それぞれの花
うちはそこそこ広い。
管理が大変だからって若者に大きめの家は当てられるらしい。空き家になったらね。
元はシゲさんと言う方が住んでたんだけど、
島を開拓に行ってそこに住んでるとか。
ダーッシュ!
で、翼さんも自宅を引きはらってここにいる。
この騒ぎでも寝てるのは流石だ。
閑話休題。
ウチで1番広い部屋と隣りの部屋襖を外して繋げて
それでもぎゅうぎゅうに村人たちが入ってきた。
(田舎の座敷といったらわかるかな。)
女神様は上座で椅子に座ってらっしゃる。
畳だけどね。
「では、以前ここが神殿だったのですか?」
「そそそ。」
では今の神殿を移転させなきゃなあ、って。
おい。ここに住んでんだぞ。
「それで貴女様が起きられたのは。」
「昨日。」
「…その額の球を拝見すると、5番玉様で宜しいでしょうか。」
この人はレディアンさんのお父さんだ。
1人娘が嫁いだから夫婦ともに移住してきた。
役所のお偉いさんみたい。毎朝通勤している。
「そうね。」
女神様がサークレットを外しても、水晶玉はそのまま残ってる?枠だけなの?
ええ!額に玉が埋め込まれてるの?
えっ、ついてるの??ええ?
「この花びらの数。五枚。」
女神様が額の玉に触ると眩しい光が満ちた!
おおおっ。すげえ!第三の目みたい!
カッコいい!
良いなあ、欲しかったなあ。
「なんだい、今の光は?」
翼さんが奥から出てきた。
「め、女神様!?」
「わかるの?」
「この国は女神信仰すごいだろうが!どこに行っても女神像だらけだろっ!
…ご、ご、5!」
「ひろみ、ごー?」
「5枚の花びら!!5番目の!」
ふっ、
女神様の目がこちらを見すえた。
「女神さまは八人いらっしゃる!
それぞれ額の玉に花びらが一枚から八枚あって、
8番めの女神様が目覚めると、
この世界は滅びると言われてるんだよっ!!」
ふふん。女神様が冷たく笑った。
「随分な良いようだ。我だって好きで
目覚めたわけではない。」
「温暖化の影響か?それが万年氷を溶かして??」
そう言いだしたのは日本人グループだが、
この世界ってさ、
魔力でまわってるからあまりそういう奴では
ないのでは?
「いきなり氷が溶けて目が覚めたのだ。
本当ならティルクスが起こしに来るはずだったのだよ。」
「そのように聞いております。」
渋い声と顔のレディアンパパ。
ヴォルトさんと言ったかな。
「誰もいなくて。仕方ないから自分で探しにきたのだ。
それに。
いつからか、眠っている間にもチラホラ夢で
1番玉、2番玉と
繋がっていたのに彼女らの気配もないのだ。」
それは、由々しき事ですな。
みんなの顔が曇った。
「?」
「君は何もしらないのか、テル。フエルドラドの国民なら知ってることばかりだ。」
「だってこっち来てからずっと働きづめですし。
この街の外にもろくに出てません。」
「翼。何にも教えてないのか?こっちに60年もいたんなら、詳しいだろう。」
「年寄りにそんなに期待されましてものう。
何もできなかった子供に家事を仕込むのがせいぜい。」
「うち、洗濯も料理も掃除もお母さんがやってくれてたから。」
「ああ、もう!母親のことを外でお母さんと言っていいのは、小さい子供まで!
母が、と言いなさい!
陽司、お前は魔法しか教えてなかったのか?」
「ヴォルトさん。」
「今度からうちに色々習いにきなさい。
役所も再雇用になったから、自由がきく。
とりあえずコレを読め。」
そこには
しんわ・フエルドラドむかしばなし。
どこから出したの?この絵本。
ああ、忘れてた。この世界は収納魔法があるんだ。
便利だなあ。
「どれどれ?
我も自分のことがどのように書かれているか、
興味ある。」
ふわり。
いきなり横に女神様が移動してきた。
わあ、いい匂い。
それに宙にういてるよ。
(むかーしむかし。この世界は
2人の神様がおつくりになりました。
夜の神 ティルクス・ディアさま
光の神 ルイフェリナ・ディアさま)
美男美女が手を握っている。
国産み神話だな。
(ある日、風の神 エアリーさまが
あばれて大地がめちゃくちゃになろうとしました。
その時、ルイフェリナさまはまきこまれ、
砕かれ、
八つの玉になりました。)
八犬伝見たいに玉が光って宙にういてる。
館山城に家族で行って見たんだ。
おじいちゃんたちが懐かしい、懐かしいと泣いていた。
違うのは字ではなくて浮かぶのは
花びらだ。
(1番玉はハーテイさま。
2番玉はセルデイさま。
3番玉はサーデイさま。
4番玉はフォステイさま。
5番玉はゴーデイさま。
6番玉はローライさま。
7番玉はナーテイさま。
8番玉はオクテイさま。
それぞれ同じ姿の8人の乙女となり、
1人ずつティルクスさまに
仕えられることになりました。
他の方は氷の中で眠って
この世界の平和をいのっておられます。)
「え?順番に?」
「つまり、1番目の女神がはかなくなったりすると、次の女神を、男神が起こしにくる。
という事ですよね?」
そんな?
アヤナミ?
スペア?
クローン??
「つまりね。私たちは皆同じものなのよ、
寝ていてもある程度の意識は共有しているの。
それが切れてしまって。」