命名
舞台は海辺。
白い砂浜がどこまでも続く。
足元には淡いピンク色に光る貝殻が……。
そっと貝殻を拾い、ポケットへ。
待ち合わせの時間まであと15分。
彼は来るのか?
それとも来ないのか?
考えるだけで少女の胸はドキドキとし、落ち着かなくなってきた。
そんな時、遠くから犬の鳴き声が……。
彼だ!
犬の散歩をしながら私にこっそり会う。
そんな彼との秘密の時間。
家族には私も彼のことは内緒にしている。
「ここ、ここ!」
彼に大きく手を振り、にっこりと微笑む。
太陽が眩しく照り付け、波の音が心地好く聞こえる。
彼も私を見つけて嬉しそうに近づいてくる。
ポメラニアンの茶々丸がフサフサの尻尾を振りながら、可愛い舌を出して歩いている。
ここまで書いて筆が止まった。
絢香が黒猫を見ると気持ちよさそうに寝ていた。
スピーッ、スピーッ。
可愛い寝息をたてている。
知らない人の部屋でよくこんなにもぐっすりと眠れたものだ。
可愛い黒猫の様子を見ながら、ふと微笑んだ絢香だった。
ある雑誌に連載中だった小説が売れ出して執筆作業に追われるうちに優しかった夫を省みることができなくなり、結局夫とは離れてしまった。
夫と別居してから早一年。
一人暮らしにも慣れてきたと思っていたが、ふと寂しさを感じる時もあり誰もいない室内が急に寒々しいものに感じられる。
そんな絢香のもとに現れた黒猫。
首輪もつけていないし、飼い猫だったかどうかもわからない。
このまま私が飼ってもいいのかな?
「ねぇ、うちの仔になる?」
気持ち良さそうに眠っている黒猫に問いかけてみるが、当然返事はない。
「あ〜、まだ名前もつけてなかったね。
どうしようか……。」
一人で黒猫に話しかけながら、ふと浮かんだ名前がルルだった。
「ルル。」
そっと黒猫の耳元で囁いた時、黒猫は薄目を開けてこちらを見た。
反応があった!
この仔の名前はルルにしよう。
良い名前。
この日からルルは絢香にとって大切な同居人?となったのである。