3-4. 蒼の覚醒(美玲視点)
鏡の中に立っているのは、一体誰だろうか。
パーティーの当日、私は数人がかりのメイドたちの手によって、まるで精巧な彫刻のように磨き上げられた。
身に纏っているのは、あの日、百貨店で龍一さんが「これこそが蒼家の色だ」と断言して選んだ一着。
それは深い夜空に星屑を撒き散らしたような、神秘的なミッドナイトブルーのシルクドレスであった。動くたびに、生地に織り込まれた微細なクリスタルが瞬き、私自身が淡い光を放っているような錯覚さえ覚える。
「……これが、私……」
胸元には、ドレスの蒼をより鮮烈に引き立てるサファイアとダイヤモンドのネックレスが鎮座している。
瑞兄さんの厳しい講義で叩き込まれた通りに背筋を伸ばすと、鏡の中の女性は、かつての自信なげな少女とは別人のような、静かな気品を湛えていた。
「失礼いたします。旦那様方がお迎えに上がりました」
メイドの声と同時に、重厚なドアが開く。
そこに立っていたのは、漆黒のタキシードを完璧に着こなした三人の兄たちであった。
彼らの胸元には、共通して「蒼家」の証である、鮮やかなサファイアブルーのチーフが誇らしげに光っている。
龍一さんは私を一目見た瞬間、雷に打たれたように足を止めた。
「…………美玲」
その声は微かに震え、氷の皇帝と呼ばれた男とは思えないほど、その瞳は熱く揺れていた。
彼はゆっくりと歩み寄り、至近距離で私を見つめる。その視線の強さに、呼吸を忘れてしまいそうになる。
「……あの日、夢の中で私に微笑んでいた君よりも……今の君の方が、ずっと美しい。この蒼こそ、お前のためにある色のようだ」
彼がそっと私の手を取り、跪くことなく、しかし最大の敬愛を込めて指先に熱い唇を落とした。
それは当主としての儀礼を超えた、一人の男としての深い思慕の証明であった。
指先から伝わる熱に、顔が火に包まれたように熱くなる。
「おいおい。兄貴、美玲を独り占めしてんじゃねーよ」
廊下から呆れたような、だがどこか落ち着かない声を上げたのは麒兄さんだった。
彼もまた、いつもより大人びた正装姿だが、ブルーのタイを少し緩めた彼らしい着こなしだ。
麒兄さんは私を見るなり、一瞬だけ言葉を失ったように目を見開いた。
「……なんだよ、その格好。まあ、悪くねーな。……っていうか、今日のパーティー、変な虫がつかないように俺がずっと見張ってなきゃダメそうだ」
ぶっきらぼうに言いながら顔を背けたが、彼の耳が真っ赤になっているのを私は見逃さなかった。
「完璧な仕上がりだ。美玲、今日からあなたが、我が蒼家の誇りそのものである」
最後に現れた瑞兄さんは、銀縁の眼鏡を光らせ、満足げに私を検分した。
彼の胸元のブルーのチーフは一点の乱れもなく整えられており、その徹底した美意識が私の背筋をさらに伸ばさせた。
三人の兄たちが、私の周囲を囲む。
それぞれの胸に宿る「蒼」の誇りが、私を強く、気高く変えていく。
「行こう、美玲。世界にお前を見せつける時だ」
龍一さんが差し出した腕に、私は静かに手を添えた。
扉の向こうに広がる光の海へと、私たちは蒼い一陣の風のように歩み出した。




