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毒は病を制するか。

作者: 徒華

問.毒は病を制するか?


私レノには彼氏くんがいる。

名前はみーくん!湊って名前からとった。

みーくんはかっこよくて夢に向かってキラキラ頑張ってて、優しいし、愛情表現も沢山してくれる!

そんな大好きな存在。

でも不満もたくさんある。

女の子と絡んで嫉妬させてくるのにレノには嫉妬しない。

いつも割り勘。記念日とかレノの誕生日も。

未読、既読スルーが多い。てか多くなった。

付き合っちゃいけない3Bの中の1つ。

体型のこと言ってくる。

レノが好きの単独1位じゃない。他のものが1位っていうか同率1位らしい。

あーもう!言ってるだけでイライラしてきた!

ちゃんとレノのこと好きなのかな?

だからいっつもレノは病んでる。

レノが病んでるところを見せるとみーくんすごい嫌な顔するから出さないけどいっつも病んでる。

なんでレノを嫉妬させるようなこととか不安にさせるようなことSNSに書くの……。とかね。

あとは未読なのにSNS動いてる時とか発狂しそう!

なんでレノの連絡返してくれないの?とかレノからの連絡うざいの?とかレノのこと飽きちゃった?とか病みが無限展開されちゃうの。

友達とかママに言うと「別れなよ」って言われるけど別れられない。

会うと甘えてくるとこが可愛いとかたくさん好きって言ってくれるとかで好きー!ってなっちゃう……。

うー……。レノだってそういうの許しちゃうからダメだってことはわかるんだけど許しちゃう。

だってみーくんと別れたらひとりぼっちになっちゃう!

レノはブスだから次の彼氏なんて絶対出来ないし…。

どうしたら楽になれるのかな…?

ピアスを開けてみたりお酒飲んだりお金使ってストレス発散したりしてるけどそんなんじゃ吹き飛ばせない!

でも男あそびなんてする勇気もないし…。

あ、また既読スルーされてる。

なんで?!会話の切れ目じゃないじゃん!

そんなにレノと会話したくないの?!

もうレノのこと嫌いなんだ!

もう嫌だ!苦しい苦しい苦しい!

みーくんもレノの気持ち味わえばいいのに!

レノと同じぐらい病んじゃえばいいのに!

うぅ…。はぁ。

ド〇キにぬいぐるみでも買いに行こ…。

病みかわパーカー着て、涙袋にナメクジ住まわせて、

ツヤツヤハーフツイン作ってれっつごー。

こんな可愛い彼女ちゃんほっとくなんて最低なやつ!

イヤホンから流れるお気に入り曲でスキップの進化前みたいな感じで歩いていく。

「ふんふ〜ん。可愛いだけじゃ…ってん?」

レノの目の前には謎のお店。

昨日も通ったけどこんなのあったかなぁ?

