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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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5/5

この世界レベル4桁が普通

 ともあれ5日目には退院できた俺、今日は金曜日だが学校はそのまま休んで自宅でくつろぐことにした。

 まーたボッチになる理由が増えるなぁ。

 どうせダンジョンで大怪我して入院だろとか言われそう……いや、アナウンス方面で邪推してくる奴もいるか?

 どっちも間違いじゃないから何とも言えない。


「幸助、どうした?」


「いや親父がどうしたよ、特にその腹」


 上半身裸で庭の柵を直していた親父。

 今日は俺の勘違いじゃなければ仕事だったはずだが……。


「息子がダンジョン関係でぶっ倒れて入院したとなればよほどのことがない限り休みを貰えるさ。退院日となればなおさらな」


「いや、だから腹」


 ビール腹とでもいうべきか、樽のようにポッコリ膨らんでいた腹部が今でな見事なシックスパック。

 更には職業柄浅黒く焼けた肌に、妙な若々しさも相まって親方という風貌だ。

 実際弟子がいて親方って言われてるらしいけどさ。


「かっこいいだろ! この前のあれからどうにも若返った感じでなぁ。肌も張り艶を取り戻してしわも無くなった! 母さんも昔みたいにぴちぴちだぞ!」


「もうやだこの人ったら」


 バキィンという、おおよそ人間を叩いたと思えない威力の張り手が俺の死角から飛んできた。

 す、鋭い……今なら耐える事も、気配を察知して避ける事もできるかもしれないけど以前の俺なら今の一撃で粉砕されてたかもしれない。

 そう思わされる一撃を見舞った母さんを見やれば……。


「あー、昭和のアイドル」


「こうすけ~? 女の人に年齢を思わせる言葉はメッよ」


 それ滅っって言いませんかねという威力でデコピンが見舞われる。

 流石に痛くはないが、それでも効果音がでかい。


「いや、帰ってきたら両親が若返手ったとかなにがなにやらで……」


「あー、ヘルニアとか、母さんの出産とか諸々問題が解決したから5級のライセンスを取得してダンジョンに潜ってみたんだよ。そしたら強くなった」


「我が父ながら雑な説明どうも。で、母さんは?」


「私もその程度しかわかってないのよね。ただ間違いなくダンジョンのレベル関係だと思うの。ほら、お爺ちゃんお婆ちゃんも年の割にしゃんとしてるし、足腰も丈夫だったじゃない。曰く当時ダンジョンに潜ってた人達みんなそうらしいの」


 はー、ダンジョンにはアンチエイジングの効果もあるのかぁ。

 ……いや、あってもおかしくはないけどさ。


「それでお母さんはこの通りぴちぴちの肌を!」


「お父さんはムキムキボディを手に入れたのよ!」


「……母さんは昭和アイドルで通じるが、親父はエロ漫画の竿役にしか見えない」


「なんてことを言うんだ我が息子……娘……?」


「息子にしておいてくれ。いや、でも実際親父の本棚の奥に隠されてる本に出てきそうなやつじゃんそれ」


「あーなーたー?」


「ま、待ってくれ! あれは、そう! 弟子から預かっていたんだ! 煩悩に打ち勝てという意味で!」


 おっと、母さんにとっては軽い逆鱗だったかな?

 つってもエロ本程度で文句を言うわけも無し、たぶん子供がいるのに何持ち込んでいるんだという怒りだろう。

 実際俺が見つけてるし。


「あー、妹共も弟共も気付いてないからいいけど、隠し場所はしっかりしてくれよ親父」


「わ、わかった」


 実際ダンジョンで宝箱とか隠し部屋見つけた時のピンときた! みたいな感覚で見つけた物だったからな。

 本棚の奥に、漁師のおっちゃんが網と釣竿を持っているパッケージのVHSらしきものの箱に隠されてたから普通は気付かんよ。

 そして興味持たんよ。


「しかし様変わりした息子には一言も無しか」


「見舞いで見たしなぁ」


「可愛い娘になったのはお母さん的にありよ! 特にその耳と尻尾!」


 そういえば母さん、妹や弟に付き合って日曜日の朝は特撮やアニメ見てたっけ。

 そこから趣味になったのか、動画配信サイトで色々な兄絵を漁ってたはず。

 ……なるほど、俺のゲーマー趣味は母さんのオタク趣味から派生した遺伝だったか。


「それより大丈夫なのか? こう、急にレベルが上がったらしいが」


 親父の気にしていることはわかる。

 探索者ってのはレベル2でも常人の倍の強さだ。

 単純計算したら成人男性なら握力100㎏になるようなものだし、世界記録だってやすやす狙える。

 だからこそスポーツと名の付く界隈は探索者はルール上ダメという事になっているのだが、それだとギルドカードも手に入らないのでレベル1に限るとか、同レベルならマッチングよしとか色々制限があるらしい。

 俺は詳しくないんだけどな。

 ただeスポーツも反射神経の強化で後出しじゃんけんできるから、基本的には出禁くらってるけど。


「その辺は大丈夫。コントロールできる、というか意図的に力を込めなきゃ問題ないから」


 そんなパワフルで日常生活に困らないのかと言われると、実は困らない。

 いや、困る場面もあるんだよ?

