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ダンジョン探索者だけど猫耳美少女になった件について  作者: 蒼井茜


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変化の始まり

「帰ったぞー。今日はボア肉とってきた」


 帰宅してすぐにブロック肉を出す。

 ダンジョンで手に入れた猪の肉だ。

 これめっちゃ美味いんだけど、5㎏はあるであろう肉塊も長男である俺の後に三つ子、続けて双子と生まれた6人兄妹と力仕事を主軸とする父、そして保育士として現役の母に祖父母4人、合わせて12人の生活となれば数日と持たない物である。

 当然買うより狩ってくる方が安上がりで、なおかつ魔石なんかも取れたら多少の金になるから俺は進んでダンジョンに潜っているが……西暦2000年を過ぎた今でも探索者が人気な理由はよくわかる。

 戦後の事は祖父母からよく聞いていたが、それでもまぁ美化されたものではなく、むしろ今ほど充実していなかった当時の生々しさを感じる。


 それでも一攫千金とか、バイトより儲かるという理由で探索者になる奴は多いが……流石に学生の身分であれば相応の制限が入るんだよね。

 持てるライセンスの上限とかが免許と同じように設定されているとか、武器は基本的にレンタル品を使う事とか、持ち帰った武器防具はダンジョン管理ギルドが使用可能ライセンス取得まで預かるか売却を求めるかの二択ということとか。

 なんにせよ制限が多い中で、やはりバイトより儲かるから俺はダンジョンに挑み続けていた。


「あらー、助かるわ。今日は青椒肉絲にしようかしら。裏山でタケノコがとれたのよ。それにピーマンもあるし」


 今日は休日という事で家事に専念していた母が軽々と肉を持っていく。

 まぁ、暴れる子供を抱きかかえるよりよほど楽なんだろな。


「よう、今日の稼ぎはどんなもんだ」


 同じく休日を満喫していた父は楽し気に話しかけてくる。

 儲けの催促とかではなく、純粋な好奇心だろう。


「今日は1万と数千円ってところかな。もうちょい稼ぎたかったんだけど時間制限があってさ」


「いやいや、凄いじゃないか。月給にすれば30万を超えるぞ」


「それでも、もう少し稼げたらいいんだけどねぇ」


 学生、それも義務教育を終えたばかりともなれば時間制限というおまけが加算されるのは当然である。

 なにせ時間をかければどれだけ深いダンジョンでもレベルに見合った階層、下手すれば深層なんて言われている地獄のような場所にだって辿り着けるのだ。

 そんな無茶を子供にさせられるかという建前と、児童が安全に探索できる環境を整えてますという政治的建前、そして学生のうちにとんでもなく強くなった馬鹿が暴走しないための措置としてこういったダンジョン法という形で用意されている。

 ちなみに学生でなくとも18歳未満全員がこの法令を遵守しないと最悪探索者資格を失ってダンジョンに挑めなくなるというおまけもついている。


 結果的にとはいえ日給1万ちょっとを手に入れられるならばとそれを飲むのが大半という現実。

 さらに18歳を過ぎてから学生という身分を抜け出せたらあとは好きなだけ稼いでねというスタンスの国と、それを前面に押し出すギルドという糞みたいな組み合わせのおかげで我が家の家系は……まだ火は付いていないが自転車操業である。


「というわけで端数は貰って1万円は家計にたして」


「すまんなぁ……俺達もダンジョンに行ければよかったんだが」


「試験項目で引っかかったなら仕方ないよ」


 父親は持病となってしまったヘルニア、母は弟妹を身ごもっていたという理由から探索者としてのライセンス取得を諦めざるを得なかった。

 まぁ仮に取得できたとして、普段から肉体労働の両親にそこまで働いてもらうのは無理だし、強行すればあっという間に身体を壊して家計が燃え上がること待ったなしなので、結果的に俺が探索者になったのがベターである。

 弟も妹もまだ幼いし、ダンジョンへのあこがれはあってもたまに大怪我して帰ってくる俺を見てテレビで見るヒーロー程度の物でおさまっている。

 ……まぁ長女となった俺の妹は自分も探索者になると言い続けてるけどな。

 ありゃ俺と同じで「そうした方がいいから」という理論武装で動いているからもはや夢とか憧れじゃない。


 目標にして通過点としかとらえていない、いわゆる手段の一つでしかないのだ。

 それを突っぱねたら「じゃあ学校行かないで働く」と言い出しかねないので俺達も「将来的にな」と言い含めているのだが……。


「さて、せっかくのダンジョン産だ。たらふく食べて明日も頑張って働くとするか!」


 父が元気そうに、しかし腰をさすりながらそんな事を言い出したので俺も同調しておこう。

 学業の合間の探索は楽しいが義務だ。

 それを怠る事はできないからな!

 さて、母が青椒肉絲を作り終えるまで……いつどこで手に入れたか知らんがデカい中華鍋で調理している間に俺はシャワーを浴びる。

 ダンジョン内だと文明の利器が尽く動かなくなるからね。

 運動後だし、ほぼ野生動物みたいな獣臭いモンスターを相手取ってきたから滅茶苦茶臭う。

 なので帰宅後シャワーは日課だったのだが、ゾワリとした妙な感覚。


 慌てて石鹸を洗い落として服を着てリビングに行けば爺ちゃん祖母ちゃん達が両手を合わせて祈るような姿勢を取っていた。


「何この感覚!」


「来たか幸助……お前も座って手を合わせなさい。神々の神託だ……」


「え、それって……」


「儂らが昔経験したものだ。この感覚は間違いない」


 その言葉、そして目つきの鋭さに後押しされ、床に座って手を合わせ眼を閉じる。

 次の瞬間だった。


『現地呼称探索者が規定人数を突破しました。ワールドクエスト第二フェーズへと入ります。現地呼称ダンジョンに関わるものへ均等に恩恵を与えます』


 初めて聞いた声……と言うと語弊があるが、脳内に直接送り込まれた言葉は何故か懐かしさを感じるものだった。

 そして同時にビキリという嫌な音が響く。

 出所は俺の両手、鋭い痛みに悲鳴を上げそうになりながら歯を食いしばり、そして目をかっぴらく。

 敵を殴るのに不適切と深爪気味に切っていた爪が鋭く伸びていた。

 隣にいる爺ちゃんたちを見るが特に何かが起きている様子も無し。

 両親や妹たちも同様、俺だけに異変が起こっていた。

 続けてもう一度ビキリ、今度は歯が抜け落ちた。


「ぐぅぁあああ!」


 もはや耐える事はできなかった。

 手の、口元の、そして徐々に広がっていきついには全身に達した痛み。

 それに耐えかねて喉の奥から泡がわいてくる。

 呼吸もままならず、いっそ気絶出来たらどれほど楽だろうか。

 そんな事を思いながら父が救急車を呼ぶ声だけが耳に残り、期待通りというか俺は意識を手放す事が出来た。


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