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2-2.社長室という名の籠(美玲視点)

朝食の終わり際、新しいお父さんが救いの手を差し伸べてくれた。


「美玲さん、新学期まであと数日あるだろう? 今日は運転手をつけるから、街へ出て新しい学校の準備をしたり、好きな服でも買いに行くといい。蘭瑤さんも一緒に行ってあげなさい」


(やった……!)


私は心の中で小さくガッツポーズをした。

昨夜の龍一さんとの出来事のせいで、心はどんよりと沈んでいたけれど、お母さんとお出かけできるなら最高のリフレッシュになる。

お母さんに昨夜のことも相談したいし、一緒に甘いものを食べて……なんて、一気に想像が膨らんだ。


「ありがとうございます! お母さん、何時に……」


「その必要はない」


期待に胸を躍らせた私の言葉は、隣から響いた冷たい一言でバッサリと切り捨てられた。


「彼女は今日から、私と共に会社へ来てもらう」


「龍一? なぜだ。彼女には自由な時間が必要だろう」


お父さんが不思議そうに聞き返してくれたけれど、龍一さんは新聞をめくる手を止めず、淡々と答えた。


「新しい環境に馴染めるよう、私が教育を施します。蒼家の名に恥じるような成績を取られては困る。私の執務室で、新学期の予習をさせる」


「教育と言っても、お前は仕事で忙しいだろう」


「……仕事の合間に、私が直接見ます。異論は認めません」


龍一さんの放つ、絶対にNOと言わせないオーラ。

追い打ちをかけるように、瑞さんからも「蒼家に足を踏み入れた途端に散財されたらたまりませんからね」と嫌味が飛んできた。

結局、お母さんとの楽しいショッピング計画は泡と消え、私はなぜか龍一さんの高級車に押し込まれることになった。


(……予習なんて、自分のお部屋でもできるのに。贅沢をしたいわけじゃない。ただ、お母さんとゆっくりお買い物に行きたかったなぁ……)


窓の外を流れる都会の景色を見ながら、私は心の中でこっそりと溜息をついた。

連れてこられたのは、蒼龍グループの本社ビル。

その最上階にある、ドラマに出てくるような豪華な社長室だった。


「そこで勉強していろ。一歩も外へ出るなよ」


部屋の隅には、私専用のピカピカのデスクと椅子が用意されていた。

しかも、教科書やノートまで完璧に揃っている。


(……準備が良すぎる。それに、龍一さんのデスクが近くて緊張する……)


龍一さんは席に着くなり、鬼のような形相で仕事に取り掛かった。

電話で何ヶ国語かを使い分けながら、鋭い指示を飛ばしている。

私は仕方なく教科書を開いたけれど、すぐ隣から漂う彼特有の「白檀」の香りが気になって、全然勉強に集中できない。


(龍一さん、怒ると怖いけど……仕事をしている横顔は、なんだか別人のように綺麗だな……)


つい見惚れてしまい、ペンが止まる。

すると、いつの間にか龍一さんの鋭い視線がこちらを射抜いていた。


「手が止まっているぞ。分からないところでもあるのか」


「あ、いえ! 大丈夫です、やってます!」


慌ててノートに向き直る。


「……あとで見直す。それまでに終わらせておけ」


厳しいなぁと思いつつも、彼が資料をめくる合間に「ちらっ」とこちらを確認する視線は、なんだか単に厳しいだけではないような気がした。……いえ、そんなの私の気がするだけかも。


「不愉快だ」なんて言われたから、てっきり嫌われているんだと思っていたけれど……


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