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1-1. 氷の皇帝

「……今回の買収案件、宗氏グループに付け入る隙を与えるな。徹底的に叩き潰せ」


蒼龍グループ本社ビル最上階、重厚な沈黙が支配する会議室。 蒼 龍一ツァン・ロンイーの低く、温度を欠いた声が響くと、並み居る重役たちは一斉に背筋を正し、神妙な面持ちで深く頷いた。


25歳。この若さで巨大グループの頂点に君臨する彼に、異を唱える者は一人もいない。

龍一が下す決断は常に冷徹で、かつ正確無比だった。

無駄を削ぎ落とし、利益を最大化するその手腕は、もはや恐怖に近い敬意を集めている。

「リーダー」としての資質は完璧だ。

だが、一人の人間として彼と向き合える者がいるかと問われれば、誰もが沈黙するだろう。

彼はにこりともしない。

その美しくも険しい風貌から、財界では畏怖を込めて「氷の皇帝」と呼ばれている。



会議を終え、執務室に戻った龍一は、全面ガラス張りの窓から摩天楼を見下ろした。

夕闇に染まる街の明かりが、宝石を散りばめたように輝いている。

だが、その光の海を見つめる彼の瞳に、感動の色は微塵もなかった。

彼の心は、常に深い霧の中にあった。



夢に見るのだ。名も知らぬ女が、悲しげに琴を弾き、自分を待っている姿を。

その声も、顔も、霧に隠れて見えないまま。

ただ「守れなかった」という鋭い痛みと、胸を焼くような後悔だけが、彼を孤独に縛り付けている。


(……どこにいる。お前は誰だ)


どれほど富を築き、力を手に入れても、魂の乾きが癒えることはない。

勝利の美酒も、絶大な権力も、彼の凍りついた心を溶かすことはできなかった。

涙はとうの昔に枯れ果て、彼の心は、あの夢の中の旋律を探して彷徨い続けていた。

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