昼休みの屋上で。
学校の屋上からグラウンドを見下ろす。
「......人がゴミのようだ」
一度は言ってみたかったセリフだ。
でも、この高さからだと残念ながら人と認識できてしまう。
「まあ、人なんてゴミみたいなもんか」
「随分と、強い言葉を使うのね」
後ろから吹いた風が、誰かの声を運んだ。
「っ、誰!?」
振り向くと、そこには見覚えのない少女がいた。
同じ制服を着ているから、この学校の生徒なのは間違いないだろう。
「はじめまして、こんにちは。三年の佐々木琴音よ」
三年。僕の一つ上、先輩だ。
「......佐々木先輩は、どうしてここに?」
「昼休みはいつもここに来るの。珍しく先客がいたからびっくりしたわ」
「そうだったんですね。昼休みの邪魔をしてすみません、失礼しますね」
すぐに屋上から去ろうと佐々木先輩の横を通り過ぎると、突然左手を掴まれた。
「あら、どこに行くの?」
「きょっ、教室に戻ろうかと思って」
女子の手に触れたことなんてない僕の心臓は、ものすごいスピードで震え始める。
「あなた、昼ご飯は食べた?」
「いや、まだですけど」
「弁当か何か持ってきてるのかしら?」
「いや、いつも食堂で食べてますけど」
「なら、ちょうど良かった。はい、これ」
掴まれていた手が離されたと思ったら、次の瞬間には何かを握らされていた。
「えっと、これは」
「わたしの手作り弁当よ。今日はお腹が空いていないから、代わりにあなたが食べてちょうだい」
「え、それは流石に」
「弁当包みと弁当箱、ちゃんと洗って明日の昼休みにまたここで返してね」
そう言い残して、佐々木先輩は学校の中へと戻って行った。
「どう? 美味しかった?」
「あ、はい。すごく美味しかったです」
翌日の昼休み。言われた通り、洗った弁当箱を佐々木先輩に返しに屋上へとやって来た。
弁当包みも洗おうと洗濯機に放り込んだのだが、乾く時間を失念していた。昨晩は雨が降ってしまったのもあって、全く乾かなかった。
「じゃあ弁当包みは明日返してちょうだい」
佐々木先輩は気にした様子もなく、そう言った。
そして、再び俺の手元に包まれた弁当が置かれた。
「あの先輩、これは?」
「今日の弁当、あなたの分ね。今日は二つ分用意してきたから」
「いや流石に2日連続で貰うわけには」
「いつも食堂で食べる時、お金はどうしてるの?」
「親から貰ってますけど」
「いくら?」
「五百円です。日替わり定食がちょうどその値段なので」
「じゃあその五百円、私にちょうだい」
「え、いや」
結局、言われるがまま五百円玉が財布から抜き取られた。
その日以降、毎日先輩は五百円と引き換えに僕の分の弁当も持ってくるようになった。
「先輩はどうして屋上で弁当を食べているんですか?」
屋上で先輩と弁当を食べるのが当たり前になった頃、僕はそんな質問をした。
「......私は出来るだけ高いところで死にたいの。周りの人間達がゴミのように見える、高いところで」
先輩は立ち上がって、グラウンドを見下ろす。
「でも、ここじゃまだ人間に見えちゃう」