 ただ学校で女子のスカートがふわりと広がった瞬間とかを反射神経と動体視力でその奥まで見透かしてしまう程度で。

 けど運動という分野においては、まぁスタミナの差はあるけど、ジョギング程度の走り方なら問題ないし本気で走ろうとしなければ一般的なタイムを大きく超えることは無い。

 力だって「握り潰そう」と思って力を込めなければ割と常識的な範疇になってくる。

 問題があるとすれば無意識な攻撃かね……コバエを叩き潰そうとして衝撃波出した時は流石に怒られた。

 攻撃の意志+殺意だったから全力の柏手だったので、教室のガラスが割れた。

 以後俺は潰すにしても片手で握るようにしている。

 あれなら衝撃波も起きないからな。


「そう言えば二人はレベルあがった?」


「俺は3だ」


「私は4よ」


 意外や意外、母さんのが上だった。


「なかなか楽しいもんだな。ストレス解消と運動にちょうどいいから毎朝仕事の前に行くようにしようと決めているんだ」


「母さんも趣味の一環で潜ろうかなと思ってるの。どうかしら」


「反対はしないけど、浅い階層だけにしておいた方がいいよ。下手にボスとかと戦うと怪我じゃすまないから」


「あらそうなの?」


「俺が前に血まみれになって帰った時合ったじゃん? あれうっかりボスの部屋に入って半殺しにされた時だから」


「あぁ……あの時は心臓が止まるかと思ったわ」


「けどその手前はワイルドボアっていう猪がいて、そいつが普段持ち帰ってる肉だよ。直線的に突っ込んでくるだけだから怯えたりしなければ壁にぶつけて、その隙に首をへし折るなり切り落とすなりすれば勝てるから。ボスと戦うより収入もいいし」


「ほほう、父さんのこのボディとどちらが上かな?」


「流石にワイルドボア。レベル3じゃ無理」


 普通の猪なら、まぁ素手で対処できる範疇くらいには人間卒業している。

 それがレベルという概念。

 ただ、ワイルドボアはそういうレベルの上がった探索者前提の存在だからレベル3じゃ特化型でも無理だ。

 ましてや親父は見た限りパワーとスタミナが伸びたタイプで、防御力は探索者としては並という所だろう。

 たまにね、ワイルドボアの上位種異常個体という役満を生身で受け止めるパワー特化もいるけどそれは例外中の例外。

 多分あの人は素でレベル2000くらいあった。

 動画配信者だけどその辺ぼかしてたからな。


「じゃあ幸助なら?」


「以前なら相撲はできたかもしれないけど、危ないからやってなかったなぁ……今は多分ビタ止めできる」


「そりゃすごい! さすが俺の息子!」


「ほとんどチートみたいなもんだしなぁ……」


「それでも、そこに至った経緯のどっかにお前の功績があるんだ。恥じることは無いだろ」


「でも仮初の力だぞ? 親父もよく言ってるじゃないか、いい道具があったところで持ち主が不出来なら意味がないって」


「そうだ、それを理解しているお前なら仮初を本物に変えられるとも思っている」


 親馬鹿、とは言うまい。

 これは信頼してくれているのだろうと微かに胸が熱くなる。

 なるほど、仮初ならそれを本物にして、そして自分の物にしてしまえばいいんだ。

 やはりというか人生の先駆者は良い言葉の一つもくれる物だと感心するが、普段ビール飲みながら屁をこいて妹たちに怒られる姿を思い出すと「でも全行程は無理だな」としか思えなくなってくるから不思議だ。

 というか先駆者というだけで敬われる風潮が苦手というのもあるんだけどな……ほら、親父は棟梁だけど、そこに至るまでに兄弟子とか先輩を差し置いてというのもあったし。

 それで嫉妬するような人もいたらしい。


 なんなら努力を怠ってた人もいるし、逆に死ぬ気で努力しても親父にかなわず棟梁の座を譲る事になった人もいる。

 そのうえで心から称賛を送ってくれた人もいるのだから、そこを見極めるのは己の目しかないのだろう。

 ならば、俺は大丈夫だ。

 人を見る目と、モンスターとの戦力差を見る目、これは似ているから。

 敵の悪意を見抜く目だからな。



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