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3-3. 披露の夜へ(美玲視点)

「……兄さん。これほどの準備をしたということは、例の件を進めるつもりですね」

玄関ホールに運び込まれる、山のようなブランドの箱。

それを横目に、瑞兄さんが冷徹な声で問いかける。

龍一さんは私の肩を抱き寄せたまま、迷いのない口調で答えた。

「ああ。来月末のチャリティーパーティーで、美玲を正式に披露する」

その言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。

蒼龍グループが主催する、あの恐ろしいほど格式高い社交の場。

ニュースでしか見たことのない、煌びやかで、そして残酷なほど完璧を求められる世界だ。

「瑞。招待客のリストは洗ってあるな?」

「ええ、無論です。政財界の重鎮に、兄さんと敵対する派閥の人間も数名……。まさに『虎の穴』ですね。美玲さんのような無垢な獲物が放り込まれれば、骨の髄までしゃぶり尽くされるでしょう」

瑞兄さんがわざと怖がらせるように、淡々とリスクを口にする。

私の顔から血の気が引いていくのが分かった。

ただでさえ「蒼家の新しい娘」というだけで注目されるのに、龍一さんのパートナーとして隣に立つなんて。

「龍一さん、私……そんな、無理です……。失敗して、皆さんの顔に泥を塗ってしまったら……」

恐怖で足がすくみかけた、その時だった。

それまで不機嫌そうに荷物の山に寄りかかっていた麒兄さんが、ドカドカと足音を立てて私たちの間に割り込んできた。

「おい、美玲! 何ビビってんだよ」

麒兄さんは私の背中をバシッと乱暴に叩き、少し尖った視線で私を睨みつける。

「パーティーなんて、どうせ腹黒いジジイや性格の悪い女狐どもが、品定めしに来るだけの場所だ。あいつら、自分より目立つ奴がいれば、あることないことギャーギャーわめきやがるんだよ」

言葉のあまりの荒っぽさに一瞬ひるんだものの、私を見据える麒兄さんの瞳は、真剣そのものだった。

「……でもな、お前には俺たちがついてんだろ。瑞兄のクソ厳しい鬼特訓に耐えたんだから、あんな奴らに負けるわけねーだろ。自信持てよ」

麒兄さんはフンと鼻を鳴らすと、少し照れくさそうに顔を背け、ぶっきらぼうに続けた。

「……当日は、俺がずっと近くにいてやる。もし変な奴が絡んできたら、俺がそいつをブッ飛ばしてでも追い払ってやるから。お前はただ、背筋伸ばしてそこに立ってりゃいいんだよ」

「……麒兄さん」

「ふん。礼なんていらねーよ」

麒兄さんの不器用な優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

すると、それを見ていた瑞兄さんが、やれやれと眼鏡の位置を直しながら口を開いた。

「野蛮ですね。……ですが、フィジカル面の警護は麒に任せてもいいでしょう。その代わり、知的な攻撃への対処は私が引き受けます。あなたに向けられる悪意ある質問は、すべて私が論理的に遮断しますから」

「瑞兄さんまで……」

二人の弟たちの言葉に、私は思わず涙ぐみそうになった。

すると、私の肩を抱いていた龍一さんの手に、ぐっと力が込められた。

見上げると、彼は頼もしい弟たちを誇らしげに見つめ、そして私に視線を落とした。

「聞いたな、美玲。お前の盾となるのは私だけではない」

龍一さんは、今日買ったばかりの、夜空を切り取ったような深い蒼色のドレスが入った箱を指先で示した。

そこには、同系色のシルクのチーフやカフスも添えられている。

「このドレスは、お前のためのよろいであり、証だ」

龍一さんは私の髪を優しく撫でながら、静かに告げた。

「当日は、私を含め瑞も麒も、全員がこの『あお』を身につける。……つまり、これを纏うということは、お前が名実ともに我々『蒼家の一員』であることを周囲に示すということだ」

「蒼家の、色……」

「そうだ。この色を纏い、胸を張って私の隣に立てばいい。……お前に指一本でも触れようとする者がいれば、私がその手をへし折る。お前を嘲笑う者がいれば、その口を二度と開けなくしてやる」

龍一さんの瞳には、一国の王だけが持つ、絶対的な自信と傲慢さが宿っていた。

「お前は、蒼龍一が選んだ女だ。誰に遠慮する必要がある?」

その言葉は、どんな宝石よりも力強く、私の中に眠っていた勇気を呼び覚ましてくれた。

龍一さんの圧倒的な決意。

瑞兄さんの冷静な計算。

そして、麒兄さんの乱暴ながらも真っ直ぐな騎士道。

すべてが、蒼く美しい絆で繋がっている。

「……はい。私、頑張ります」

三者三様の「愛」に包まれ、私はついに、蒼家の令嬢として外の世界へ踏み出す覚悟を決めたのだ。

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