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あれから2年。毎日の走り込みに筋トレ、祖父から教わった剣道、父から教わったボクシングの修練を続け、無事に軍の見習いになることができた俺は日々の鍛練にうちこんでいた。
兵士志望ではあるものの適材適所という言葉の通り、各々の潜在能力を探るため講義も受けている。主に軍医、兵士、パイロットの3種があり基礎を受けて4年目から専攻で受けられる仕組みだ。どの役職に就いても結局は前線に出ることが多いらしいから必要なことだろう。
そうして教官指導の元、仲間達と切磋琢磨している最中、一通の手紙が俺の元に届いた。
内容を見て一瞬顔をしかめる。既に兵士として前線に出ていた父が負傷して家に帰ってきたそうだ。それももう兵士として前線に出れない体で。
手紙を渡してくれた教官も内容を知っていたのか、俺が中身を見たのを確認するなり一時帰宅を促された。
その好意に甘え、手紙を握りしめたまま私服に着替え財布と返してもらったケータイを手に家に急ぐ。
「父さん!」
家に着き、玄関を開けるなり父を呼ぶと中から祖母が出てきた。
「満、落ち着いて。孝臣なら自室で寝てるよ。」
「ばあちゃん、ありがとう。ごめん。ただいま。」
「はい、お帰り。」
嗜める言葉に深呼吸をしてちゃんとただいまを言うとにっこり微笑み返してくれた。
靴を脱ぎ2階の父の自室の前に立つ。
ノックをすると起きてはいたのか返事が帰ってきたので扉を開き中に入る。
「ただいま、父さん。手紙貰ったから一時帰宅の許可出て帰ってきたよ。」
「お帰り。満。すまんな、ちょっと手を貸してくれ。」
「ああ。無理すんなよ。」
そう返しつつ体を起こす手伝いをすることで何処を負傷したのか分かってしまった。
「右腕……。失くなったのか。」
「怪我して立てなくなった同僚に手を貸した時にやられたよ。ついでに足も繋がってはいるが杖が必要になった。」
「同僚さんは?」
「………っ、此方に連れ帰ってくることはできた。」
悔しそうに左拳を握りしめ唸るように教えてくれた。
「そうか。でも父さんが帰ってきてくれて良かったよ。」
五体満足とは言えないが意識はあり補助付きで動くことができる。兵士として、軍人として動くことは出来ないだろうがそれでも帰ってきてくれただけ御の字だ。
前線に出て亡くなる事もざらにある軍で生きて帰ってこれたり遺体を回収できるのは有り難いことだ。なにせ、大切な人のもとに戻ってこれるし敵のエネルギー源にならずに済むからだ。
「飲み物、取ってくるよ。」
そう言い静かに扉を閉め階段を降りる。
何れは俺も父のように仲間を失ったり自分の体の一部を失うかもしれない。勿論それ以上に死んでしまうこともあるだろう。それでも弟と母を取り戻すために戦うと決めたのだ。誰に何と言われようと。
「満か。孝臣はどうだい。」
「大丈夫そうだよ。」
「そうか。」
祖父はそう言い目を瞑る。
「なあ満。軍人になるのを辞めんか?」
「じいちゃん、俺は誰に何と言われようと辞めないよ。俺も絶対に生きて戻ってくる。」
「そう、か。」
「ごめん。」
話を切り上げ飲み物を冷蔵庫から適当に取り父の部屋に戻る。
言われると分かっていた。だが決意は固い。
戻った父の部屋で少し話した後、久方ぶりの自室に入る。
祖母が掃除してくれていたらしく埃っぽさはない。カーテンと窓を開けベッドに寝転ぶ。見渡す部屋は家を出た時から変わっていない。机の上に置いてあるゲーム機がふと目に入り、久々にやってみる。
最後にプレイしたのは弟と母が居なくなったその日だ。随分懐かしい。キャラクターを操作しながら敵を次々と倒していく。経験値を得、アイテムを手にしエリアを進んでいく。
「満ー。ご飯よー。」
階下から祖母の呼ぶ声がして時計を見るともう夕方だった。
いつかの時と同じように時間を忘れていた。あの時も母にこうして呼んでもらえていたら違ったのだろう。
そんな日常を取り戻すためにも頑張らなくてはならない。
翌朝、父に兵士を目指し続けるのか聞かれ当然だと答え家を出た。
隊舎に戻りケータイを預け、早速着替えて講義を受けに行く。遅刻したことに教官は何も言わずに着席を促されそのまま講義が進む。休んでた分の講義はプリントで学んでおくように言われプリントを受けとる。
昼休憩をとり午後は訓練だ。今日は体力育成らしく10㎏程の荷物を背負い、走り出す。グラウンドを10周してから近くの山まで走り、山を登る。勿論走ってだ。最初はへばっていたが今では大分体力もつき山を登るぐらいはできるようになっていた。
そうして訓練と講義を重ねた結果、俺はパイロットが向いているらしいと分かった。勿論兵士適性がないわけではない。ただゲームで培ったコントロール技術や度胸が良いらしい。しかし兵士を目指してる身としては下に見るわけではないがやはりパイロットや軍医をやる気はない。教官と話し合いのすえ、兵法の自習を行うことで更に兵士適性を見出だすことになった。
そうして4年目になり無事に兵士としての専攻を受けれるようになった俺は一安心していた。
「新谷!どこ専攻になった。」
「三谷、お前もいたのか。」
「当たり前だ。なるって言ったろ。それで?俺は軍医だ。」
「兵士だよ。」
中学の同級生だったやつもちらほは見かける。三谷もその一人だ。
「良かったじゃねぇか。前線とはいえ直接家族を探せる。」
「そうなんだよ。親父も怪我して前線に出れなくなったからな、俺だけなんだ。」
その言葉に気負いすぎんなよ、とだけ言い残し立ち去る。
これから各々の専攻で教官からの言葉があるのだ。俺も足早に指定された新しい教室に向かう。
「これからお前達には兵士として実践に富んだ訓練をしてもらう。弱音は受け付けない。2年間だ。実践に出て戦果を上げてもらうためにこれ迄の訓練より更に厳しくなる。心しろ。」
その日はそれだけで終わったが次の日から言葉通りに訓練は過酷を極めた。息をついているもの、倒れた者達に遠慮なく水を被せては叩き起こし、訓練をさせる。弱音を吐いた者や泣き出した者達には兵士を辞めるか、家に帰れと怒声を浴びせる。
かくいう俺も何度も倒れたり吐いたりしたものだ。しかし、家族を取り戻す決意を思い出し何度も立ち上がる。
昔に比べて体格も大分変わっているだろう。成長期で体がキシンだ時もあったが今は成長しきり落ち着いている。
とは言え全てが訓練でもない。週に数度講義を受け、戦略、兵法を学ぶ。戦場ではフォーマンセルで動く。その時の役割や判断等を学び、基礎的な軍医とパイロットの技術も平行する。
そうして戦場で戦うための厳しい訓練を継続していく。