閑話休題 海辺にて
「──ったく、心臓破裂するかと思ったよ。訴訟だの裁判だのって、さっ」
男は、そこらにあった石を手にする。海へ向かって水切りを試みた。三度程跳ねたのを目にして、見た!?と喜んだ。
それに頷いてから、青年は返事をする。
「お金のことは相当気にしましたよ。どう払おうかなって。……あそこで同意していたら、今頃どうなっていたんでしょうね」
漁船にでも乗っていたのかな、なんて呟いた青年は、先程受け取った貝を撫でている。
柔らかい風がオレンジ色の髪の毛を撫でて、ふわりと揺れた。
「あの時さあ、すごい泣いてたな」
「それ、忘れてもらえますか」
食い気味に不機嫌そうな声が返ってきて、男は笑う。
「ばーか。忘れらんないよ。俺にとっては、やっとスタート地点に立った日なんだから」
男は立ち上がり、伸びをする。対して、青年はしゃがみ込んで、海と戯れ始めた。
「にしても、そこからどんどん進んでいったのは、今でもびっくりしてるよ」
「そうですね」
「お前も丸くなったしなあ」
「そうですか?」
「だって、その後さあ──」
男も同様に、隣へしゃがんで海を見る。話が始まると、無表情だった青年は途端に苦い顔をして左隣を睨んだ。
それを見て男は声を上げてまた笑った。