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をろち

〈花虻の罪のなさ見る路傍かな 涙次〉



【ⅰ】


 カンテラ「あゝ、行つてらつしやいよ、たまには【魔】の臭ひを落としに」

 悦美が、大學時代の同窓生・親友と二人で、一泊二日の温泉旅行に行く、と云ふ。オフ期間でもあり、カンテラに止める理由はない。

 友人の名は、中出志穂子(なかいで・しほこ)。職業は、中學校の家庭科の教諭(大學では家政科に、彼女らは所属してゐた)である。學生のみぎり、互ひに教職課程を採つたのだが、先生になつたのは彼女だけで、悦美は今や雑誌のグラヴィアを飾る有名人である。

 

 名前のせゐで、中出の中學校での仇名は、「中出し」先生、であつた。その言葉の意味を充分に理解してゐるとは云ひ難い、ティーンたちがさう云ふのは、別に彼女には苦ではなかつた。寧ろ、微笑ましいとさへ、思つてゐたのである。性に憧れる頃、と云ふのは、そんな物だわ。さう思ひ、彼女はそのニックネームを受け容れてゐたのだ。因みに彼女は獨身、である。



【ⅱ】


 帰ると、悦美は荷物をどさつと投げだした。「おや、樂しめなかつたやうだね、顔に書いてある」とカンテラ。

 悦美、膨れつ面で、「サイテーよサイテー。『【魔】の臭ひを落とす』どころか仕事(ヤマ)直結だわ」カン「?」


 彼女が話したところによると、かうだつた。



【ⅲ】


 初めの内は、樂しい水入らずの温泉、だつたらしい。美味しいものを食べて、お酒も少し飲んだわ...と、悦美は切り出した。

 だが、いざ散會、となつて、彼女・中出は、寄る場所がある、あなたもどう? と云つてきた。「あちやあ、宗教かしら」悦美にはピンと來たのだ。「あなたもどう?」と云ふのは、大抵は宗教勧誘の言葉と受け取つていゝ。

 訊けば、全くその通りで、「サイコ・セラピストでもある、夢田先生のレクチュア、聞いてみないこと?」くはゞら、くはゞら。だが、悦美には、中出が何故宗教に走つたか、理由を知りたい氣持ちもあつた。そこで、危険? を覺悟のうえ、彼女に付いて行く事にした、と云ふ。



【ⅳ】


 だうやら、レイプ未遂體驗から、その夢田と云ふ女性セラピスト? に救はれたらしい。中出し、と云ふニックネームから、誤解が生じた。付き纏ふ男が、出てきたのだ。「センセー、俺にも中出し、させてくれよ、ぐひゝ」下品極まりない男。総毛がよだつた。

 つひに、その日は來てしまつた。警察に「付き纏ひ」の相談をしたのだが、例の中出し、の件で、「貴女にも責任の一端はあるんぢやないの?」と、取り付く島もない。結果として彼女は、その男を、殺した。庖丁でめつた刺しにした、と云ふ。

「ガンと來たわよ、その告白には」悦美、ぷりぷりが止まらぬ。

 だうやら、夢田は、却つて(自分の犯した殺人のせゐで)窮地に立つてしまつた、中出に優しく、「そんな場合の切り拔け方」-証拠の隠滅の仕方、警察の追及の躱し方、などアドヴァイスしたらしい。


「それで、その夢田なる自稱・セラピストには會つたの?」とカンテラ。彼はまだ外殻(=カンテラ、ランタン)の中にゐる。「會はなかつた。適当に理由つけて、その場を逃げ出したわ」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈夢ん中足掻けど足掻けど進めずに足切り離す夢の不思議よ 平手みき〉



【ⅴ】


 カン「ふむ、カネは警察揺すれば、降りてきさうだな。じろさんに頼んで、仲本さんにこの話、リークしやう」悦「ほらやつぱり、仕事でせう。わたし、これで一拔けだわ」カ「あゝ、もう休みなさい」


 仲本尭佳(なかもと・あきよし)は、警察官僚。じろさんとは大藏省時代からの、腐れ縁である。いつも、警察関係の相談は、彼にしている。仲「カネ、ね。明らかに警察の出方にミスがあつたんだから、口止め料ぐらゐは、出るんぢやないの」じ「サンキュウ。あんたにも幾らか回すよ」


 さて、夢田なる女、【魔】に違ひはあるまい。斬る、か。カンテラは、さう心に決めた。



【ⅵ】


 悦美は、ぶうつく云ひながらも、協力してくれた。電話で、中出に、「夢田先生には何処で會へるのかしら」と訊いたのだ。彼女の事務所、なるものがあり、そこで會見と相なつた。

 カンテラ・じろさんコンビ、さつそくそこへ出向いた。


 會見出來るのは、女性だけです。さう云ふ秘書をまづじろさんが捕縛した。「あんたも、不埒なボスを持つて、運が惡かつたな」とじろさん。


 カンテラはドアを開けた。すると、大蛇がそこにとぐろ卷いてゐる。「夢田、正體見たり!」。カンテラ太刀を拔き、「しええええええいつ!!」をろち退治は一瞬にして濟んだ、との事である。お仕舞ひ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈春荒のをろち呼ぶなり道成寺 涙次〉


  

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