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第一話:残業帰りと、7歳の宝物

数ある作品の中から本作を見つけてお読みいただき、誠にありがとうございます。


物語を少しでも早くお届けできるよう、更新は毎日【12時、19時、23時】の3回を予定しております。


また、作者は別作品(『アラフォー社畜、巻き込まれ召喚されたら『業務効率化』スキルが万能チートだったので、面倒事はサクッと片付けて早期リタイアを目指します 』https://ncode.syosetu.com/n4390kt/)で完結させた経験もございます。

この物語も必ず最後まで書き上げますので、どうぞ安心して主人公たちの行く末を見守っていただければ幸いです。


 

 残業の疲れを引きずって、ようやく我が家のドアを開ける。

 革靴を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める瞬間だけが、俺、貴弘たかひろの一日で唯一、鎧を脱げる時間だ。今年で41歳、ビル管理業。最近、腹の肉が気になって筋トレを始めた、どこにでもいる普通のおっさんだ。


「ただいま…」


 静まり返ったリビングに、誰にも届かない挨拶が落ちる。妻に先立たれてから、この家には俺と、たった一人の娘、れいかしかいない。もう寝ているだろう。物音を立てないように、そっと廊下を歩く。


 そして、一番奥の部屋。俺の宝物が眠る場所のドアを、静かに開けた。


 すー、すー、と穏やかな寝息が聞こえる。

 ベッドの上で、天使のような寝顔で眠っているのは、愛娘のれいか。7歳。この春、ピカピカのランドセルを背負って、小学校の門をくぐったばかりだ。


 その小さな手には、もう何年も一緒に寝ている、くたくたのクマのぬいぐるみが、しっかりと抱きしめられている。

「もう小学一年生なんだから、クマさんは卒業したら?」なんて言ったら、「クマさんも一緒じゃないと眠れないの!」と、ぷっくり頬を膨らませていたっけな。


 その寝顔を見ているだけで、残業の疲れも、明日の会議の憂鬱も、全部どうでもよくなる。この子の寝顔を守るためなら、なんだってできる。本気で、そう思える。


 そっとドアを閉めようとした、その時だった。


 ふと、違和感に気づく。

 れいかの体から、淡い光が、ほのかに漏れ出している。


「……ん?」


 見間違いか? 疲れで目がおかしくなったのかもしれない。

 目をこすって、もう一度見る。

 いや、光は消えない。それどころか、まるで呼吸をするように、ゆっくりと明滅しながら、徐々にその輝きを増していく。


 なんだ、これ。

 漫画やアニメで見るような、非現実的な光景。

 理解が追いつかないまま、俺は娘のベッドへと駆け寄った。


「れいか! おい、大丈夫か!」


 俺が、その小さな肩に手を触れた、瞬間だった。


 光が、爆発した。

 いや、爆発じゃない。俺とれいか、二人まとめて、優しく、だが抗いようもなく、その純白の光が包み込んだ。

 体がふわりと浮くような感覚。目の前が真っ白になり、何も見えない、何も聞こえない。ただ、れいかの小さな手を、絶対に離さないように、固く、固く握りしめた。


 次に目を開けた時、鼻をつくのは、土とかびの匂いだった。

 背中に感じるのは、硬く、ひんやりとした石の感触。さっきまでいた、自分の家のフローリングじゃない。


「……どこだ、ここ…」


 体を起こすと、そこは薄暗い石造りの部屋のようだった。

 ハッとして、自分の腕の中を見る。そこには、気を失ったままのれいかが、俺の腕にしっかりと抱きかかえられていた。よかった、一緒だ。


「パパ…?」


 俺の声で目を覚ましたのか、れいかが不安そうに俺を見上げる。


「大丈夫だ、れいか。パパがついてる」


 そう言って娘を安心させようとした、その時。

 目の前の暗がりから、何かがぬっと姿を現した。


 身長は、れいかと同じくらいだろうか。だが、その姿は子供とは似ても似つかない。緑色のしわくちゃな肌。爛々と光る、意地の悪い目。口元からは涎が垂れ、その手には、木の枝を折っただけのような、粗末な棍棒が握られていた。


 漫画で見たことがある。ゲームで戦ったこともある。

 間違いない。これは、ゴブリンだ。


「グルゥ…」


 ゴブリンが、下卑た笑みを浮かべて、一歩、こちらにじり寄る。

 俺は、震える娘を背中にかばい、無防備なまま、その化け物と対峙した。

数ある作品の中から、本作を見つけて、そして最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!


「続きを読んでみたい」と思っていただけましたら、ぜひ物語のブックマークや、ページ下にある【☆☆☆☆☆】での評価をいただけると、本当に、本当に執筆の大きな励みになります!

皆様の最初の応援が、この物語が走り出すための、一番の力になります。


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