『なんでも売ります』の看板。

なんか地元のローカルCMにあったなぁ。

なんでも貸します…のやつ。

なんとなく惹かれてドアを開ける。

そおっと覗くと中には少し年上の男の人がいる。

うわぁイケメンだ…。

「どうぞ?」

「ひゃ!」

突然声をかけられて変な声が出る。

「ふふ。そんな驚かなくても。可愛いですね。」

か、可愛いだと?!絶対人たらしじゃん…。と思いつつも私は足を踏み入れる。

ぐるりと店の中を見回すと見慣れないものが沢山ある。

「本音薬に惚れ薬?こっちは魔法のペンに装着型声帯?」なにこれ。

「本音薬や惚れ薬はそのままの意味です。魔法のペンは手紙とかなかなか言葉が出ない時に勝手に手が進むもの。装着型声帯は自分の理想の声になるものですよ。」

いつの間にか後ろにいたお兄さんが説明をしてくれる。

「ほんとに効果あるんですか?」

信じられるわけもなくてつい聞いてみる。

「えぇ。もちろん。」

「ふ〜ん。」

うさんくさ。もう用はないかな。面白いけどね。

と思いドアに手をかける。

「お客様ならこれがおすすめですよ。」

ふいに声をかけられる。

振り向くとお兄さんの手には小瓶。

「なんですかそれ。」

怪訝な顔をして聞く。

「毒。です。」

透明な瓶を優雅に振る。

ちゃぽちゃぽと揺れる水面も透明。

「は?」

「毒と言ってもあなたの願いを叶えてくれるものですよ。あなたの望む性質に切り替わり飲んだ人に影響を与えるものです。」あなたは闇深そうなのでね。

と笑う男にさらに不信感が募る。

「気持ち悪っ。」

もういいや。ドアにもう一度手をかけるが後ろからまたお兄さんの声が聞こえる。

「いいんですか?あなたの思い通りですよ?例えば…彼氏さんとか。」

ドアを開く手が止まる。

「あんた…なんで…。」

「なんとなく…。ですよ?お客様みたいなタイプは往々にして彼氏さんへの不満を抱いているかと思いまして。」

少し心が揺れる。彼氏への。みーくんへの不満。

「でも毒なんて…。」

なんとか持ち直そうとする。

いくらみーくんに不満があっても毒なんて盛りたくない。死んじゃうかもしれないし。

「毒という名前がついているだけですよ。毒も飼い慣らせば薬になりますしね。毒も薬も紙一重。毒は薬に薬は毒に。ですよ。」

「そ、そんなの信じられない。」

「そういう方多いんですよね。でもこのまま放って置いたって貴女の不満は一生解決されませんよ?」

痛いところを突かれて心拍数が上がっていく。

ここにいちゃいけない。丸め込まれる。

そう思って走って店から出る。

「貴女は絶対戻ってきますよ。」

そんな声が聞こえた気がした。


はぁ。はぁ。

気がつくと目的地であるド〇キに着いていた。

息を落ち着けながらぬいぐるみ売り場へ向かう。

「これすんごい可愛い〜!えっこっちも!うーん迷う…。」

みーくんに相談しようかなぁ。

連絡アプリを開く。

そこには相変わらず返信がない私のメッセージ。

もし今送って返信来なかったら?

それどころか既読スルーされたら?

様々な妄想が頭をぐるぐる渦巻いてしまう。

耐えられない。ド〇キで絶対泣いちゃう。

「自分で決めよ。」

ぽつりと呟いて他のSNSを開く。

「あ。」

そこにはレノの高校時代の友達のストーリーがあった。

「えー、なこも彼氏いるんだ…。」

誕生日!ありがとう!と書かれたそこには高いデパコスと高い靴のブランドの箱と彼氏が並んでいる。

全部彼氏に誕プレでもらったんだ…。

なこちゃんが彼氏に靴を履かせてもらう図が浮かぶ…。まるでシンデレラじゃん。

そう思った瞬間に頭の中で何かが切れる音がした。

みーくんはなんでレノにそういうことしてくれないの?!

他のものには沢山お金使う癖に全然レノには使ってくれないじゃん!

安っぽい女だと思われてるの?!

ずっと未読スルーとか既読スルーするし!

もう嫌い!大嫌い!

レノだってお姫様扱いされたい!

レノが1番だよ。レノしかいないよ。って言われたい!

なんでレノは幸せになれないの!辛いよ…。

みーくんも同じぐらい重くなればいいのに!

どんだけレノがみーくんのこと好きで好きで苦しいか分かればいいのに!

