1-2. 招かれざる客
蒼家の本邸に帰宅すると、居間には重苦しい空気が停滞していた。
「龍一、話があるこちらに来なさい。父の願いを聞いてほしい。」
席についている父である会長の柔和な表情とは対照的に、弟たちの顔は険しい。
次男の瑞が冷ややかに鼻で笑い、三男の麒が、こらえきれないといった様子で声を荒らげた。
「冗談だろ親父!母さんが死んでから、俺たちうまくやってきたじゃないか。今さら継母なんて、絶対に認めないぞ!」
「麒、言葉を慎みなさい」
父が窘めるが、麒の怒りは収まらない。
それも無理はなかった。
蒼家の三兄弟にとって、「父に近づく女」はすべて敵だった。
蒼龍グループの財産、あるいは蒼家の後妻という椅子。
それを狙って、これまで数多の女たちが卑しい本性を隠し、微笑みを浮かべて近づいてきた。
時には三兄弟に取り入ろうとし、時には露骨に彼らを排除しようとした女たち。
龍一はそのたびに、冷徹な手腕で彼女たちの化けの皮を剥ぎ、一族から叩きだしてきたのだ。
三兄弟の心には、共通の深い傷跡と、消えない女性不信が刻まれている。
「父さん、突然すぎます。まったくの他人を家族として受け入れるなど、我々の感情を無視しすぎている」
瑞が、いつにも増して鋭い声で父を諭した。
龍一は無言のまま、その光景を冷ややかに俯瞰していた。
父が特定の女性と親しくしているという報告は、護衛から受けていた。
だが、邸に呼び寄せ、籍まで入れるほど入れ込んでいるとは予想外だった。
「みんな、私の話を聞いてほしい。私は人生の終盤にきて、ようやく心から安らげる相手を見つけたんだ。美玲という、心優しい娘もいる。……彼女たちと、この家で暮らしたいんだ」
父の眼差しは、情熱的で、かつてないほど頑なだった。
一歩も引かない父の態度に、龍一の心は冷たく沈む。
(また、あの女たちと同じか)
三兄弟にとって、この邸は唯一、世間の毒から守られた聖域だった。
それを金と地位に目の眩んだ「悪女」にかき乱されるなど、龍一は断じて許さない。
彼は一言も発さず、しかしその双眸には、獲物を射抜くような鋭い光を宿していた。




