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第二話



「ありがとうございましたー」


コンビニのドアが開くと同時に私は熱々の肉まんを食べた。親から渡された二千円で今日もコンビニ弁当を買う。

いつのまにかそれも私の中で当たり前になっていた。

肉まんを食べながら夜空を見上げると、雲ひとつない空にポツンと月が浮いていた。


(今日は満月か)


普段は暗い夜道も月の光のおかげか、普段よりも道が見えやすい。

月を眺めがらゆっくりと歩き公園の前を通り過ぎようとした時だった。







「いーち、にー、さーん、よーん……」







「え?」


後、家まで数メートルという所で子供の声が聞こえた。

携帯電話の時刻を見れば、デジタルな数字が十時と示してた。


(こんな時間に子供が?)


もしかして聞き間違いではないだろうか。

そう思いながら私は周りを見渡した。

だがどこにも子供の姿など見つからない。


「……やっぱり聞き間違いか」


きっとチャットでかくれんぼの話などしたから、聞き間違えてしまったんだろう。

やれやれと息を吐き私は再び歩き出した。



誰もいないはずの公園なのに、なにかの視線を感じた気がした。





家の前に着くとリビングの灯りがついている。

もしかして……と思いドアを開ければ、母さんの疲れきった声で”おかえり”という言葉が聞こえた。


(やっぱり)


こんな時間だ。きっとお酒でも飲んできたんだろう。

サンダルを脱ぎリビングに向かうと案の定、顔を少し赤くしてソファーに座っている母さんの姿があった。


「……またお酒飲んできたの?」


「ん~、ちょっとね。まったく接待っていうのも疲れるわ」


半分呆れながら水を持っていくと母さんは嬉しそうに笑い、水を受け取る。

そんなになるまで飲まなくてもいいのに……。

だが、父と一緒に共働きしているんだ。文句は言えない。


「じゃぁ、もう部屋に戻るね」


「は~~い」


小さくため息をついて、先ほど買ったコンビニの弁当と冷蔵庫に入っていた麦茶を持って部屋に戻った。

私は再び先ほどのチャットのホームページへと行ったが私が抜けていた間に人数が四から二へと変わっている。

入室すると中にいるのはナオとJUNだけで、

ログを観ていくと花や昌樹は十分も前に退室していたのだ。



momoさんが入室しました。


momo>さっきぶり~、花と昌樹は落ちたんだね

ナオ>なんか学校でテストがあるからもう寝るんだって。私も明日テストがあるから落ちようかと思ってたんだ~



(……そういえば私も明日は学校で数学の小テストがあるとか言ってたような)


そんなことを数学の教師が言っていた気がするが、眠い午後の授業中に言われても覚えるなんてできない。

更新ボタンを押すとログが流れる。


JUN>……テストか、ボクも明日は数学のテストがあるよ

ナオ>へぇ、皆やっぱりテストがあるんだね! momoの学校ももしかしてあるの?

momo>ううん、明日はなにもなかった気がするよ



――咄嗟に嘘を書いてしまった。

だって少しだけヤバいと感じたんだ。

JUNはもしかしたら私と同じ学校の人かもしれない、って……。

チャットの中じゃ嘘なんて日常茶飯事なんだし…気にしないでおこう。



ナオ>なぁんだ、そうなんだ~。おっと、いい加減親がうるさいので、一回落ちるね!

momo>うん、またね~


ナオさんは退室しました。



そして残ったのは私とJUNだけ。

実はJUNと会話をしたのはさっきが初めて。

昔の遊びについて話していた時も、JUNは一度もしゃべらなかった。



momo>えっと、JUNも明日テストがあるんだよね? 勉強とかしなくていいの?

JUN>う~ん、一通り復習は終わってるし大丈夫だよ。

momo>へぇ、えらいねぇ。私なんか全然勉強する気力もないよ



家に帰ってきてもただパソコンをするか、寝てるかだし。

勉強はあくまで学校しかしない。だってめんどくさいし気力もない。

それに、勉強よりもこうやってチャットしてた方が数倍楽しいし。


そんなことを思っているとコンコンと扉が叩かれた。


「裕子、明日は早いんでしょ?さっさと寝なさいよ~?」


「……はーい」


(しょうがない、今日はここまでにするか)


私は退室する為にカタカタとキーボードを打っていると、自動更新されたのかJUNの名前が出てくる。

そして、私はその言葉を読むと同時に目を見開いた。








JUN>ところで、なんでさっきは嘘を言ったの?