ぬいぐるみも買わずに足は勝手に歩き出していた。

向かう先はあそこだ。

少しずつ歩く速度が上がっていく。

この気持ちが落ち着く前に着かなければ。

またなにも変わらずになぁなぁになっちゃう。

ドアの前につき深呼吸をする。

ドアを開けようとした瞬間勝手にドアが開いた。

「おや。またお会いしましたね。」

男は妖艶に笑っていた。

驚いてたじろぐレノに男は続ける。

「これを買いに来たのでしょう?」

上手く言葉が出ない…。

こくこくと頷くだけしか出来ないけど男は満足そうに笑った。

「では説明するので中へどうぞ。」

さっきとは違う気持ちで足を踏み入れる。

もう戻れない。

「これは。貴女の願いに応じて性質が変わります。

まずは願いを強く思いながらこの瓶を持ってください。」

「はい…。」

そっと瓶を手で包む。

「みーくんがレノだけを見て、お姫様扱いしてレノのことで病んじゃいますように」

願った瞬間瓶が発光し出す。

「まぶしっ。」

「手は離さないでくださいね。」

言われた通りにすると徐々に発光は治まっていき透明だった中の液体はピンク色になっていた。

「可愛い…。」

つい思ったことが出てしまう。

「これで完成です。あとは飲み物に混ぜるなりなんなりして相手に飲ませてください。」

「そんな簡単に…。あっ。」

大切なことを忘れていた。

「お金!いくらですか?」

手持ちいくらあったかなぁ。クレカ使えるかなぁ。

とカバンをゴソゴソ漁る。

「代金は結構ですよ。」

「え?」

「代わりに…貴女がいらない感情をください。」

私の胸を指さして言う。

「感情?」

「えぇ。この店ではそれぞれの商品に応じたものを代価として頂いているんです。装着型声帯ならば声の1部…とかね?」

「いらない…感情…。」

「そんな難しい顔をしないでください。喜びとかの感情でなくてもいいんです。悲しみとか怒りとか寂しいとか自分がいらない。なくなればいい。と思う感情で構わないのです。」

いらない。なくなればいい。じゃあ病みを消したらこれからは苦しまなくて済む?ってこと?

「じゃあ病みでもいいの?」

おずおずと聞くと男は少し驚いた表情をした。

「えぇ。構いませんが…。」

何か問題でもあるの?

「いえ。なんでもありません。それでは病みの感情でよろしかったですか?」

「はい!」

複雑そうな顔をしたままお兄さんは私の胸の辺りに手をかざす。

「熱っ!」

胸の当たりが光りだして内側から焼かれるように熱くなる。

ズズ…。

少しずつ何かが引っ張りだされていく。

「ぐぅ…あっ…。」

一際大きい熱が来たあと急にそれが引く。

お兄さんの手には大きい赤いモヤモヤとしたものがある。

「結構多めでしたね。大丈夫ですか?」

「はい…。」

少し胸の辺りが軽くなった気がする。

これが病みが消えた感じかぁ。

みんな楽に生きてるんだ……。

「ではまたどこかで会えたら……。」

お兄さんが恭しくお辞儀をして見送ってくれる。

ドアをばーんと開く。

心が軽い!

手に持った小瓶なんて使う理由あるのかななんてもはや思ったくらい。

まぁでも買ったなら使わなきゃ損かな?

ちょうど明日お泊まりの予定だし愛は重いに越したことはないか!

るんるんスキップしながら帰った。


翌日になってみーくんが来た!

コーヒー飲む?とかいいながらキッチンまで来た。

瓶どうしよう?ちゃぷちゃぷ振りながら考える。

変な味とかしないかな?てかやっぱり入れなくたって……。

……考えててもしょうがないか!

えい!と彼のコップに注ぐ。

バレてないかヒヤヒヤした……。

何食わぬ顔で持っていく。

みーくんが口をつけるまでをドキドキしながら見つめてしまう。

「レノどうしたの?」

「ううん!みーくん今日もかっこいいなって思ってさ!」

何それと笑いながらみーくんはコーヒーに口をつけた。

止めた方が良かったのかな。

1時間、2時間、3時間と時間が経つ。

みーくんの様子は変わらない。

なーんだ偽物掴まされたのかな……。

レノが病まないのもプライバシー?違う違うプラシーボ効果……とか?

