に手入れをしただけではこれにはならないだろうな」
「自己を高めていると、髪質が事前とこうなった」
目を細め、二人は互いの頭を撫で回した。どうにも奇妙な光景が出来上がっているが、双方気にしていない。
「さて」
「そろそろ、歩くか」
やがて二人とも飽きたのか、相手の頭から手を離す。そして、殆ど同時に山の中を進み出した。
魔物の類が現れる様子は無く、消え去った者達が戻る気配も特に無い。ただ、その二人が歩む音だけが響いている。
「それで、一つ聞きたいんだが」
そこで、カイムが一つニヴィーに尋ねかけた。
それに対して彼女は顔を彼の方へと向けて、表情も声も態度すらも使わずに話を促す姿勢を見せる。
細かい動作からそれを読み取ると、カイムは頭に浮かんだ質問を口にした。
「興味本位の話だが……奴は、随分と嫌われている様だな?」
「……彼は、『白の魔王』を殺している」
『奴』という単語だけで誰を指しているのかを察して、彼女は『男』に関する物で一番重要な事を口にした。
「話には聞いたな、そいつ」
「この世界にとって、『白の魔王』は重い名前だ」
重いと言いながらも、彼女の口振りは軽い。実際の所、自己探求以外には大した興味も抱いていないのだろう。それを見破りつつも、カイムは話の続きを要求する。
「どういう事だ?」
「『白の魔王』は魔物にとっても、人間にとっても素晴らしい人だった」
「ほう」
「人格者で、双方にとって幸せな結果になる事を願い、魔王と人間の王の間に立って武力とは違う所で戦っていた」
他人事の様に語っているが、『白の魔王』との面識は有ったのだろう。目の奥で誰かを思い出している形が見え隠れしている。
「とても慕われていた、彼女は敵であっても愛された。ああいう者を、天使とか女神とか言うのだろう」
「つまり、そういう良い奴だったと」
「ああ」
「だが、あの男に殺された、か」
「そうだ。奴は魔物を憎んでいる訳じゃない、殺したいだけだから、彼女の人格や性質など気にも留めなかっただろう」
彼女自身は思う所など無いのか、男の行いを口にする時も何らかの感情を見せてはいない。
そういう所も、カイムにとっては割と親近感を覚える理由の一つとなるだろう。
「惨殺だったという点も、恨みを買っている」
「具体的には何だ、そこまで酷かったのか?」
「酷かった、とだけ言っておこう」
明言を避ける程度には酷かった。あえて口にしない事でそれを伝える。詳細の部分を聞いた所で二人とも何とも思わないのは明らかだが、その辺りは一応の配慮なのだろう。
そこで話終えた彼女はカイムから視線を外して、前を見た。
「到着したぞ」
言葉を聞くより早く、彼女に合わせたカイムが前方へ視線を向ける。
「そうらしいな」
その場は別な空間と化していた。
闇色に燃え上がる木々が魔力と発して世界を維持するだけの力を放出し、空の黒い雲に浮かぶ大きな目玉がギョロギョロと下界を睨んでいて、その中央には半分が塵となった巨城がそびえ立っている。
本来感じられたであろう息が止まる程の魔力はこの場を制御する為に用いられていて、何も鍛えていない普通の人間でも生存が可能な領域になっていた。
勿論、息苦しい事には間違いないだろうが、それでもだ。例え完全な状態であろうと、カイムとニヴィーには微塵の影響も無いが。
「どうやら、別の場所に到着したらしい」
「そうだな。俺にも分かる」
二人は何らかの特殊な力を使わず、直感で自分の考えを口にしていた。
彼らが感じたのは、途中で居なくなった者達の存在だ。空間ごと移動させられた彼らは今、この異界の中に居た。
「これは無事と見た。ニヴィーは?」
「同意見だ」
両者共に持ち前の感覚で他の者達の無事を確認する。元々心配などしていなかった様だが、それでも多少の安堵を呼吸音で現していた。
だが、彼らはそれらの行動を一瞬にして止め、軽く腕を振る。
悲鳴が上がり、燃える森の中に潜んでいた魔物が逃げていく。その顔は蜥蜴と犬を混ぜた物だが、困惑に歪んでいるのは分かるだろう。
微塵の気配も隠し、感情、特に殺意の全てを隠していたというのに、この魔物は二人に存在を捉えられたのだ。
「俺相手にその手の業は無意味だぞ。こっちは長年『存在しない物』と一緒だったんだ」
逃げ去る魔物の背中に声をかけて、カイムは軽く手を振る。それは攻撃ではなく、単なる応援めいた行為であった。
その姿を端から見たニヴィーが、何かそわそわとし始めた。この異界に侵攻すると提案した時と同じ様子だ。
何か有る事を見て取ったカイムは彼女の瞳を見つめ、言葉を待つ。すると、彼女は少し深く息を吸って、冷徹な顔つきのまま答えた。
「一つ、頼みが有る……」
+
その頃、他の場所へ辿り着いた者の内の一人、ホワルは、隣に居る人間の存在から来る恐怖に耐えていた。
「おい、俺の顔に何か着いているか?」
「い、いや何も……」
訝しげな、どちらかと言えば脅しに近い声から何とか自分を守りつつ、少年は目を逸らしていた。
心の中で出る溜息は、現状に対する微妙な気持ちから来る。その嫌な気分の原因は簡単だ、男は恐るべき魔物殺しで、ホワルの正体は魔物なのである。