心臓の音が大きく跳ねた気がする。

その言葉が脳に到達するまでに少し時間がかかった。


(何故、嘘だとわかったの?)


いや、もしかしたらからかっているのかもしれない。

だって私は一言もテストの事に関しては肯定の言葉を書いていない。

軽く深呼吸し打ってあったコメントをコピーした後、新たに言葉を書いた。



momo>嘘って?



私は嘘がばれない様に短く返答した。

ここはあえて短い言葉の方が相手の出方がわかりやすい。

もしJUNが先程のことを指摘しても、もう一度嘘をつけばいいだけ。


(大丈夫、こんなのはただの偶然なんだから)


言葉だけの世界だ、いくらでも嘘は書ける。

だが、いくら待っても返答は返ってこなかった。自動更新されてもJUNからの返答はない。


(やはり軽率すぎたか?)


もしかしたらJUNは短い私の言葉の続きを待っているのかもしれない。

だが何らかの反応をしてくれてもいいと思ったけど……。

やっぱり偶然だったのだろう。


ほっと一息をつき、先ほどコピーしたコメントを張り付けて早く退室しよう。



momo>私、明日早いからそろそろ落ちるね

JUN>うん、また明日。


momoさんは退室しました。



椅子の上で体を伸ばしインターネットを閉じた。


(まったく、変に疲れちゃったよ……)


時計を見ればまだ針は十一時を指している。

カチッカチッと針の動く音だけが部屋の中に響きわたる。


(……なんで、こんなに息苦しいんだろう)


私の部屋の中のはずなのに、なぜか息がしにくい。時計の音と自分の心臓の音がやけに大きく感じた。

一秒間が凄く長く感じるのは何故?

心なしか手に汗が出てきて何度も服で拭いた。だが拭いても拭いても手が湿った感触がする。


(考えすぎ、そう、考えすぎよ)


ただ偶然に嘘を見破られただけじゃない。しかも嘘か本当かもわからない人物に。

チャットはあくまでチャット。会話の世界だ。

知っている人物に会える確率なんて、ほんの少ししかいない。

それに私は自分の名前とは全然違う名前を使っている。


(――共通点なんてない)


おまけに学校の友達に私がこのチャットを利用しているなど誰にも話したこともないのだ。

軽く頭を左右に振り、椅子から立ち上がった。


「……お風呂に入ってスッキリしよう」


急いでタンスからパジャマと下着を取り出し急いで階段から降りた。

お母さんが何か言っていたような気がするが、今は早くお風呂に入りたい。

服を脱ぎ洗濯機に入れると、シャツが思ったよりも汗で湿っていたことに驚いた。


(動揺しすぎだ)


シャワーのお湯を頭から被ると少しだけ落ち着いた。



お風呂に入りながらゆっくりと肩まで浸かる。

暖かいお湯に包まれていると、先ほどまで動揺していた自分がなんだか馬鹿らしく思える。


「変に動揺してどうすんだか」


もしまたJUNに同じ質問をされたら「あの時は嘘ついちゃった」とか言っておけばいい。

相手はまだ何も知らないのだから。

その証拠に何の返答も返ってこなかったじゃないか。


(ただそれだけのこと。何を焦っていたのか)


JUNはあくまで私はテストがないと嘘を見破っただけ。

数学のテストがあるとまでは見破ってないんだし、だから偶然よ。

明日テストがある学校の中で私の学校だけが数学のテストがあるなんて事はない。

パシャとお湯で顔を洗いお風呂から出た。



部屋に戻るとパソコンがまだ起動していた。


「急いでたから消すの忘れてた」


タオルで髪を拭きながらマウス動かす。


(そういえば、JUNってまだいるのかな…)


矢印はスタートボタンを押してシャットダウンできる状態であったが、

ふと興味本位で再びインターネットのアイコンをクリックした。

慣れた動作でさっきのチャット広場に行くとJUNはまだあの部屋にいた。

入室しようか迷ったけど、結局やめた。


今いるのはJUNと麻衣という人だけ。

なんとなく入りにくいし、さっきの事をどうやって聞けばいいのかもわからなかった。


「いつまでも気にしててもしょうがない、か」


私はバツボタンを押し、今度こそパソコンを消した。


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