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3-2. 皇帝のショッピング(美玲視点)

蒼龍グループが誇る、北京最大級の旗艦百貨店。

正面玄関に車が横付けされると、そこでは支配人を筆頭に数十人の幹部が整列し、軍隊のような規律で頭を下げていた。

「総裁、本日はお越しいただき――」

「挨拶はいい。最上階を貸し切りにしろ。他の客はすべて出せ」

龍一さんは支配人に視線すら向けず、氷のように冷たい声で命じた。

その瞳には、一国の主としての冷徹な光が宿っている。従業員たちはその圧倒的な威圧感に気圧され、誰一人として目を上げることすらできない。

けれど、私の手を引くその指先だけは、驚くほど丁寧に、大切に扱われていた。

「……龍一さん、皆さんすごく緊張されていますよ?」

私が小声で囁くと、彼は表情を一切変えず、ただ私だけを見つめて答えた。

「気にする必要はない。私は今日、仕事をしに来たのではないからな。……美玲、君に相応しいものを選ぶことだけが目的だ」

その冷徹な声色と、私にだけ向ける甘い眼差しのギャップに、背後の従業員たちが困惑して顔を見合わせるのが見えた。

特別フロアに上がると、龍一さんは無言のまま、次から次へと服を選び出した。

値札など見ない。デザインと素材だけを瞬時に見極めていく。

「これと、これ。……それからあの列のものも全て試着させろ。少しでも肌触りが悪いものは省け」

彼の判断は速く、そして絶対だった。

そして、一足の美しいヒールを試した時のことだ。

「……っ、少し、高いかもしれません」

私が慣れないピンヒールにふらつくと、龍一さんは躊躇ためらうことなく、その場に片膝をついた。

「っ……!? 総裁!?」

支配人の悲鳴のような声が響く。

国の経済を動かす「皇帝」が、大勢の部下が見ている前で地べたに膝をつき、一人の女性の足を取るなど前代未聞だ。

周囲が息を呑む中、龍一さんは至って真剣な表情で、私の足首をそっと支えた。

「動くな。……ストラップの締め付けが強いか? 痛むようなら別のものに変えさせる」

「り、龍一さん、立ってください! 皆さん見てますし、私が自分でやりますから……!」

顔から火が出るほど恥ずかしくて慌てる私に対し、彼は私の足首を握る手に少しだけ力を込め、断固とした口調で返した。

「私がやりたいだけだ」

冗談でも何でもない。彼はただ、自らの手で私に最高の品を贈ることを、至上の義務であるかのように遂行しているのだ。

大きな手のひらから伝わる熱に、心臓が早鐘を打つ。

「……よし、完璧だ。……支配人、この列の靴はすべて包め。それから、このドレスに合う宝石を地下の金庫からすべて持ってこい。私が選ぶ」

結局、百貨店のあらゆるものを買い占めるような大騒動になり、私たちが屋敷に戻った時には、玄関先はすでに山のような荷物で埋め尽くされていた。

「……兄さん」

エントランスで私たちを待っていた瑞兄さんが、最高級ブランドのロゴが入った箱の山を眺め、深く、深く天を仰いだ。

「百貨店の年間売上の数パーセントを、たった一日で個人消費する当主がどこにいますか。……これほど無意味で、かつ暴力的な経済回しを私は見たことがありません」

瑞兄さんは眼鏡を外して目元を指で揉みほぐし、言葉を失ったように溜息を吐いた。

なぜだか私も一緒に責められているようでいたたまれない。

「講義のスケジュールを空けた結果がこれですか。……明日からのマナー教育に『財政感覚の欠如した兄への対処法』を追加しておきます」

その横で、龍一さんだけが「良い買い物だった」と満足げに頷き、当然のような顔で私の肩に手を置く。

「瑞、そうカリカリするな。美玲にはこれでも足りないくらいだ」

龍一さんはやはり、どこかのネジが数本……いや、根こそぎ抜けてしまったようだった。

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