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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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特訓!

「ただいま。あれ、爺ちゃん珍しいな」


 帰宅すると爺ちゃんが玄関で待っていた。

 正座して、お茶を飲みながら俺の目を見てくる。


「……幸助、この前の動きを見せておくれ」


「この前? 【演舞】のこと?」


「うむ」


「いいけど、これ母さんに預けてからね。あと今日の売り上げも」


 あの後ビッグボアを何体か倒して、収入は1万8千円。

 端数は俺の分になると言っているが、5千円以上は受け取らないようにしているので取り分は3千円だ。

 それらを母さんに渡して、爺ちゃんと庭に出る。

 縁側で茶を飲みながら【演舞】を見ている爺ちゃん、微妙にやりにくいが決まった動きを繰り返す。

 それを数回終えたところで声をかけられた。


「なっとらんな」


「うん、俺もそう思う。まだ満足に身体を動かせてないんだ」


「そうではない。その動きの意味を理解しとらん」


「意味?」


「見ておれ」


 そう言って爺ちゃんが庭の真ん中に立つ。

 齢90を超えて杖が無ければふらついてしまうはずなのに、その姿は歴戦の戦士そのものだった。


「まずこの動き」


 俺がやっていた【演舞】の一つ目、両足を揃えた状態からの突き。

 それを完璧に、いや俺がやっていた以上の完璧さで模倣してみせる。

 いやもう模倣じゃない。

 あれこそが完成系だ。


「人の根幹は軸にあり。軸とはすなわち地面、大地が無ければただの棒。故に足、腰、背、首、頭と全てを繋げ大地を掴むことこそ神髄」


「大地を……掴む……」


「そして二つ目」


 ボヒュッという音とともに振り抜かれた裏拳。


「大地を掴み、離し、その勢いのまま肉体を森羅万象の一部とする」


 凄い、それ以外の言葉が出ない。

 枯れ枝のような腕が、すすきのような足が巨木に見えるようだ。

 続けられる震脚、掌底、土渕に崩拳、その全てが洗練されており、そして完成されたものだった。


「ほれ、やってみせい。大地を掴め、地面ではなくな」


「大地を……掴む!」


 本気で踏み出した【演舞】の一つ目、正拳突き。

 不思議と世界がゆっくりに見えた。

 寒天のようだった地面は、決して人には壊せない大地へと変貌を遂げて俺の踏み出しを受け止めてくれる。

 どれほど力を入れようと沈むことは無い。

 これだ、この感覚だ。

 そのままに【演舞】を続ける。

 一つ一つの所作、細かな所にも気を配り、そして大地を掴む。

 踏みしめて、逃がさないように。

 離すときは脱力で。

 その緩急が重要なんだ。


「はぁ、はぁ……」


 気がつけば【演舞】は終わり、なんともいえぬ充実感と疲労感が襲ってきた。

 たった一度、身体を動かしただけでこれほど疲れるものなのか。


「まぁ及第点と言った所か。よいか、大地を掴む感覚を忘れるな。漫然と身体を動かすのではなく一つ一つに気を配るのだ」


「ありがとうございました!」


「うむ、さて……夕飯は何じゃろうなぁ」


「あー、今日は魚が安かったから焼き魚だって言ってたよ。味噌汁は赤だしのわかめ、あと浅漬けだったかな」


「ほう、ならもう少し小腹をすかせておくか。並べ、見て、なぞらえて、覚えよ」


「はい!」


 それから1時間、親父が帰ってくるまで【演舞】は続けられた。

 もう腕も上がらないくらい疲れたというのに、爺ちゃんはピンピンしてた。

 ……むしろ普段より元気そうだな。

 ちなみになんで爺ちゃんが【演舞】をできたか聞いたら、そんなもんスキルが無くても見よう見まねで何をしたいかわかるとのことだった。

 ……ダンジョン初代組、こわいなぁ。


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