みーくんがお風呂に行ってる間にむむむと言いながらスマホで検索する。

それは突然だった。

「レノ……誰かと連絡とってるの?」

ぐぅという重さが背中にかかりみーくんがスマホを覗き込もうとする。

「な、なんでもないよ!」

なにも後ろめたいことはないけど驚いてしまって狼狽える。

「怪しい。」

今までみーくんこんなこと言わなかったよ!

頭をぐりぐりとしてくるみーくんの頭を撫でながら思う。

もしかして……。

「俺にはレノしかいないから他の人とと連絡取らないで。」

きたぁぁぁぁ!

薬本物?!まじで?!

ニマニマとした笑いが止まらない。

「何笑ってるの?」

むすぅとした表情で聞いてくるから可愛くて仕方がない。

「ううん!可愛いなぁと思って!珍しいじゃんそんなこと言うの。」

「だめなの?」

「全然!」

嫉妬されるのもやっぱり悪くないじゃん!

その日はその後も拗ねてるみーくんを撫でて幸せな気持ちで寝れた。

次の日もずっと離れてくれないみーくんとか帰りたくない離れたくないって言うみーくんにデレデレが止まらなかった。

やっぱり薬使って良かった〜!


なんて思ってた。

しんどくなってきたのは3日目から。

位置共有アプリいれよって言われて考えもせずいいよって言ったらすごい頻度で連絡が来るようになった。

「ねぇ今何してるの?」

「誰といるの?男?」

「なんで返信してくれないの?」

少し、ほんの少し返信が遅れようものなら鬼電。

なんでそれぐらい待てないの?ってぐらい。

イライラする。

そして束縛も酷くなった。

・男の連絡先消して。(仕事関係も)

・どっか行く時は逐一LINEして。

・俺の前以外で楽しそうにしないで。

簡単にあげただけでもこんな感じ。

疲れた。そこまでしなくても良くない?って言うと

「俺の事好きじゃないんだ嘘つき。」

って言う。

前のレノでもこんなに酷くなかったよ!

昨日ついに

「一緒に住も。嫌なら俺どうするかわかんないよ。」

どうするかわかんないって何。

死ぬ〜とかそういうこと?!最悪だるっ。

「私はまだいいよ。ひとりの時間欲しいし。」

「そっち行くから。」

は?めんどくさ。みーくんそんなんじゃなかったじゃん。

レノもそんなことしなかったし。

ピンポーン

スマホをポチポチしているとインターホンが鳴る。

ほんとに来たんだ。

「はーい。」

やばっ思ったより面倒くさそうな声出ちゃった。

ドアを開けると虚ろな目のみーくんと目が合った。

あ、やば。

その先は記憶が無いし。


なんでこうなったんだろ。

こんなはずじゃなかったのに。

私はただ()()()()で愛してほしかっただけなのに。

あの薬のせいで。最悪最悪最悪最悪!

その時食器棚の中の瓶と目が合った。


そこには『毒』と書いてある。


「毒も薬も紙一重。毒は薬に薬は毒に。ですよ。」

そこで私は気づく。

そうか私が使ったのは『薬』ではなく『毒』だったんだ。



ー書斎にてー

「なんであの方は病みの感情をくださったんですかねぇ?」

私は瓶を振った。

「あの方は自分と同じ熱量で愛されたかった。でも病んだ状態で毒を作ってその後にご自身からその病みを抜くなんて。そこでズレが起こってしまうこと、気づかなかったのですかね。ましてやあれは『毒』なのに。」


問.毒は(やみ)を制するか。


閲覧ありがとうございます。

後味悪くできたでしょうか。

病みであり闇。

あなたはどう考えますか?

またお会い致しましょう。

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― 新着の感想 ―
∀・)軽い文体だけど重い内容。 ∀・)興味深く読みました。 ∀・)そういう一品ですね。
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