男が魔物達に対して向ける殺意を彼は殆ど知らない。が、二つの魔物達に向けていた態度、何より『今足下で踏み潰されかけている魔物』を見れば、その性質は明らかだ。
その猿の様な魔物は比較的通常の生命体に近い存在なのか、踏みつけられて血を吐き出している。助けを求める声を出そうとするも、発声器官はモーニングスターの棘に突き刺されていて、浅い呼吸音にしかなっていない。
無意味な事をして苦しませる必要は無い。殺せば良いのに、まだまだ殺さないのだ。
「あの、や、やりすぎじゃないかと」
「ああ? 良いんだよ。これでな、コイツ等に生きている資格は無いんだから」
そう言うと、男はもう一度強烈な足踏みで魔物の臓物を潰した。その場は紫の血の海になり、彼の足は血に塗れる。
「汚い血だな。何時も足で潰すから汚れるんだよ、どうしてくれるんだ、よっ!」
『普段通り』の慣れた手つきで、槌を使って魔物の顔を吹き飛ばす。棘が瞬く間に相手を蹂躙し、ようやく絶命という結果に至らしめた。
だが、男は満足せず、槌にこびり付いた肉片をその場の草へと押しつけて、死体へ唾を吐いた。
「スッキリしないな。もっとこう、俺を楽しませる死に方をさせるべきだった」
酷く残酷に苦しめ、おぞましく殺しながらも男は微塵も悔いを見せず、物足りなさそうにしている。
幾ら何でも我慢の限界だ。ホワルは怒りを全力で抑えつつ、それでも低くなった声音で話しかけた。
「どうして」
「ん、なんだよ。何か有るのか」
「どうしてそんなに、魔物が嫌いなんですか?」
どうしても恐ろしげな声となってしまったホワルの言葉。それを聞いても、男は表情を変えず、ただ見下した様子で答える。
「理由が必要か?」
「は?」
思わず素の声を返した少年に、男の歪んだ笑みが向けられた。
「人間は魔物を殺せば気持ちいい。魔物は人間を殺せば気持ちいい。俺は気持ちいいのに加えて、楽しいのさ。人間を殺しても嫌な気分になるが、魔物は違うだろ? 特に、好かれている魔物を殺した時の奴等の悲鳴や絶望はとても心地が良いんだ。お前も人間なら魔物を殺す事だな、それは義務で、権利で、幸せだ」
堂々と語る姿は自分に対する微塵の疑いも無く、誇らしげですらあった。
魔物からは悪夢の如き人間で、人間から見ても残酷な行いをしているが、そんな事は気にもしていない。迷いも躊躇もしない姿は、ある種の完成した人間の姿すら思わせた。
「……そうですか」
絶対に曲がらない残虐さを目にして、少年は感情を殺す。魔物である事を巧妙に隠しているが、見破られた時は危険だ。
だが、カイムとの鍛錬で自己を制御する技能が向上した為に、そう簡単には分からない。男は全く気づかず、少年を人間としか見ていなかった。
「分かったか。分からなくても良い、ただ、これだけは理解しろ。俺はお前みたいな奴に興味は無い。手を借りたいとも思わない。邪魔をするな、それだけだ」
「分かってますよ、邪魔なんてしないし、手も貸しません」
あからさまに邪魔者扱いしてくる視線を受け流しつつ、ホワルは既に男と離れようとしていた。
これ以上、こんな人間と一緒では頭が腐る。そういう強い気持ちを抱いたのだ。
「じゃ、俺は消えるので」
虐殺者するから逃げる様に、少年は男から少しずつ距離を取る。背は見せない、僅かにでも油断をすれば殺されるからだ。
男は止めない。その視線は半分崩壊した城へ注がれて、そちらにしか集中していない。
今がチャンスだ、逃げきれる。そんな確信を抱いて、少年は少し足を早める。
「待て、何処に行くつもりだ?」
その時、圧倒的に響く声が一つ。
矮小な声だった。弱々しく、何よりも小さな声だった。しかしながら、それは誰よりも鮮烈で明確で、素晴らしすぎるくらいに大きく聞こえた。
「ほお、ゴミが並んで揃いも揃って、何だそれは。見せ物か?」
圧倒される事も無く、男は大胆にモーニングスターを握る。そこに付着した紫色は、彼がどれほど殺戮を繰り返したかを見せつけた。
「見せ物、かもしれないな。お前を殺す為の、ああ、見せ物だとも」
しかし、声の主は動揺も何も見せなかった。
その姿は見当たらない。当たり前だ、眼前には山の様な魔物が並び、恐るべき力を見せつけている。隙間無く詰め込まれた軍勢が姿を隠しているのだ。
どれも何者かに支配されているらしく、最低限の統制は取れている。取れてしまっている。
「へえ、まあ幾つ居ても塵は塵、屑は屑だ。滅ぼしてやる、一つ残らず、苦悶させてやる」
男のモーニングスターを握る力が強まるのが、分かる。しかし声は迷わずに、敵意を示した。
「やれるならやってみると良い。コイツ等は私自身が選んだ精鋭だ。オツムの出来は悪いのだが、な」
「お前等は敵じゃない、的だ。精鋭も何も関係無いぜ」
更に挑発的な態度となり、男は殺意を露わにする。すると、濃密過ぎて頭が狂ってしまいそうな戦場の臭いが漂っていく。
今にも戦闘が始まりそうな重々しい雰囲気は明らかであり、逃げ出そうにも隙間が無い。少年は誰にも気づかれない様に肩を落とした。
「……最悪だ」
言葉と共に剣を握る。気配の遮断と身体強化を同時に施して、生き残る事に専念するのだ。
目的を達成するまでは、死ねない。それを果たす為にも少年は目立たず騒がず、同胞達と戦う覚悟を決めた。




