夢の中のルル
ルルは高い所に上るのが好きでしょっ中箪笥の上やカーテンボックスの上に上っては下りられなくなってミャーミャーと鳴いた。
「下りられないのなら、上らなきゃいいのに。
変な仔ね。」
絢香に助けられて抱っこされるとルルはホッとしたような様子でじっとしている。
心地好さそうに目を細めている。
ゴロゴロ…と体が鳴っているのに気がつく。
「猫は体全体を鳴らすのね。知らなかったな。」
ルルが来てから絢香の静か過ぎる生活に俄然活気が出てきた。
猫を飼うのが初めてだった絢香はペットショップに買い物に出かけた。
絢香がキャットフードや猫用のトイレを眺めていたら、ショップの店員さんが近づいてきて
「猫ちゃんには、猫砂も必要ですよ。
猫砂をトイレに敷いてあげるとその上にオシッコをしてくれます。
そして、オシッコで固まった砂は、このシャベルで取るんですよ。」
「そうなんですか、全然知りませんでした!」
絢香は店員の話を聞きながら、ルルに必要な物を次々とカゴに入れていった。
最後にルルと一緒に遊べるかなとネコジャラシ風のおもちゃも入れた。
誰かのために何かを買うのは、久しぶりのことだった。
絢香の生活の中心にはいつの間にかルルがいるようになった。
ルルはいつも絢香の側にさりげなくいた。
小説を執筆している時も眠っている時も……。
そのうち夢の中にまでルルが登場するようになった。
絢香は小説の続きを夢の中で見ることがあるが、今書いている小説の主人公が道を歩いているとルルに出会ったりする。
「あら、黒猫。
どこから来たのかしら?」
主人公の美奈代がルルを目で追っているとルルはふいと塀の上に上がり、いつの間にか姿が見えなくなってしまう。
ルルを追って歩いていた美奈代が行き着いた場所には古本屋が建っていた。
そっと扉を押して店内に入っていくとそこには和樹が古本を熱心に読んでいる姿が目に入った。
和樹とは美奈代の大好きな人である。
「和樹さん。こんな所で会えるなんて。」
美奈代の声に驚いて振り向く和樹。
「みーちゃん。どうしてここに?」
「黒猫の後を追ってきたらここに着いたの。
あなたに会えるなんてラッキーだったわ。」
「黒猫?
僕は見なかったけどね。
でも、君に会えたのは僕も嬉しいよ。
その黒猫が僕たちを引き合わせてくれたのかな?
だとしたらキューピッドみたいな猫だね。」
クスッと笑った和樹を見て美奈代も幸せな気分になった。
ここまでのストーリーを夢の中で見た絢香は朝の光を浴びて目を覚ましていた。
絢香の隣には丸くなって眠るルルがいる。
「ルル……不思議ね、またあなたに会ったわ。
それも夢の中で。」
「忘れないうちに小説の続きを書かないと……。」
枕元に置いたノートにすぐに今見た夢の話を書き付ける。
「あんなに話が思いつかなかったのに……あなたが来てから順調に話が進むわ。
ありがとう、ルル。」
ルルはう〜んと伸びをしてからまた眠る。
ルルがどこから来たのか、何故絢香の家が気に入ったのかは依然としてわからなかったが、絢香はルルとの生活が楽しかった。
「ルル、このままずっとこの家にいてくれて良いのよ。」
そうルルに話しかけるとルルは、緑色の目を一層大きくして黙って絢香を見つめるのだった。